第1章「めざめ」 4-2 裏街道(仮)

 そんなものがあるなんて、何度もタッソとダンテナを往復してきた彼らも、初耳だった。

 しかも、余所ヨソ者であるはずのストラが、どうして知っているのか。

 もちろん、周辺探査で知ったのであるが。


 「ちょっと遠回りですが。こっちです」

 云うが、ストラは沢の後ろへ回り、ガサガサと藪へ入ってゆく。

 驚愕していた四人も、急いで続いた。


 藪をしばしかき分けていると、森の中に忽然と、獣道よりやや広く古く荒れているが、明らかな街道が出現した。


 「すごい、こんなところに、こんなものが……!?」

 「よく知ってましたね!」

 密使二人が驚愕して、ストラへ声をかける。


 「推測ですが、旧街道、もしくは本街道を整備する際に使用された工事用街道、またはダンテナ~タッソ間をつなぐ裏街道と思われます」


 「なんだっていいでやんすよ! さ、急ぎやしょう!」


 森の中に入り、エルフのプランタンタンの歩きが俄然、快調となる。逆に、ベンダとアルラン、そしてペートリューが遅れ始めた。なにせ長年整備されておらず、木の根や石、岩、倒木などで非常に歩きづらい。


 さらに、


 「警告、未知の二足歩行騎乗生物に乗ったエルフの兵士10名が、この裏街道(仮)を凄まじい速度で下ってきます」


 それには、プランタンタンが震え上がって振り向いた。

 「グラルンシャーンの追手でやんす!!」

 「なんだって……!?」

 息を切らせながら、ベンダがプランタンタンを見やる。


 「エルフは、この隠し街道を知っているのか!」

 「い、いや、あっしは知らねえでやんす……」

 「いったい、どういうつもりでしょう!?」

 アルランが、ストラへ不安げな表情を向けた。


 「進行速度からみて、おそらくこの裏街道(仮)を利用して、本街道を進んでいると推察する私たちを追い抜き、先回りして、代官の兵士と挟み撃ちにする作戦と思われます」


 「そうなったら、一巻の終わりでやんす!!」

 と、叫びつつ、プランタンタンが口に手を当て、すぐにとり繕うように、

 「い、いや、でもストラの旦那なら……この程度は……でやんすよ……ね?」


 当然だと云うまでも無く、こんな歩兵や騎兵、しかも原始武器装備の数十単位の襲撃など、ストラの敵でもなんでもない。が、いまは民間人が四人、近接している。自由行動中は、少なくとも随行人員防衛を優先する必要がある。


 「もう少し行ったら、大きな岩石があります。みなさんは、その後ろに隠れて下さい。岩石を遮蔽物として利用し、戦闘の影響を避けてください」


 「ここで、旦那がおひとりで迎え撃つんでやんすね!? さ、さ、行きやしょう! 旦那の邪魔にならねえようにしないと!」


 云うが、すごい速度でプランタンタンが走り出す。

 「ま、待て……!」

 「あいつが逃げたいだけじゃないのか!?」


 密使二人、あわてて後に続いた。

 その後ろに、緊張と恐怖で汗だくになったペートリューが無言で続く。

 最後に、ストラが走った。


 そして、山道を200メートルほども進むと、確かに裏街道へせり出すようにして巨大な岩が鎮座していた。街道は、そこを迂回している。


 一足先に到着し、隠れていたプランタンタンが息せき切る一行を迎えた。

 「こっちこっち! こっち側から回りこめるでやんす!」


 回りこめると云っても太い木の枝が張りだしており、三人が苦労して枝を屈みこみ、膝上まで伸びる下草をかき分け、苔むした大きな岩の後ろへ回る。そこは急斜面になっており、あやうくペートリューが足を踏み外して滑り落ちそうになった。


 「危ない!」

 アルランに腕をつかんでもらい、命拾いする。


 斜面と大岩の隙間に潜りこんで、なんとか身を隠した。プランタンタンはサルみたいに岩肌を四つ足で歩き、苦にもしていないので、三人は目をむいた。


 震える手でペートリューが真鍮の水筒を出し、ゴクゴクとワインの絞りカスより造った焼酎グラッパを飲んだ。


 それを岩の端から見て、プランタンタンが呆れて嘆息した。

 それはそうと。

 「ッ……だ、旦那! き、来やがりやあしたぜ!」


 岩陰の中腹より顔を出し、プランタンタンが叫んだ。森の中の細道を、竜騎兵が一列になって走ってくる。すごいスピードだ。


 「旦那!」

 「わかってる」

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