第1章「めざめ」 3-6 旦那の口癖
「本当なんです! ずっと隠してたんですけど……ここにきてから、仲間とうまくいかなくって、どんどんお酒の量が増えて……ついに、領主様に報告されて、クビになりました。もらっていたお給金も、二日でなくなっちゃって……」
「まさか、ぜんぶ飲んじまったんでやんすか?」
「はい」
「そんな、バカな」
「本当です……」
プランタンタンは呆れてしばらく絶句していたが、
「で、あっしらに、なにを? あっしらも、これから金を頑張って稼ごうってところで、貧乏でやんす。恵んでやる金なんざ……」
「そ、そうじゃないんです! あの……よろしければ、あたしもお仕事の仲間に……」
「へえ!? 魔法も碌に使えねえあんたを!?」
「す……少しは使えます。あの……うまく、お酒の量を調整すれば……」
「酒の量を!?」
「はい……あの、一人じゃダメなんです! 際限なく飲んじゃって……誰かに……あ、あの、こちらの剣士様のような、厳しくお強い方に、戒めてほしいんです!」
「ハアあ……!?」
プランタンタンがストラを見やる。権限は、ストラにある。
「いいよ」
ペートリューが手を合わせて微笑みを浮かべ、プランタンタンは肩を落とした。
「ま……物好きなのが旦那の良いところで。あっしのようなのを、従者にして下さるんですから」
云いつつ、
「あっしはプランタンタンってえ、けちなエルフでやんす。こちらは、ストラの旦那。あっしの、命の恩人でやんす」
「ペ、ペートリューです」
ペートリューが、立ち上がってストラへ会釈をした。
「さっき聞いた」
「あ、ハイ」
「ペートリューさん」
「ハ、ハイ!」
「あなたはもう、エタノール受容に関連する脳神経系統が完全に異常をきたしており、この世界の医療設備及び治療環境では、回復は非常に難しいと推察されます。従って、脳報酬系が適度に働く程度のエタノール摂取で、いわゆるまともな判断、行動がとれると判断します。その摂取量は、私のほうで解析、指導できます。また、いざとなれば、大気成分および周辺有機物よりエタノールを合成して皮膚より強制投入します。どうぞよろしく」
「????????」
ペートリューがアタマの上に?を並べてひきつった笑いを浮かべ、次にプランタンタンを見やったが、プランタンタンは、
「気にしねえでくださいやし、旦那の口癖なんで」
「は……はあ」
「じゃ、さっそく昼すぎに、ゲーデル山羊製品卸商組合に行くでやんす。護衛の仕事を、請け負えるかもしれやせん。一日50トンプで提案しやしたが、ペートリューさんの分を加えると……そうでやんすね、55から60トンプにできるかどうか、交渉いたしやしょう。でも、断られたら、申し訳ねえですが、ペートリューさんの取り分は減るでやんす」
「え、ええ! それは仕方ないです……あたしは、お酒が飲めれば……それで」
もともと奴隷階級で酒なんか飲めない身分であったことにくわえ、体質的にも酒になじめないプランタンタンは心底呆れて、
「酒なんざあ、そんなに飲みたいでやんすかねえ」
アルコール依存症は、飲みたいとか、飲みたくないとか、そういうレベルではない。飲まずにはおれられぬ。飲まないと死ぬ。そして、飲んでも死ぬ。脳が壊れる。医学的には、根治せぬ。そういう、恐ろしい病気だ。
この世界のこの時代、食事は一日二食であり、三人は少し宿で時間をつぶした後、組合へ向けて出発した。
そして、先程ケペラン達から因縁をつけられた通りを歩き、そのまま組合の建物へ向かう。
ストラの三次元探査は、自分たちを中心にして、複雑に尾行や先回り、そして行ったり来たりでつかず離れずに取り巻く複数の者たちを確認した。
三人は、何事もなく組合の建物へ到着した。
「あ、どうも。約束通り、昼過ぎに来たでやんすよ」
ドア鈴を鳴らしながら入ってきたプランタンタンを、笑顔の組合幹部連が出迎えた。もちろん、尾行していた若旦那の報告を受けて、のことだ。
ストラが異様な強さで、ケペランの護衛の兵士エルフを細腕一本で地面に転がしたという事実に、みな勇気づけられた。
が、先程まで二人だったのに、いきなり一人増えていたので、それには戸惑った。しかも、
「……あ、おまえ! いっつも通りで飲んだくれてる女じゃないか!?」
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