第1章「めざめ」 2-1 宿探し
ストラは、周囲の景色にもまったく関心を示さずに、ただぼんやりを通りを行き来する人々や動物をその鋼色の眼で見つめていたが、とっくのとうに町全体を三次元探査していた。地形から町の地図から、何から何まで一瞬で把握し、記録する。
(人口、私とプランタンタンを除いて875人。複数の人類系種族を確認。いわゆる地球人類に近く人間と仮定する種族が最多、821人、プランタンタンと同じエルフなる種族、36人。家畜と思わしき生物、大小合わせて2,547 頭。私と同系統及び類似の戦闘兵器、無し。そのほか、戦闘兵器と思わしきもの、無し。ただし、超古代兵と同様の原始的手持ち武器により武装した兵士74人を確認。また、未知の素粒子を肉体に溜めこんでいる未知能力の人類を3名確認。種族は、全て人間(仮))
それらがどこの建物に何人いて、何をしているのかまで、把握する。さらに、
(未知素粒子を未知理論及び未知技術により変換したと推測されるエネルギー凝縮体を確認。量は、約1キログラム。仮テトラパウケナティス状態に類似……)
「……な、旦那」
プランタンタンに揺さぶられ、
「なに」
「行きやしょう」
「うん」
表通りから外れ、プランタンタンは裏通りへ入った。さらに町はずれに行くと、エルフとの交易品を買い付けにくる商人のさらに使用人や下人などが利用する、非常に安いドヤ街のようなところがある。そこなら、プランタンタンも目立たないし、むしろ居心地が良い。もっとも、タッソに荷運びや荷物持ちで連れてこられた際は、いつも森の中で野宿させられていたので、利用したことはないが。
逆に、ストラが少し目立った。ストラはどう見てもプランタンタンの主人だったし、旅の自由剣士だとしても、帯剣を許されている身分の者が来る場所ではない。
とはいえ、中にはワケありの剣士や元騎士などがいるのも事実であり、みな見て見ぬふりをするのが常識だった。
(えーっ……と、どこが安くていいんでやすかね……)
細い通りに、十件ほどの安宿がひしめいている。裏通りにも六件ほどあるし、少し行ったところにさらに四件ほどあった。プランタンタンがキョロキョロしていると、ストラが、
「こっちにしよう」
と、先を歩き出した。
「え……旦那、いいところを知ってるんですかい?」
「知らない」
「え、じゃあ」
「あっち、空いてるし、身体を洗う施設もあるよ」
「……!」
自分を気遣うストラに、思わずプランタンタンの薄緑の眼が潤む。
「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきやす……」
少し離れた通りの、四件が立ち並ぶ一角の小さな宿へ向かう。
その途中、一軒の宿からいきなり何者かがとび出てきて、通りに転がったのでプランタンタンが驚いて身をすくめた。
「出てぃきやがれ! てめえに飲ませる酒なんざ、もうねえッ!」
親父の大声と、ドアの勢いよく閉められる音が轟いた。転がっている人物を見やると、赤茶の長い髪をぐしゃぐしゃにした、臙脂に黄色い文様の入ったローブを纏った若い女だった。
(……魔法使いでやんすか?)
ローブは魔法使いの職能装束だ。それくらいは、プランタンタンも知っている。
(体内……というより、魂魄近接領域に、未知素粒子の貯蔵を確認。しかし低濃度。先程の探査結果を修正。同様の未知素粒子を貯蔵する人間(仮)は、4名。血中エタノール濃度が異常数値)
ストラも、女を分析。女はしばらく横たわったままで、通りを歩く者たちにも邪魔そうに避けられていたが、やがて膝に手をついてゆっくりと立ち上がると、見るからに千鳥足で歩き始めた。
「酔っ払いでやんすか……こんな早い時間から飲んだくれるなんざ、まあ、けっこうなご身分で……」
眉を細め、その後姿を見送ると、プランタンタンはストラの指定した宿へ入った。
とたん、その臭いと風体に、痩せた初老の女将が怒鳴り声を上げかけたが、その後ろのストラを見やってそれを我慢した。
「いらっしゃい」
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