第1章「めざめ」 1-5 時間の無駄
「……逃亡した奴隷は、斬首だ。見せしめのためにな。だが、お前は八つ裂きにして、ゲドルのエサにしてやる。それとも、蓑で巻いて火炙りがいいか!?」
鶏が絞め殺されたような音を喉からしぼり出して、プランタンタンが凄い力でストラのズボンをつかむ。なんとか、震える声を発した。
「だっ、だ、だ、旦那! 助けて、助けておくんなさいましよお!」
しかし、ストラは無言のまま、微動だにしない。
「フン……助ける気はないようだ。さあ、ゴミをこっちへ渡せ!」
「…………」
「おい!」
「…………」
「貴様、なんとか云え!!」
前の兵士とストラのやりとり見ていた後ろの二人が、竜上で顔を寄せあった。
「……言葉が分からないのか?」
「見たところ、リーストーンの人間でもなさそうですが……」
「時間の無駄だ」
後ろの二人のうちの一人は、三人の隊長だった。そいつが、サッと右手を上げる。
それを見やった兵士、大きくて分厚く幅の広い刀を抜いた。無言で
兵卒にとって、騎兵のこの頭上からの攻撃は死角になり防ぐのが至難なうえ、上に気を取られていると馬なり竜なりの蹴りも飛ぶので、非常に厄介だ。対騎兵装備の、長槍等で対処するしかない。
「敵対行動を確認」
ストラがスッ、と軽く歩を引いて半身になり、数センチの差で斬撃をかわしたときには、その振り下ろされた右手首を右手でつかみ、さらに身を捻って兵士を竜から引きずり落とした。
「!!」
しかも、顔から落ちた先には大きく尖った岩があり、エルフの兵士はそこにしたたか顔を打ちつけ……いや、ストラが凄まじい力で兵士を脳天からその岩に叩きつけた。
カボチャが割れるような音がして、血飛沫が散る。兵士は顔面から頭蓋の半分も砕け、即死した。
「な……!」
後ろの二人が、絶句した。
瞬間、いつのまにか拾っていた小石を、ストラが投げつける。対人ライフルもかくやという速度で小石が飛び、兵士の眉間をとらえた。後頭部に大穴をあけて
「…………!?」
隊長の顔面に、水でもぶっかけたように汗が吹き出た。
「……まっ、待て! 待て! 待て待て、待ってくれ! 逃げた奴隷を渡すだけでいいんだ! 攻撃したのは悪かった!」
ストラが、隊長へ氷のように冷たい視線を向けた。
「か、金をやる! 三日分の捜索費用なんだ! これでそいつを買う! だから……」
もう、頑丈な
「……どう……して……だ……!」
隊長も、前のめり竜から落ちた。
三頭の竜が、あまりの事態の速さに何事が起きたかとキョロキョロし始める。
「わーーーーーーッッ!!」
いきなりプランタンタンがわめき散らして駆けずり回り、石を投げつけ、木の枝を振り回して竜を追い払い始めた。竜たちは驚いて鳴き声を上げ、死んだ主人達を置いて一斉に森の中に消えた。
「…………」
竜がいなくなってから、息を荒らげていたプランタンタンが次にとった行動は、隊長を含めた兵士たちの死体を何度も何度も手にしていた棒で叩き、石を投げつけ、素足で蹴りつけることだった。
そしてようやく気が晴れたものか……棒を打ち捨ててグイグイと涙をぬぐい、満面の笑みで揉み手をしながらストラへ向き直って、
「いッッやああああ~~~~~旦那、ストラの旦那!! 旦那旦那旦那あああああ!! こっ、腰の物も使わず、グラルシャーンのヤロウの竜騎兵を三人も、アッ………………と云う間に、ぶっっっ殺してくださりやすとは!!!! このプランタンタン! 旦那に一生ついてゆきまっせええええええええーーーーッッ!」
ストラは簡易自衛戦闘モードを終了し、無表情でそんなプランタンタンを見つめ返した。
「さ、さささささ、さあ、旦那! この、こいつらの
「よくわかんない」
「わかんなくたっていいんでやんすよお! 旦那は! ゲシッゲヒッ、フェッヒャッヒャッヒャッヒャげっへっへっっシシ……!!」
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