第1章「めざめ」 1-2 ストラだよ
プランタンタンが、惚けた顔を闇の中に見せる。
「ところで、ここは、どこ?」
「…………」
闇の中、今度はプランタンタンが固まりついてストラをその薄緑に光る大きな眼で凝視。
「ところで、ここは、どこ?」
もう一度、問われて、ビクリと身をすくめた。
「えっ、へえっ! ええと、その、ここ、ここはでやんすね、グラルンシャーン様……じゃねえ、グラルンシャーンのヤロウの牧場の端からリーストーンへ抜ける、秘密の洞窟でやんして……」
「地名情報皆無。新規に認識します」
「へぇ?」
ストラが、広域三次元探査を行った。周囲十キロ空間を瞬時に次元測定するが、まったく知らない土地だった。
「認識終了。非作戦行動範囲内と認定。これより、自律型自由潜伏作戦行動を開始します」
「へ、へえ……」
ストラが立ち上がる。背丈は、メートル法でいうところの171センチ。対して、プランタンタンはその胸ほどの背丈なので、155センチ程度か。
「外にでましょう」
「え、へ、へえっ……さいでやんすか。ええ、ごいっしょに。ええ、けっこうでやんすとも。こちらでやんす。暗いですが……。旦那も、闇を見通せる眼をお持ちで?」
「はい」
「人間なのに?」
「人間……?」
「人間……でやんすよね? その……見た感じは」
「ええ、まあ。地球人類型外観を有しています」
「……? ま、魔法でやんすか?」
「マホーウ?」
「暗闇を見通す魔法とか……」
「マッホー」
「それに、あっしらゲーデル地方のエルフの言葉を、そんなに達者に……仲買人か何かで、ゲーデルに出入りしてやしたとか?」
「仲買?」
「え、ええ……」
「?」
「?」
二人はやや黙っていたが、ストラが、
「よくわかんない」
とぶっきらぼうに云ったので、プランタンタンは訳アリと感じて深くつっこむのをやめた。
「さ、どうぞ、どうぞどうぞ」
猫背で先導するプランタンタンの後ろに続き、ストラが歩き出す。身体は、問題なく動く。プログラムにもエラーはない。
そうして、しばらく無言で歩いていたが、沈黙に耐えられなくなったプランタンタン、
「ええ~~~と、その……よ、余計なこととは存じやすがぁ、その……お尋ねしても、いいでやんすか?」
「いいよ」
「旦那は、どうしてまた、あんなところで死……じゃなくって、寝てた? いや、寝てたっちゅうか……横になっておなりに?」
「よくわかんない」
「…………」
プランタンタンは眉をひそめて頭をポリポリとかき、しばらく考えてからまた口を開いた。
「旦那は、どちらからこの洞窟に? やっぱり、リーストーンから? それにしたって、よくこんなところをご存じでやんしたねえ」
「リーストーンというところではないです」
「えっ……じゃあ、どちらから?」
「よくわかんない」
「ええと……じゃ、どこへお行きになろうってんですかい?」
「よくわかんない」
だめだこりゃ。
だが、とたんに、プランタンタンの小狡い脳天が、フル回転する。
(そうか……この旦那はアレだ、ひっくり返ったときに、アタマをお打ちになったんだ。……ってえことは、腕っぷしが強ええかどうかは別にして、もし強かったら……使えるのか?)
ニンマリと闇に笑みを浮かべ、
「そういやあ、旦那のお名前をまだうかがってなかったでやんすが、もしよかったら……」
「ストラ。認識個体名称は、ストラだよ」
「ス……スト、ラ……シトラ? シュトラ?」
「ストラ」
「スぅ……トラの旦那、じゃあ、旦那はやっぱり、凄腕の剣士様で?」
「近接戦闘法は種々設定されていますが、光子剣を主装備とする点においては、剣士……そう定義してもかまいません。その通りです」
「…………っそ、それこそ、よ…くわかんねえでやんすが、剣士様なんですね? もしかして、その……ぶしつけながら、お強かったり……?」
「当該次元の主敵と未遭遇なため、現段階での比較認定は不可能ですが、さきほど簡易探査した範囲内では、私と同等及びそれ以上の戦闘能力を有する敵対兵器は、発見できませんでした」
「えっ、敵ナシ!?」
思わずプランタンタン、立ち止まって振り返る。
「い、いま、ここいらで敵ナシっておっしゃいやした!?」
「はい。同様意の認識でけっこうです」
また前を向き、口元へ手を当てる。笑いが止まらぬ。
(いよぉおッッっしゃあああああ~~~~~~! 脱出早々、ツいてるぜぇええええええ!! コイツをうまく使やあ、逃げおおせるだけじゃあなくってよお、か、金も稼げるってえ寸法じゃあ、あ~~りませんかあああ~~~~!?)
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