第1章「めざめ」 1-1 再起動

第1章「めざめ」


 1


 「げえっっへえっへえっへっへっへっへええ~~~ッッシッシシッシッシッシ~~~~!! 旦那旦那ダンナあああア~~~~、もしかして、死んじゃってやんすかああ~~~?? 死んじゃってやんすねよええ~~~~~~??」


 768,924,329 回目の再起動で、ようやくストラは外部情報を認識した。


 当該時空間に記憶されている言語情報を0.00000002秒で解析し、数値化して理解する。


 「いや~~~~あっしは運がよかったでやんすよ~~~~、さっそく旦那のような立派な剣士のにお会いできて……このごりっぱな腰のものは、あっしがありがた~~~~くいただきやして、御金様おかねさまにかえさせていただきやす!」


 眼を開けたが、真っ暗だった。ストラは暗視モードを起動した。が、まだ暗い。

 「……?」


 目の前に物理的に物体が覆いかぶさって暗いのだとわかるのに、0.0000003 秒を要した。


 そして、それが小ぶりの臀部……いや、さかさまに見える人型生命体の股間だとわかるのに、また0.0000003 秒。


 横たわるストラの上に誰かが逆さまに跨っておおいかぶさり、身を屈めて何かを外そうとしていた。


 「……あれっ、とれねえでやんすな……んん? うんんっ!? こりゃ、いったいぜんたい、どういう……金具……?」


 腰の、光子剣を外そうとしているのか。外れるわけがない。形状記憶形質モーフィング金属の留め具で、一体形成状でベルトとつながっている。


 「しゃあねえ、ベルトを切る……か……とはいえ、刃物は無し……」


 いきなり何者かがさらに顔をステラの腹部へ近づけて、激しく揺れだした。ベルトへかみついている。


 無駄だ。

 超特殊炭素結合繊維だ。

 むしろ、歯が壊れる。

 「……」

 いきなりストラが上半身を起こしたため、

 「……ぅおわあッ!」

 は前転して投げ出され、闇の中を転がった。


 闇中に三次元探査が走り、ストラの解析が瞬時に完了。周囲の状況と不審者を、視界で立体映像化する。


 (……洞窟? 遺跡?)


 周囲は天然の玄武岩に近い性質の岩石でおおわれている。天然ぽいから、きっと洞窟だろう。


 (なんで……洞窟に?)

 まったく分からなかった。

 (作戦行動中に……)

 そこで、思考が止まる。

 頭の中が、真っ白になった。

 (作戦ってなんだっけ)


 「い……いやはやああァ~~~~こりゃまた、旦那! 生きてらしたんですかい! 失礼いたしやした! ッ~~~げへッ、ゲヘッ、ゲッヘヘっ、へ……シッシシ……!」


 ひっくり返ったヤツが、すぐさま起き上がってもみ手をし、ペコペコしながら薄緑に光る眼を細めて前歯の目立つうすら笑いを浮かべた。細身で、なで肩。猫のような身のをしている。眼と同じ薄緑の髪が長く、後ろで結んでいた。耳がとがっている。


 すぐさま、三次元深部探査が走った。


 (人状知的生命体……性別アリ……メス……言語体系解析済……進化系統不明……体温が高い……カペル星系のドビュラ人に近い……しかし、遺伝情報的にドビュラ人ではない……全星系に、該当及び類似人類存在せず……未知の知的生命体)


 「え、ええ! その~~ですね、ちょいと、ワケがありやあして、に逃げこみましたらね、その~~~旦那がね、こーんな真っ暗ん中にひっくり返ってらしたもんで、その~~~」


 「…………」

 「ちょいと、その~~~ですね、つまり……」

 「…………」

 「えー~……と……え、ええ……その……」

 「…………」

 「じゃっ! あっしはこれ、で……失礼いたしやし、たッ!」

 そやつが、サッと右手を振り、立ち上がって何処かへ去ろうとする。


 「ねえ」

 「ヒッ!!」

 身をすくめ、小刻みに震えながら、振り返った。

 「あなた……だれ?」


 「え、ええ!? と、その……~~、ええ、あ、あっしですかい? あっしは、その……プランタンタンっていう、ケチなエルフでやんして……」


 「プランタンタン……個体名と認識。ケチナエルフ……それが、あなたの種族名?」

 「へっ? しゅ……しゅぞく……? え、ええ! あの、ただのエルフで」

 「タダノエルフ……ケチナエルフとの相違の説明を求めます」

 「いやっ? ええ!? あ、あの……その、え、エ……エルフでやんす。エ、ル、フ」

 「エルフ。全星系に記録無し。新人類種族と認識します」

 「へえ……」

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