幸せのありかた 気付いたら双子姉妹のパパになっていました!

加糖のぶ

第1話 幸せのありかた




「また……死ねなかった………」


 天井に吊したロープのような物から首を外すと薄暗い部屋の中男性は独り呟いた。


 今男性が言った「死ねなかった」と言う言葉は……また「自殺」が出来なかったと言う意味合いなのだ。


 この男性の名前は戸田勝、年齢は 45歳で独身のうえ仕事はつい最近に辞めた。


仕事を辞めてからは生きる気力が無くなってしまい何にも手がつけられなくなり、最後に行き着いた先は自殺だった。


 だから自殺を何回も何回も決行したのだ、ただ、自殺をする勇気もなく全てが未遂で終わっていくばかりだった。


 そんな男、勝がいる部屋の広さは5畳と成人男性には少し窮屈な空間だったが、何故か全部のカーテンが閉められ、電気すら付けられていなかった。


 きっとそれは自殺をする為の前準備だったのかもしれない。


「情けない……情けないな、死ねば楽になれるのにその一歩すら進めない、どうすれば良いんだろうか………」


 そんな風に愚痴を言っても勝以外は誰もいない為答えてくれる人は当然の如くいなく、ただ虚しく水道の蛇口から滴り落ちる水滴の音だけがポツリ、ポツリと聞こえてくるだけだった。


 どうすれば良いか分からないなら自殺などしなければ良いじゃないかと他の人なら言うかもしれないが、今の勝には自殺をするという選択しか頭に無いのだ。


 勿論勝がそんな状態になってしまった要因もある、それは簡単な事だ、生活をしていく中で孤独や寂しさに耐えられなくなってしまったのだ、ならそれを解消すれば良いだろと思うかもしれないがそれも勝には出来なかった。


 元々勝の性格上人との接し方が上手く出来ず仕事先でも孤立していた、親しい友人も作れず趣味もなくただその日暮らしをしていくだけだった。


 もしここで家族や親などがいて話を聞いてくれる人が一人でもいたら少しは変わったかもしれないが……それも叶わないだろう。


 当然の如く勝には家族などいない、それに親など顔すら見た事がなかった。


 皆は冗談だろと思うかもしれないが勝は物事を考える事が出来る様になってから独りだった。


 少し語弊があるかな、周りに人はいたが勝自身の心の中はずっと独りだった。


「そういえば……最初は孤児院で過ごしていたんだっけ……もうあまり覚えてないや………」


 少し過去の記憶を思い出したようだが、あまり良い記憶ではないのかただ呟くだけだった。


 勝は家族の顔を見れないまま15歳まで孤児院で過ごしていた、その時に仲の良かった子達はいたかもしれないが今はもう覚えてすらいない。


 ただ、覚えている事と言ったら自分以外の子達が一人、また一人と優しそうな人達に引き取られていく光景だった、最初は勝も「自分もあんな優しそうな人達と過ごせるんだ!」と子供ながらはしゃいでいたが、それも叶わなず、うたかたの夢に終わってしまった。


「あまり思い出したくない事を思い出しちゃったな……僕だけ誰も引き取ってくれなかったんだっけ、まぁ、こんな無愛想な奴なんて誰もいらないよね……あの後は辛かったなぁ」


 昔の事を苦い記憶のように語ると泣きそうな顔になってしまったが、もうとっくに枯れてしまったのか涙は一粒も出なかった。


 最終的に15歳に勝がなった時に追い出されてしまった。追い出されるという言葉はあまりよろしくないが勝は孤児院から出て行かざるをえなかった。


 だがそれはしょうがない事だった、孤児院も孤児院で身寄りのない子や孤児を養護する施設ではあるが一人を贔屓すれば騒動が起きてしまう。


 それも、もう15歳にもなる子をだ、それに人一人を養うのも大変だったのだ、だから勝を追い出すという形になってしまった。


 その事を当時の勝は分かっていたのか何も抗議する事なく約15年間過ごした孤児院に挨拶をすると後にした。


 その後は年齢を偽りながらもその日を生き延びる為に仕事をして、仕事をして生きていくしか無かった。


 贅沢を言うなら学校に行ってみたかったが、そんな事を考える暇さえなく点々と仕事先を変えて行き今の職場に就いたが、結局人生に疲れてしまったのか、それともやる気が出なくなってしまったのか辞めてしまった。


 だから思ったのだ、こんな生活をしているぐらいなら死んだほうがマシだと。


 きっと勝以外にもっと酷く過酷な人生を歩んだ人がいると思う、その人が聞いたら「そんな事で甘えるな!」と言うかもしれないがもう勝には無理だった。


 だが、それでも夢も希望も何もない勝だが、一つ何かが叶うと言うなら………


「家族の温もりを知りたかった、両親に抱きしめて欲しかった………」


 と、そんな儚い想いすら叶ことは無い、勝は考えるのすら辞めたのか質素な布団の中に体を入れると明日からの事を考えだした。


 考えても……何もいい案など出てくる訳がないと知りながらも。


「………どうせ明日も、明後日も、これから一生同じ人生なんだろうな……また起きて自殺を決行して、出来なくて、1日が終わる……もういいや、寝よう」


 勝は今まで死に物狂いに仕事、仕事、仕事と働いてきて少しの貯蓄はあるがそれも今みたいな何もしない生活をしていたらいずれ何もなくなるだろう、でもその時はその時だと思い、今は何もかも考えるのが嫌になり床についた。


 意識を手放す前にいつもは考えない事を考えてしまった……「もし、自分に家族がいたら………」と、そんな事は今後一切奇跡が起きない限り出来ないと分かっているのに。





 カーテンから日の日差しが差し込んでおり、外からは鳥のさえずりが聞こえてくる。


 普通はもう朝かと思うかもしれないが勝は意識を覚醒させながらも目を開けず「また朝がやってきてしまったか………」と憂鬱な気分になっていた。


 仕事を辞める前は体調だけは気をつけようと早寝、早起きをしていた勝だったが仕事を辞めてからはいつものルーチンが無くなってしまい起きるのは自分のペースになっていた。


 なので意識は覚醒している勝だったが「どうせまだ朝早いから寝ていよう」と内心思い意識を手放そうとしたが……何か違和感を覚えてしまいその違和感を確かめることにした。


(………布団の触り心地が違う……のか?)


 まず初めに違和感を覚えたのは自分が今寝ている布団の手触りだ、普段ならそんな気にする事では無かったが今日は気になってしまった。


 勝が元々使っていた布団は質素な物で肌触りもそんなに良くは無いが寝られれば何でもいいと愛用していた、でも今自分が使っている物は触り心地が別物だった。


例を出すなら絹と藁ぐらいの違いだろうか「言い過ぎでは?」と思うかもしれないがそのぐらいの違いがあるように感じたのだ。


 ただ、布団が違うのを感じおかしいと思っている勝だがそれよりも不可解な事が起きていた。


 今の段階でまだ目を開けてはいないから確かな事では無いが聞こえるのだ何者かの寝息が、、勝は一人暮らしの為他の人間の寝息が勝以外の人の気配がするのはおかしいのだ。


(………もしかしてだけど、泥棒?……とかないよね?こんな貧乏の僕の家に入って何をするって言うんだよ)

 

 その事実に先程よりも恐怖が増してしまったことにより、確認しようと思っていたが怖くて動けなくなってしまった。


(昨日家の鍵も閉めたし、戸締りはバッチリだったよね?……あぁ、分からない、分からないけど怖くて確認も出来ない……どうしよう………)


 昨日自殺をしようとしていた勝は、途中に誰かが入ってきて自殺の邪魔をされたら嫌だと思い戸締りをしっかりとした記憶はあった、結局自殺なんて出来なかったけど……でも今はそんな話など関係ないそれよりも今の状況をどうするかが先決だった。


 なのでどうするか考えていたら………


「んんっ……うゆっ?」「ふぁーー……みゅう?」

「ーーー!!」


 と、勝のすぐ側から幼い少女の様な声が聞こえてきた。


 その声を聞いた勝はビクッと身体を震わすと口を手で押さえ声を出すのを堪えることに成功した、だがその代わりかパニックを起こしてしまった。


(ヤバイ、ヤバイ!えっ、なに?女の子の声?なんで?どうして?……訳が分からない……目を開けちゃ駄目だ!絶対に駄目だ!)


 考えても分かる訳がなく、ただパニックを起こしているだけだったが……ふと冷静になりある事を考えてしまった、もしかしたら、いや、必ずこれは………


(ゆ……夢?だったりして?そ、そうだよ、夢に決まってる!……なんかそう思ったら落ち着いてきたよ、昨日寝る前に変な事考えちゃったもんね、それが僕の浅ましい気持ちとなり具現化して夢となったのか……はぁ……怖がって損した気分だよ)


 夢だと思うことにした勝はさっきの怯え様はなんだったのかと言わんばかりに冷静になると一度目を開け、横になった状態だが周りを見渡して見た。


 そしたら見たことかまだカーテンが開け切れてないからか薄暗い室内だったがそれでも分かる、自分がいつも住んでいる部屋の倍以上ある部屋の大きさに加え室内に飾ってある何処となく裕福そうな家具、最初に違和感を覚えていた布団は真っ白な羽毛布団になっていた。


 そして極め付けに……勝の顔を凝視してくる四つの可愛らしいお目目、先程からキョロキョロと室内を見ていた勝の顔を不思議そうに見てくるのだ。


 銀色の髪に青色の瞳を持つ可愛らしい幼女2人が、年齢は4〜5才程だろうか。


(………あらまぁ、可愛らしいお子さんで、さっき声を上げた子はこの子達かな?顔が似てるから双子さんかな?……勘違いしないでくれ、僕はロリコンじゃないから可愛いとは思うけど手を出すなんて以ての外だからね?)


 恐らく先程声を上げたのはこの子たちだろうと考えながらも誰に言い訳をしているのか勝は自分はロリコンではないと言い張っていた。


 でもこれで確信した、この状況は確実に夢だと。


そんな事を考えていると幼女達が勝のお腹に乗って来てとんでもない事を言ってきた。


「パパ!キョロキョロしてどしたの?」

「………とーさま、何か気になる事でもありましたか?」


 と、2人は無邪気そうな顔をしながらも勝の事を心配してか聞いて来た、がそれよりも気になる事があった。


 この幼女達は今勝の事をなんと言った?「パパ」と「とーさま」……簡単だろう?勝の事を自分のお父さんと呼んだのだ。


 その事実に勝はというと………


「え?……パパ?とーさま?」


 と、聞き返してしまった。


 いくら夢だと分かっていてもいきなり自分の事を父親扱いされたら誰でも驚くだろう、それは勿論勝自身もそうだった。


 困惑している勝に幼女達はニッコリと笑うとその通りと頷いていた。


「「うん、私達のお父さん!」」


 と、双子らしく声を揃えて元気に返事をして来た、その事に勝るは一応納得する事にした。


 「あぁ、この夢の中ではこの子達は僕の子という設定なんだね」と、そう思った勝は開き直ると自分もこの状況を楽しむ事にした、以前「家族の温もりを知りたい」とか言っていたが今はその逆で「自分が家族を作って温もりを与える側」だという設定になっているがそんな事は気にしない、だって夢なんだから。


「そうか、そうか僕は君達のお父さんかぁ……そうだ!君達のお名前はなんていうのかな?ちょっとお父さんド忘れしちゃってさ!」


 名前が分からなかったので夢だとしても聞いてみる事にした、そしたら2人は顔を見合わせて「パパどうしたのかな?」と少し困惑したように話し合っていたが、まだ幼い身でそんなに考えることも出来ないからか素直に自分の名前を勝に教える事にしたらしく活発そうな子から自己紹介をして来た。


「はい!じゃあわたしから!えっとね、わたしの名前は九条マナって言うの!パパとママの事大好き!!」


 少したどたどしい喋り方だったが自分の名前を九条マナと元気に伝えて来た、その様子を見たもう一人の礼儀正しい?子も勝に顔を向けると少し恥ずかしのかそれでも丁寧な口調で伝えて来た。


「私は九条ルナと言います……その、あの、……ーさまとかーさまの事が好き……です、っ!!」


 しっかりと九条ルナと自分の名前を言えたが好きという言葉が恥ずかしいのか顔を手で覆うと耳まで赤くしてしまった。


 ただ、その姿を見た勝るはマナとルナをお腹に乗せたまま反射的に抱きしめてしまった。


「2人共名前を言えて偉いね!」


 抱きしめられた2人は………


「「きゃっ!?……ふふっ温かい!」」


 いきなりの事で驚いていたが、大好きな父に抱きしめられて喜んでいた。


 そんな中、抱きしめてしまった勝る自信は自分の行動に驚いていた。


(な、何を僕はしているんだ?いくら夢だとしても抱きしめるのは流石に……でもおかしい……僕の意思とは関係なくなんかこう……上手く表現出来ないけど身体だけが反応した感じだった。これは一体……夢だからこんな事もあるのかな?)


 その事につい少し考えてしまいそうになったが「まぁ夢だからいいか」と考える事にして2人を抱きしめていた。


 そんな事をしていたら廊下から誰かが近付いてくる足音が聞こえたのでそちらを見たら、丁度歩いて来ている人物も勝る達が寝室にしているドアを開けて入って来た。


 その人物は勝る達が抱き合っている姿を見ると優しい笑顔を向けて来た。


「あら、皆起きてるのね……今日はお休みだからもっと寝ていても良かったのに、でも起きちゃったならしょうがないわね、おはよう」

「うん、ママおはよう!」「かーさまおはようございます」


 その女性の挨拶に勝るに今もまだ抱きしめられている2人は顔だけを向けて挨拶を返していた、ただ、勝るはその人物を見て時が止まったように動きを止めてしまった。


 2人が女性の事を「まま」や「かーさま」と呼んでいる事から勝の「夢の中の妻」という事になるが……勝るはその女性の美貌に見惚れてしまい動けなかったのだ。


 女性の外見は流石マナとルナの母というぐらい美人でグラマラスな女性だった。


 長い銀髪を青色のシュシュでハーフサイズに纏めて顔は勿論の事10人が10人振り向く程の美人で吸い込まれそうな青色の瞳をしている、体型はまぁ、一言で言うと……ボンキュッボンって感じです、はい。


 そんな女性を見てしまった勝るは………


(ヤバイ……夢でもこんな人が僕の妻役は流石にヤバイ……こんな美人の人を妄想というか夢で見ちゃうとか何か溜まってるのかな僕………)


 口には出せないので内心でそう思うと鼻血を出さないように、あまり直視をせずにオドオドした態度を取っていた。


 ただ、そんな態度を女性は気になったのか勝るに声をかけて来た、


「あなたどうしたの?さっきから何処か雰囲気がおかしいわよ?それにいつもの朝のやつは今日はないのかしら?」

「………えっ?朝のやつ?」


 何も知らない勝るは聞き返してしまったが夢だからどうなるとでも思っていた、でも女性は訝しげな表情をすると勝の事を見てきていた。


(………何か雲域が怪しくなって来たな……どうしよう……夢だからどうとでもなると思うけど………)

 

 その事に勝はどうしようと思っていた時、マナとルナも勝の事は少しおかしいと思っていたのか勝の抱擁から抜け出すとその女性の元に向かった。


「ママ今日のパパ少しおかしいの!いつもみたいに優しいけど、私達の名前忘れちゃったみたいに聞いて来たの!ねっ、ルナ?」

「はい、マナの言う通り今日のとーさまは少し雰囲気が違う様な気がしました、何処か病気なのでしょうか?」


 愛娘にもそんな事を言われた女性はさっきよりも険しい顔を作ると勝の元に向かって来た。


 その事に流石の勝もヤバイと思い始めていた。


(ちょっ……これどうなるの?大丈夫だよね?これ夢だもんね?)


 そう思う中、今までの会話から夢と言うよりも少しリアルっぽい感じがしてしまった勝は女性の言葉を待つことしか出来なかった。


 その女性はついに勝の前までくると何処か迫力がある雰囲気で見て来ていた、その時勝は場違いかもしれないが「美人な女性のこういう雰囲気はなんでこんなに怖いんだろう」と思ってしまった。


 馬鹿な事を考えていたが、女性は待ってくれず目と鼻の先まで近付くといきなり勝の手を握って来た、その事に「何かやられる!」と思ったのか勝は目を閉じてしまった……が、その女性は何もやって来ないどころか勝の事を心配した様に抱きしめていた。


「あなた!何かあったの?もしかして病気だったり……無いかもしれないけど記憶喪失とか……どうしましょう………」


 女性は本当に心配しているのかさっきまでの余裕の雰囲気は無くなり、ただ、ただ、勝の事を心配していた。


 それはマナとルナの娘達も一緒で「パパ大丈夫?」や「とーさま、何処か痛いのですか?」と聞いて来ていた。


「だ、大丈……!!?」


 その事に「大丈夫!」と伝えたかったが……勝が何か言う前に突如脳内にありもしない記憶が蘇った。


 その時勝は自分の頭を押さえるとそのありもしない記憶を辿る様に集中した……その内容は……「この状況は夢では無く現実だと、今目の前にいる人達は本当にお前の家族だと」言う様に存在しない記憶が徐々に鮮明に思い出したのだ。


 その事実を知ると勝はこれが夢じゃなかった事を驚きながらも全てを思い出したのかその女性……九条レイラに笑顔を向けた。


「大丈夫だよレイラ、ちょっと寝ぼけていたみたいでね変な事を言ってしまったみたいだね、マナとルナにも心配させてごめんね?その代わりかは何だけど、後で家事をした後お父さんと遊ぼうか!」


 勝が3人にそう伝えるといつもの勝に戻った事に気づいたのかレイラは「いつものあなたに戻って良かったわ」と安心して、マナとルナは遊んでくれると言われた事が嬉しかったのか「「やったー!」」と2人一緒に喜んでいた。


 その後は布団を片付けるとまた挨拶を仕直し洗面所で顔を洗うとレイラが作ってくれた朝ご飯を食べる為にリビングに行くのだった。





 家族皆で朝ご飯を食べた後、勝は外の空気を吸いたいとレイラ達に話し、一人庭にある白いベンチに座っていた。


「………夢じゃないじゃん」


 その言葉を呟く事しかできなかった。


 あの後色々と思い出した後も、これは何かの間違いだと思い自分の頰を抓ったりしたが夢は覚める事が無かった。


 それはそうだ、いまが現実なのだから。


 なのでもう開き直る事にした、これは神様か誰かがくれた幸せになる為のチャンスなのでは無いかと。


「考えてもどうせ分からないから今は家族……レイラ達を幸せにしよう。恐らくそれが僕の義務なのだから」


 勝がそう一人呟いていると、勝の元にレイラ達も近付いて来ているのが見えた。


 そんな幸せな家庭を眺めていると枯れていたはずの涙が何故か流れて来た。その事に気付いた勝は戸惑っていた。


 そんな勝にレイラ達は血相を変えて近付いてきた。


「あなた!何か悲しい事でもあったの?」

「そうだよ!パパ!それともお腹痛いの?」

「とーさま!具合は大丈夫ですか!!」


 そんな自分の事を心配してくれる3人の顔を勝は見ると、泣きながら笑顔を浮かべた。


「大丈夫、大丈夫、それに違うんだ……これは悲しさじゃなくて……今が幸せだなぁと思って出て来た涙なんだ。だから、そう心配しないで」


 勝の言葉を聞いた3人は安堵の表情になっていた。


 その様子を見た勝は心の中で誓うのだった。


(僕がこの人達の【家族】として記憶を取り戻したのには何か意味があるはずだ、だけど……それは分からないけど僕が幸せにしなくちゃ!もう死にたいなんて思っている場合じゃない!)


 なので3人にかな一言を送る事にした。


「皆、ここから幸せになろうね!」


 勝の言葉に返事ではなく、抱きつくという行動で3人は示してくれた。


(この笑顔を、幸せを守ろう僕がいる限り)


 そう思うと勝も強くも優しくも3人を抱き寄せるのだった。



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