第3話 やり残した争いの火蓋
サイガン・ロットレンの全身が、もう救いようの無い処まで
その原因は扉の力を
「…………元より先生は、この争いに於いてローダさん、貴方の剣に刺されながらマーダの意識を
「……そ、そんな事って。だってあれ程ヒビキが生まれるのを楽しみにして……」
自分だけは前
義父の悲しい事情を知って
「余計な心配を掛けたくなかったのだな……男の強がりってやつだ。判らんでもない」
ローダより7歳年配のガロウが冷静な顔で告げる。この青年よりは、年寄りの強がりを判った風な口を利く。
「な、納得しろって言うのかガロウッ!? き、気づいていればもう少しだけでも(寿命を)伸ばせた筈だッ!」
「ローダ君……それはエゴが過ぎます。先生は、この戦いで死ぬことを甘んじて受け入れた。
「クッ!」
今度はローダがガロウに詰め寄ってゆこうとするが、ドゥーウェンは、現実を他人が
理解出来ても納得出来ないといった態度でローダが
この現実を受け入れるのに苦心しているのはローダとルシアだけではない。皆、何とも言い難い顔つきで押し黙ってしまった。
「……い、一体何をそんなに
「だ、駄目ですサイガンさん、動かれては………」
そんな重苦しい空気を、これより死に
必死に上半身を起こしながら未だ強がりを止めようとしない。喋る度に口から吐かれる赤いものをリイナがいちいち
「それ処か二人目の扉を極めた男すら見られたのだ。とんでもない
「ぼ、僕は………僕にそんなことを頼まれても返答に困るよ……」
ルイスは、自分の力だけで扉を開けなかったことに負い目を感じている。だから期待されても……といった様相で視線を交わそうとしない。
「み、皆の者も本当に済まなんだ………。進化を押し付けるという
「そうだな………。これから世界中に扉の力を持つ者が名乗りを上げる。
死に際の
「……そ、その通りだ。だから死罪とて割に……」
「だがお前さんも同じ人間だ。人とて自然が生み出したもの、ならば自然の成り行きとしてアンタの進化とやらを請け負うのも、これまた在りだ」
サイガンが「死罪とて割に合わん」と自らを断罪するのを
「だな………流石ラオ守備隊副団長だぜ。言葉の重みが違うねぇ。おぃ、爺さん。小難しいことは俺には良く判らねぇ。だけどな、これだけは誇って
「…………?」
サイガンが
「アンタが此処に残した此奴等だけは、未来
まるで自分が
(未来永劫………か。そうだ、だからこそ私は後悔の念が
実に複雑な想いを顔に出してしまう老人である。この輩、困ったことに自分達のみならず、血を受け継ぐ者達ですら
「ふぅ………。
「ルイス………ファルムーン?」
もういい加減判り切ったことを深い溜息と共に告げるルイス。ユラリッと立ち上がると弟ではない、
「僕達はやれる、この
「当然だ………それにどちらが
ルイスの言葉の
「新たな時代を創った男サイガン・ロットレンが息子にして、至高の女、ルシアの夫、ローダ・ロットレン……」
義理の父の栄光と、人間を超えた完璧な自分の女を、まるで
腰に残っていた武器の内、想いの
加えてだんまりしたまま、空いた左手を広げ、ハイエルフの男に向ける。言葉を全く交わすことなくレイチは、自分のダガーを投げて
「その兄にして神童と言わしめた使い手であり、暗黒神ヴァイロの魔導を伝承するフォウの男。ルイス・ファルムーン……」
今しがた兄であることを捨てたことを言った割に、この
さらに最高の魔導士となったフォウを挙げつつ、その手から金色のレイピアを受け取るルイス。
互いに最大の
至極当然のことだ。サイガンのお陰でようやく立てる程には回復出来た。だが残しているのは、精々それだけなのだ。
「「………
脇差を右手、借りたダガーを左手逆手に構えるローダである。対するルイスは、最軽量な部類のレイピアを敢えて両手で握り、中段に構える。
何れも相手に対し敬意と払いつつ、無駄な動きの一切を自らに禁じている。「征く」という宣言にすら声を張り上げることなく、力を溜めて出方を
先程迄の二人の争いは結局の処、マーダに邪魔された格好になってしまった。つまりは、やり残した争い。
やはり若くして
「な、何も
「全く………男ってどうしてこうも
とにかくリイナは、この二人の状態を案じている。どう考えてもまともに戦える状態ではない。
一方ルシアがヤレヤレと肩を
だからこの二人の剣士の主張も決して判らなくもないのだ。実際、呆れた態度の顔は
「………今、やるしかないのですよ。私みたいに死することが良く判らない者が言ってもまるで重みがありませんが………」
そんな血の繋がりがない姉妹の肩を後ろからポンッと叩いて締め
確かに彼女の語る通り、サイガンという自分達を此処まで駆り立てた存在に、己の強さを見せる
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