エピローグ

それぞれの旅路

 ───ときをロットレン家の写真撮影の後に戻そう。


 ルシアとヒビキは、出産後の様々な不自由を考え、フォルテザにあるドゥーウェンの新居へ、1年間身を寄せた。


 そこに普段家主ドゥーウェンをマスターと呼称し、付き従っていたベランドナの姿はなかった。


 彼女は結局、最後の戦いルイス&マーダ戦いても、自分の扉の力を開くに至らなかった。なくても充分な活躍を果たし非凡ひぼんさ故を証明したわけだが、結局、自分の力を何にするのかが何を欲するのか決めきれなかった。


 このストイックなハイエルフは『自分は未だこの世界を知らなさ過ぎました』と言い残し、最終決戦終結後、同じハイエルフのレイチと共に旅に出たのである。


 大体そもそも彼女に限らずハイエルフの様な亜人あじん類は、一体どんな系譜けいふて、この地アドノスに生を受けたのだろうか。


 かつてマーダが自身を創りし父、サイガン・ロットレンの望みし世界観を、このアドノスに構築しようと尽力じんりょくした。


 ───それは判る。


 だがゴブリンやエルフ、ドワーフなどといった連中すらも己が創造の内にこしらえた?


 余りにもそれは話が幼稚ようち過ぎる。あくまでこの世界線は、サイガン等2020年代からおよそ400年位の未来に他ならない。


 人類がAYAME人工知性と共に進化の一途を辿たどったとして、数百年という短さで人種すら移り変わるものなのか?


 ベランドナがほのめかす『世界を知らない』とはそういった心持ちもあるのだろう。


 では、ドゥーウェンがさみしい一人身になったのかと言うと、そうではなかった。彼の家には二丁拳銃トゥーハンドのレイが同棲どうせいし、後にローダ達の探索たんさく行に同行するきっかけにもなった。


 旅から戻ったのちもこの家に居候いそうろうを続け、意外な程、女性じみた振舞いをみせたという。


 ドゥーウェン自身ものドゥーウェン、レイも全くの同類という共同生活。天寿てんじゅを全うする迄それは続いた。


 やはり女の独り身を多少なりともさみしいと感じたのか。嘗て親になり損なった彼女である。


 加えてこの童貞くさい眼鏡野郎ドゥーウェンと曲がりなりにものがきっかけになったのやも知れぬ。


 こうしてレイの新しい片割れとなったドゥーウェン。


 エディン自治区とフォルテザが、大陸イタリアと最も隣接りんせつしている危険地帯という意識を持ち続けた。


 そこで同地区を発展させ、他国と対等に渡り合えるべく、フォルテザをアドノスの首都とする提案を他の自治区へ打診する。


 これは結果を見るまでもなく、満場一致で決定した。あと元来の首都であったフォルデノ王国は、余りにも疲弊ひへいが過ぎたのも後押しになった。


 また2092年から持って来たオーバーテクノロジーは、極一部の生活を豊かにするもの以外、これを凍結。特に戦力となる技術は、完全徹底させた。


 さらにAYAMEのプログラムを完全秘匿ひとくし、以後のバージョンアップも完全停止とした。


 現在アドノス島以外の世界観は、マーダとルイスの力で成立した、およそ西暦1910年代に限りなく近しい。


 サイガンの実に適当な歴史観がベースなので、ズレが生じいている箇所もあるが、これ以上の影響を与えない様にドゥーウェンが気をつかった。


 こうする事で以後の世界は、まるで同じ歴史を繰り返すと想像イメージした。俗に言うパラレルワールド。これを人工で狙らうという無茶凄味


 サイガンと共にAYAMEによる人の進化という、大それたことをやろうとした彼らしい方法論だ。


 パラレルワールドの構築を推し進めたのは何故か? それは長くなるので後にしたい。


 ジェリド・アルベェラータ一家は、ラファン自治区のエディンの街に、ロイドを迎えて住み続け、エディンの復興ふっこうに尽力した。


 ローダ達に誘われたロイドとリイナが中抜けしたことも有りはしたが……。


 また一時期、ジェリドはフォルデノの復興支援にも出て行った。後輩バルトルトの思いへ応えるために。


 我がおてんば娘が無事、ロイドと結ばれた事に安堵あんどしつつ、自分は邪魔にならぬ様、表へ出るべきだという考えもあった。


 一方、森の天使であったリイナは、17歳を過ぎてから身長が急成長をげ、より大人女性の色合いを濃くした。


 エディウス神戦之女神の司祭としても、益々ますますの活躍をした功績と、その見た目の変化も重なり、天使からと呼ばれるまでに昇格した。


 さらに不死鳥の力を受け継いだ功績で、エドルの大司祭の座も受け継ぎ、カスード家の後継を育てる事にも力を注いだ。


 ただ子宝には恵まれず、アルベェラータ姓は、養子のロイドで尽きると思われた……が、意外なが現れる。


 此処にプリドール・ラオ・ロッソ改め、プリドール・という奇妙なボタンの掛け違え。


 しかも子に恵まれぬ娘夫妻を尻目に、世継ぎすらはぐくんだのだから驚きである。リイナ、が、まさかもたらされた。


 プリドールは戦を失い、ただの守備隊という退屈たいくつ嫌気いやけがさした。それに何より、良い男と一緒になる事を強く望んだ。


 そこでラオを離れ、情勢不安定なフォルデノに移住。たまたま再会したジェリドと恋仲になった。


 ジェリドがエディンに戻る際、プリドールが子連れで付いて来て、ロイドとリイナは大層驚いた。しかし父の再婚を大いに祝福したのである。


 待て待て………赤いしゃちには青い鯱という圧倒的第一候補が居た筈では?


 ランチア・ラオ・ポルテガ、遊び人の様な彼が別人の如く、ラオの豊富な海産資源と、観光資源を大いに活かすべく懸命に働いたのだ。


 プリドールはおろか、女遊びには目もくれなかった。寄って赤い鯱の結婚候補より外れた次第だ。


 実は商才があったことが知れる。莫大ばくだいな富をきずき、ランチア財団を設立。ドゥーウェンと同様に、以後の歴史に出来る限り、影響を与えない組織とした。


 ガロウ・チュウマこと本名『中馬ちゅうまん牙朗がろう』は、最終決戦後、アドノス島に別れを告げ、イギリス経由で単身鹿児島故郷に帰った。


 その後、彼が討幕とうばくおり、活躍したなどという記録は残っていない。


 ただ、イギリス艦隊が鹿児島を襲撃した薩英さつえい戦争の際、イギリス兵が、赤い刀を大いに振う薩摩剣士を見たという逸話いつわがある。


 しかもこの島津武士、船に乗り移った訳ではなく、中から大いに暴れたという。


 これが史実ならば、家まで送らせた上にすら渡すという狂戦士ぶりをやってのけたことになるが、真意の程はさだかではない。


 また第二次世界大戦の折、日本・ドイツ・イタリアとの三国同盟に於いて、中馬ちゅうまんという男が、イタリアとの連携に貢献したらしい。


 これも同姓だけで、彼と所縁ゆかりのある人物かは、全くって不明である。


 一方、ルイス・ファルムーンは、フォウ・クワットロ改めフォウ・ファルムーン。そしてローダ・ロットレンと共に、一度祖国そこくへ戻り、初恋のエルレア・シアーテンと再会。


 自らが添い遂げる相手を紹介し、丁重ていちょうに頭を下げた。だがファルムーン家には、自らの息災そくさいだけを伝えのにとどまる。


 父ラムダの横暴ぶりに、神童で在りながら家をてるという反逆の意志を示した。


 アドノス島へ戻った彼は、定住地を荒れ果てたフォルデノとした。


 国としての機能を失ったフォルデノを、他と同様のフォルデノ自治区と繰り下げ、初代区長として、同地区の復興に尽力した。


 また荒廃したカノン自治区をフォルデノに統合し、夫婦そろって闇の大地へ光を照らした。


 フォウ・ファルムーンは、失われた暗黒神ヴァイロに代わり、精霊術及び風水術を広め、その力を戦いではなく、カノンに眠る地下資源の採掘作業に利用させた。


 尚、子供は三人。双子の男女に加え、次男が一人。血縁による跡継ぎはおろかと唱え、徹底してこれを禁じた。


 ───そして時間は過ぎ去り、無情にも彼等のほとんどが、その命をまっとうした。

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