最終話 目一杯の祝福をこの世界へ(前編)
サイガン・ロットレンの墓前。
要塞都市であり、アドノス島に
故人の母国、イタリアとその間の海原を見渡せる位置に
今日は故人の命日であると同時に、ローダとマーダの数奇な争いの幕が下りた日でもある。
ヒビキ・ロットレン、満60歳を迎えた彼女が墓前に花を添え、祈りを捧げていた。他にもその背後に数人の者が集っている。
彼女より20歳以上、歳の離れた連中の殆どが
学者……というより限りなくエンジニアであったドゥーウェンと、共に余生を過ごした
鹿児島へ帰ったガロウの消息は
ローダより2歳年上であったルイスと、実は余り歳の変わらなかったフォウの夫妻。
こんな二人だったからこそ、感謝を込めた盛大な
ルイス・ファルムーンは、弟の様に扉の力で命を繋ぐことをしなかった。『余程のことが無い以上、
そんな男だからこそ、フォウもファルムーンと成り、同じ道を歩んだのだ。
結局きっかけの相手はマーダだったのか?
結局の処、ハルバードより
他にも多くの者共が、最初の扉を開く青年が生まれ往くまでに犠牲となった。別にローダの礎でも、
勿論、ヒビキの様に未だ生き長らえている者だっている。
その筆頭………少々可笑しな言い方であるが、サイガンが創造した人類を超えた存在、
加えてその
「全く、
そんなルシアの想いを少しだけ語りたい………。
◇
それはルシアがヒビキを出産後、3ヶ月程経った
ドゥーウェン邸でヒビキをようやく寝かしつけ、広いベランダにてフォルテザの港から流れる潮風を感じつつ一息ついていた。
「………
「嗚呼………今日のエドナ村は
ルシアをいつもの知れ顔で受け流すローダ。………まあ、それは良い。この男、これから就寝時だというのに差し入れる物が珈琲では、疲れの
別に『お前を寝かさない……』などと
「………ありがと」
これを
………どうやらただの様子
「………る、ルシア。お、俺…」
ゴクリッ
緊張し飲んだ息を珈琲も
「………俺、あのいつまでも打ち寄せる波の様に、
「う、うんっ………………………ハアッ!?」
返って意味不明にしている
言い回しこそ夫らしい言葉遊びだと思うが、結論が酷過ぎて、口をアングリ開けてしまった。
「ちょ、ちょっとぉ!? 貴方何言ってるか判ってるの?」
「………勿論だ。ルシア………お前一人にこれからの未来の監視を任せるなんて俺には到底容認出来ない。
「………わ、私は元々そういう存在。扉の
言葉を充分に
この人は、まるでこの
───駄目だ………。私が
(そう……私はもう充分過ぎる程………)
「………貴方から………貰ったの………だから」
心の声で抑えるつもりだった………でも、
「じ、地獄の番人に
───そうだ、貴方はヒビキにとって、ただのパパであって欲しい。手を血で染め上げるのは私の
「駄目だ、もう決めた。ルシア………君とこの
夫が左薬指に光る物を見せてから、ゆっくりと、そして優しく私を抱く。
「………そ、それに君となら永遠なんて
此処でローダの声色が、
「………もぅ、先に
今度はこっちの番、ダラリと下ろしていた両手を挙げて、ローダの首へ抱き付いた。
◇
生き残り組、ヒビキ、ルシア、そしてローダ。後は永遠でこそないかも知れぬが、人間と比較にならない寿命と老け知らずの
此処にこそ居ないが、ベランドナと同じハイエルフのレイチとて恐らく同じであろう。
それに若い方のアルベェラータ夫妻、リイナとロイドも未だ頑張っている。二人共、同い年の76歳。とんでもない長さの
ロイドはすっかり老け込んだものの『昔は俺も
相変わらず美しき長い銀髪で、身長が155cmから171cmに伸びた。
ローダとルシア、べランドナが
その上、17歳の若さぶりも健在と在れば、もういよいよ手が付けられない。
夫ロイドは留守番だが、その美しさを未だに変えぬリイナ・アルベェラータ。最高司祭である彼女が、アドノス島………そして人知れず世界史を変えた男へ祈りを
加えてその傍らには、
「………もぅ、ハイエルフのベランドナさんは当然として、ママより先にしわくちゃになった上に、リイナさんにまで………
全くもっともな文句を言うヒビキである。追わず苦笑で応じるリイナ。見た目は17歳の肌質感でありながら、中身は成熟し切った女性である。
ヒビキへ返す苦笑にすら、大人の気品を
「フフフ………ヒビキ
………そうなのだ。
突如、身体の方がいう事を効かなくなる爆弾を抱え込んでいる可能性も否定出来ないのだ。
「処でジオは、いつまで此方に居続けるつもりなのかしら? 天国のお母さまの所へ逝かなくて良いの?」
足元を無邪気に走る白猫へ呆れた
「だってニャ。リイ
ピョンピョンと2つ跳ねて、リイ
「
墓前で奇妙なことを口走ったローダである。サイガンにまた逢えるとは?
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