第2話 地獄絵図を描かされた漆黒の絵師
サイガンが
しかもこの老人の
騎士であれば馬、それも相当乗馬慣れした者でなければ駆けるなんてこと無茶な話だ。
ではジェリドに道案内は出来ないのか………いや、それが驚いたことに彼はその乗馬慣れした者の方であったようだ。
他のメンバーがビビって声も出せない中を的確にナビゲートするのだ。車輪が大きな樹木の根に
ボディーの方も窓が割れるのではと心配になるほどぶつけまくりながらも勢いが決して落ちない。強度の低いボディーがミシッと嫌な音を立てるがお構いなしだ。
最初はおっかなびっくりであったジェリドも段々楽しくなってきたようだ。彼はフォルデノの聖騎士である最中、この辺りで乗馬訓練をしていたらしい。
しかも何より屈強な木こりの多いラファンの出身、風雨に
「す、凄い………この山道を抜けるまでは
「や、やっぱり乗らなくて良かったです。それにしてもサイガン様もお父さんもやり過ぎですよっ!」
森と友達のエルフ族のベランドナですら、山道の走り方に熟知しているサイガンの
何しろ暗い山道だ、陣形通り下手に前に出ようものなら自分が引かれてしまいそうだ。
リイナの方はサイガンの異常なペースが、父ジェリドの冴え渡る道案内が上乗せしてることに気づいていた。
幼き頃、父の乗馬で走った山道で幾度を泣かされたものであった。
とはいえ
あっという間に馬道は、街へと繋がる比較走りやすい街道へと姿を変えてゆき、城下の街並みが見えてきた。
頃合いを見計らって本来の陣形に変えてゆくのだが、その見えてきたものが
「クッ!
―レーナッ! 砲撃手に伝えるんだ、直ぐに
―他のミサイルなども全て軌道修正しろっ! 悔しいが我等は城でなく町を狙い撃ちにしているっ! 急げっ!
「りょ、了解!」
先ず彼等の視界に入ってきたもの………それはレイが
フォルデノ城の高い城壁の上辺りに設置された砲台であるとサイガン辺りはたかを
けれどもヴァロウズとしてフォルデノ城に幾度も出入りをしていたレイは、違和感を覚えつつも撃ち抜いたのだ。
ルイス等は電磁砲台をあろうことか城下町のど真ん中、噴水広場に設置したのだ。
後はレイが狙い撃った場所を目掛けて、ネロ・カルビノンの他の銃火器も全てそちらに向けて派手に撃ち続けて、この地獄絵図を描く手伝いをさせられていた。
「だ、だがな、俺の知るマーダ様のやり方が続いているのだとしたら、住民達は此処にいねえ筈だ」
「れ、レイ? そ、そうなのか?」
「嗚呼……俺がヴァロウズの一員であった頃、ただの住人達は地下にある
マーダの意外な一面をレイから聞かされたガロウが驚く。エドナ村をアディシルドで半分斬り裂いた悪魔の如き
「その代わり、ホレ……あの家を見な」
「あ、アレは!」
レイが実に忌々しいと言いたげな顔つきでガロウに促す。三階建てあろう割合大きめな民家の窓から
さらに通り過ぎた民家の軒下から、
ズダダダダダッ!!
それをレイが車の最後部に付けてある機関銃で蜂の巣にする。死んだかと思いきや、頭を撃ち抜いたというのに再び立ち上がり向かってこようとしている。
「マーダ様はなあ、住民……即ち非戦闘員には
「な、成程……」
「アレはアレなりに戦いに対する美学………そんなクソみたいなもん持ってた訳よ。おぃ! ローダッ! そろそろ約束通り本気でやっちまうが構わねえよな?」
マーダのことを先程からあえて様付けして呼んでいるレイ。このフォルデノ王国のみならずアドノス島自体を戦乱に巻き込んだ
けれど悪とはいえ、自分の配下に置いた民を戦いに巻き込まない………それは結果論に過ぎないのだが、マーダのそういうところには一目置いているようだ。
機関銃で頭を蜂の巣にしたいうのに死なない
レイが一応ローダに伺いを立てている「本気」とは無論、アイリスの使用許可だ。
―勿論だ、レイだけじゃない。皆、
ローダが
暴れ放題だとニヤつく者、いよいよ最後の戦だと自然と引き締まる者、目的こそ同じだが人の意識はそれぞれ異なるものだ。
―但し人間の身体には限界がある………。脳に関わる耐性は此方が受けもつが、長時間の使用は肉体の方が負けてしまうんだ。それを決して忘れないでくれ、以上だ。
「よっしゃあァァァ! レイッ!
「
「何だそれ格好良いじゃねえの………。ランチア・ラオ・ポルテガ、目標を……」
「……
レイ、ガロウがそれぞれ自分の名に於いて敵を根絶する宣言をする。
それを聞いたランチアが真似をしようとしたところ、最後の台詞をプリドールに持っていかれて
「風の精霊達よ、あの者等に自由の翼をっ!」
「ヤレヤレ………私、騒がしいのは余り得意じゃないのですが。物事は常にスマートにいきたい
此処でベランドナが全ての仲間達に自由の翼を授ける、飛んで戦わない者もいるだろうがお構いなしだ。
その隣で
「「「「アイリスッ!!」」」」
レイ、ガロウ、ランチア、プリドール、それぞれ
「おぅ、そこ
「この犬っころがッ! せめて派手に散りなッ! オラオラオラァッ!!」
ただの機関銃であった筈のものが、急激に
「
「団長? そんな雑魚で良いのかい? デカいのが選り取り見取りだってのに」
ランチアが死した人間の兵を召喚した連中と
副団長の
…………白い狼が率いる連中による進撃の幕がいよいよ上がった。
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