第15話 全てを導く笑顔
遂にローダの勝利で決着したトレノとの争い。これにてカノンにおける全ての戦いが終わり、カノン攻略は成った。
(ヴァロウズ3番目の剣士トレノ………そしてルシアが相手をした5番目の女拳闘士ティン・クェン。何れも恐ろしく強い相手だった………)
トレノとの
強いルシアはともかく、自分は良く生き残れたものだと改めて実感する。
(4番目の魔導士フォウ、まだ見たこともない1番目………そして扉の力を得たらしいルイス。まだ彼等が残っているんだ………俺は本当に勝てるのか?)
フォウとまだ見ぬ1番目の相手は全力を振り
そんな
「………グッ!」
トレノに最後の
ドッと前のめりにその場へと倒れる。
「ローダッ!」
「ローダ兄さまっ!」
ルシアとリイナを先頭に仲間全員が、倒れてしまった彼の元へ慌てて駆け寄る。
「リイナ、全回復の奇跡とやらはまだ………」
「
父の「まだ
ローダの酷い傷があっという間に
「大丈夫、あれだけの戦いと傷を負ったのです。暫く寝かせてあげましょう」
リイナの言葉より先にルシアは、大事な
(良く頑張ったね、今はゆっくり休んで………)
ルシアはローダの頭を優しく
周りの仲間達はそんな二人を
「………終わったらしいな」
ガロウが念の為、周囲を見渡して、他に敵らしい影がない事を確認した。
視線があったランチアが「へへっ」と鼻の頭を
ジェリドが無言で地面を掘り始める。勿論、二人の
暫く無言で作業をしていたが、突然ボソッと口にしたその言葉が、仲間達の意識を集中させる。
「あれは………あの声は何だったのだ。皆も聞いたであろう?」
作業の手は決して緩めない。ジェリドらしい無骨な態度だ。
「はい、きっと此処にいる皆さんが同じ声を聴き、同じ力を感じた事でしょう」
「あれが、サイガン様の言う本当の扉の力、意識共有の真の姿なのでしょうか?」
先ず話に乗って来たのはドゥーウェンである。汚れた眼鏡のレンズを吹きながら語る。
リイナはあの戦いの
けれどもそれが扉による意識共有であったのかは自信がない。
「でも判んねえな。ローダはティン・クェンとトレノ、この二人によって8つ迄封印を解いた。だがまだ8つだ。何かの
うのはちょっと無理がねえか?」
腕を組んで頭を
「確かにまだ全ての
ドゥーウェンがニッコリと笑いながらルシアの方に目を流す。
「……え?」
急に自分が
「意識どころじゃない、貴女とローダ君は、真の意味で結ばれたのですからね」
さらにニコニコ笑い続けるドゥーウェンの
「えっ? えっ? そ、それってまさか!?」
「あーっ、そういう事?」
リイナの声が
ガロウもニヤニヤしながらルシアの方を見る。ランチアも合点いったとばかりに
「意味は良く判んねえけど、やった事は判ったわ。ハアー、めでたいめでたい………」
レイは扉の事なんてまだ良く判ってはいない。しかしそこの男女の行為の結果は、呆れる程に理解した。
「つまり
ベランドナが歯に
皆の視線の注目を集めながら、ルシアは
「お、お、お、お姉さまっ!? えっ!? えぇぇぇぇぇっ!?」
一人リイナは周囲に響き渡る大声を出して真っ赤な顔で大いに驚いた。
暫く時間を置いてからドゥーウェンは再び口を開く。
「いや………正直言いましてこんな形で封印を解くのは全く想定外でしたよ。だけどまあ、冷静に
自分の頭をポンポン叩きながら、この
「ただ………それにしたって9つなんですよねえ………」
「はっ? お前それでもヴァロウズ2番目の学者か? カーッ、信じらんねえ。バッカじゃねえの?」
冷ややかな目でレイはそう言うと、次に腹を抱えて笑う。プリドールは笑ってこそいないが、レイと同意見らしく、少し顔を赤らめながらそっぽを向いた。
「………まあ当然の見解ですね」
ベランドナにも判っているらしい。
これにはドゥーウェンが絶句しつつ、ルシアの方を向く。解答を欲している生徒の様な必死さである。
「10……と、言うより9.5? 良く判らないけど、限りなく10に近いって感じなのかな。まだ生まれた訳じゃないから。でも………私とこの子が
ルシアは相変わらず真っ赤だが、しっかりと顔を上げてドゥーウェンと、仲間達に相変わらずの小さな声で告げた。そのまま片手で自分のお腹を
「うわああぁぁぁあ! そ、そういう事ですかあっ!!」
リイナの次はドゥーウェンの声が周囲に響き渡る。こんな
相変わらず恥ずかしくて顔を
「ドゥーウェン、お前ひょっとして
笑い続けながらレイが指差しながら大いにからかう。
ひとしきり笑ってからジェリドが冷静な口を開く。いつの間にか、地面に
「ルシア、
ジェリドの問いにルシアは無言で首を横に振った。
「言える訳がねえよな、もし言ったらこの甘ちゃんのパパは間違いなく、お前を戦わせたりしねえ」
(おめでたい連中だよ、全く…………)
レイは呆れ顔を続けたが、だが悪くないと心の底では少しだけ笑っている。自分にもそんな時があったことを思い出す。
「
いくらローダが
ルシアは静かに頷いた。皆が彼女の言葉を求めている。ゆっくりと言葉を選びながら答え始める。
「うん………私もこれ以上隠す気はないの。でも………私、大丈夫な気がするの。さっきの力、皆気づいた?」
(さっきの力……)
ようやく平静を取り戻したリイナが回想する。
「あ、そう言えば緑色の輝き、ローダ兄さまだけでなくて、ルシア姉さまからも負けない位の輝きが出ていた様な気が……」
リイナの声を聴いたドゥーウェンがハッとする。一つ仮説が浮かんだが、それは言葉にしなかった。いや………出来なかった。
「ただの
やっぱり恥ずかしそうに………でもそれに負けない位
「多分、どんな事をしてもこの力だけは、ローダのお兄さんには得られない希望だと私は信じたい。私の想いとこの子の想いがあれば…………きっと、うん、大丈夫」
改めてルシアは穏やかだが此処にいる誰もが成し得ない笑顔を見せた。聖母マリアとはこんな全てを導く笑顔だったかも知れない。
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