第14話 温かな輝きと共に葬送する楼雫(ろうだ)
ローダは既に二度もトレノこと
一度目は
二度目はガロウからコピーした技、
「……判ってくれ、俺は殺したくない。いや、殺せないんだ」
先程までの堂々たる振る舞いから一変して、ローダは顔を
「
「俺は…………今のマーダ、いやルイスすら止めなければならないんだ、殺すことなく………」
言葉に詰まるローダの答えを聞いた士郎は、声高らかに笑い飛ばした。
「そうかそうか………だから
「………それでも俺はやらなければ。それに実の兄を斬れるものかっ!」
手を叩いて士郎はローダの
ローダとて自らの言ってることが
「最早、
「なっ!?」
士郎は刀の刃の部分を素手で握り、何と自分の胸に刺した。その
(自決? いや、違う………)
「ローダッ、気をつけろッ! そいつまだ終わる気はないッ!」
ガロウの叫び声が飛ぶのよりも速く、士郎は地面に向けて凍気の刃を放った。
その先にいるのは、傷の
「よ、よせ! 止めろッ!!」
それを見たローダはアイリスによる速度の底上げを存分に
アイリスの能力増加をフルに発揮すればこの位のことは
「どうだ………貴様はこれでも戦えないと言うのか?」
「……………ッ!」
士郎が刀をローダに向けて冷笑する。対するローダは無言で剣を握り締め、次に歯を喰いしばる。
「殺らねば貴様の大事な女の命が散るだけだッ!!」
「……判った」
士郎の怒鳴り声の後、ローダはポツリと
「………お前は殺す」
「それでこそだッ!」
ローダが士郎の真正面を向いて、両手の剣を逆手に構えた。加えてその二刀を振るいながら真っ直ぐに
士郎は舌
「「なっ!?」」
ガロウとジェリドがその
士郎の右手は瞬く間に凍りつき、そして刃の様な形になった。左の刀は逆手のままだ。
「な、何と! あれで二刀に対するというのか!?」
(何という
ジェリドは士郎という男を
自らの技と能力に
ローダの覚悟が足りねば下手をすると、此処から結果が
―急ぐのです、ローダさん。間もなく
ドゥーウェンも
「「はぁぁぁぁぁっ!」」
ローダと士郎………互いの声と意識が戦いを呼び、それが剣となってぶつかり合う。
ローダが左右の逆手に握った剣をまるで殴る様なモーションで繰り出す。士郎も左手の刀と刃となった右手で応じる。
一見
「終わらんッ!!」
手刀をローダの右肩へと繰り出す士郎。チタンで出来た鎧すらも斬り裂き、ローダの肩から血が吹き出す。なれど同時に士郎の手刀は砕け散った。
此処で遂にローダの
「恐らく剣士としての底力は士郎の方が上だろう。だがアイリスとやらの力をフルに活かせば今の攻撃で墜とせた筈だ………」
「あの馬鹿………結局
ジェリド、ガロウ………そしてローダの戦いぶりに見てる誰しもが
(や、やはり俺には出来ないのか…………)
落胆したのはローダ自身も同然であった。
―…………ローダ、ローダ。
不意にローダの心の中に直接声が響いてきた。
―ローダよ、
(………ガロウ?)
―お前にも判っているだろう。彼は彼女の所へ………両親の元へ
(………ジェリド、アンタなのか?)
―そうだ、さっさとソイツを
(………レ、レイだと?)
―ローダ、生かすだけが救いなんかじゃあない。
―お前のエゴでこれ以上苦しめるのは止めるんだ。
(………ランチア? プリドールまで?)
ローダに仲間達の声らしき全てが
さらに全身から消えていた
(こ、これは? この温かな光は一体!?)
緑の輝きは強さを増してくる。そして失った筈の力が再び
―ローダさん、貴方にはもうすべきことが見えている。
―そう、マスターの言う通りです。もう悩みを抱えていないでしょう。
(ドゥーウェン? ベランドナ?)
「ローダ兄さま、皆の声が……想いが届いているのでしょう?」
穏やかな顔つきでリイナは立ち上がった。ルシアに
そしてこの地球上で誰より
「ローダ、帰って来て。私の
ルシアはゆっくり立ち上がると、微笑みと共にローダに向けて両腕を広げた。そこからローダと同じ緑色の輝きが、渦を巻きつつ飛び出した。
「な、何だこれは!?」
二人の輝きは士郎の驚きすらも優しく包み込む。そして敵である自分の身体の痛みすら消えてゆく事に言い表しようのない気分になってゆく。
(と……
士郎の目には散り散りであった緑色の輝きが一瞬形を成して、
ローダは我を取り戻すと左手の脇差を
「士郎、これがお互い最後の一太刀だ。そしてお前をトレノとして、
(………ジオ、お前の声もリイナを通して確かに聞いた)
ローダが勇気の剣を最上段に構える。それを見た士郎は自然と微笑みを浮かべた。冷笑ではなかった。どこか
(………こんな笑い方、俺にも出来たのだな)
士郎は笑い方もだが、そもそもこんな事に気づいた自分に驚く。今なら
(だが……それは違う)
士郎も刃こぼれしたボロボロの氷狼の刃を得意の最下段に構えた。此方は最早、左手しか残っていない。
次の瞬間、どちらかが最期を迎えるなどとは、到底思えない。
しかも周りの連中も穏やかな顔つきでその行く末を見守る気分なのである。
近くに花など咲いてはいないのだが、花びらが宙を舞い、そして地面に落ちた。互いにそれが合図と決めていたかの如く、
「
「『
お互い技の言い合いまで同刻かつ穏やかである。文字通り士郎の刃は、足元から天高く跳んで行く白い狼を思わせる
対するローダの刃は、どんな山岳より高い所から落ちて来た一粒の
たった一つの雫なれど、それは神が落とした
それは士郎の剣ごと相手を紙切れの様に斬り、首元から
これはローダの力によるものか、士郎の最期の力によるものか。その
地面に落ちた氷像は砕け散り、トレノの母エレーヌの故郷に降る雪のように輝いた。
(扉の剣士よ、心底感謝する。ティン……お前は地獄か? いや、願わくば
ローダには士郎………いや、トレノの魂が飛んで行く所が見えた気がした。剣を天へとかざし、
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