第13話 二刀の正体と不殺(ころさず)の押し付け

 AYAME Ver2.0 アイリスを何故此処まで引っ張る必要があったのかガロウに問われたドゥーウェンが何故か挙動不審きょどうふしんになってしまう。


(い、言えない。平成の格ゲーみたいに、ある程度ダメージを受けたら条件を満たす設定にしたなんて! これだけは誰にも言えない……)


 ドゥーウェン………今でこそ金髪と181cmという高い身長を活かし欧米人おうべいじんの如く振舞っているが、元々は日本人の吉野亮一よしのりょういちなのだ。


 オタク思考の彼らしい設定といった所か………少々痛々しい。


 またドゥーウェンにはもう一つ、本当に答えられないものがある。確かにルシアは肋骨ろっこつを折るという重症を負って、このある程度のダメージという条件をクリアしていた。


 一方ローダ、測定値では充分だったものの、けれど受けたダメージと言えば、両腕が凍傷になった事と、かまいたちによって負わされた傷といった程度。


 戦いによる疲労はあるだろうが、ドゥーウェンの認知する条件には程遠い。


 つまりローダが条件を満たした理由を彼は語れないのだ。いて挙げるなら「慣れるとそれすら調整が効く……」とドゥーウェンが告げていた少々怪しげな予想を既に満たしているかも知れない。


「おーっ、やってんなあ………ティンの奴は殺られちまったのか」

「お前、随分ずいぶん遅かったな? 一体何処で油売ってたんだ?」


 遅れて二丁拳銃使いのレイが姿を現し、悠長ゆうちょうな態度で戦場を見渡す。

 後ろを振り返り、ガロウがたずねる。つい先程仲間になったとは思えない気軽さがある。


「いや、あんな畜生ノヴァンでも元々仲間だったんだぜ。少し祈りを捧げて来たって訳よ」


「ハア? お前がそんなガラか?」


「レイだったか………後ろに何を隠している? ドラゴンというのは財宝ざいほうを集める習性しゅうせいがあるを聞いたが………」


 ジェリドがレイの背後を気にしながら、自分の知識を開いてみた。それを聞いたレイはひたいに手を当てて、アチャーといった仕草しぐさをした。


「てめえ……呆れた女だな。そういうの墓場泥棒はかばどろぼうって言うんだぞ」


「まあまあ、細かい事は言いっこなしって事で。それよりもアレが、俺からうばったか」


 ガロウが呆れたつらで釘を刺すが、レイはサラッと流したうえで、シレッとこんな事を言ってのけた。


「「ハァッ!?」」


「何二人して驚いてんだ? 俺様の二丁拳銃、あの野郎ローダの二刀流。そのまんまじゃねえか」


 ガロウとジェリドの驚きが重なった。そんな驚く二人を他所よそにレイは真顔で答える。


「いやいや、可笑おかしいだろそれは! お前は拳銃、あれは剣! 扱うモンが全然違うだろうっ!」


「アッ!? お前らそれでも戦士かあ? 嗚呼……そうか拳銃、いや、拳銃使いを良く知らないんだな。なら仕方ねえか」


 ガロウが右手を振りながら懸命けんめいに否定する。それをケラケラと笑い飛ばすレイ。


「優れた拳銃使いってのは、素手すでの格闘、次にナイフやダガーみたいな短い得物えものの戦闘を叩き込むんだ。お前ら剣士だって無手になった時の格闘術を覚えるだろ? 俺みたいな銃使いは優れた武器使いでも、あ・る・ん・だ・ぜっ!」


 レイはドヤ顔で二人の戦士に向かい、何も持っていない手を突き出して首をき切る仕草をした。


「………まあ、もっともあんな二刀の使い方はしないがな」


 そう言ってからレイは、ヤレヤレと締めくくった。


(成程、合点した。しかしさっきの示現流しかり、ローダはただ相手の技を盗むだけでなく、完全に昇華しょうかさせ自分のものにしている。これは強い………)


 合点がいったとジェリドは思う。けれど器用貧乏きようびんぼうになりはしないか……最後まで使い切れるのか? 心配はその一点にきる。


 ローダと士郎の戦いに話を戻す。


 ローダは例の櫻道おうどうをさらに繰り出す、さながら火山の噴火口ふんかこうの如く激しい攻撃。なれど士郎とて黙ってはいない。


「フンッ!」


 ローダと全く同じモーションで氷狼の刃を下方から繰り出すと、なんとマグマの様な攻撃を氷の壁に豹変ひょうへんさせてしまった。


(一瞬で!?)


 驚くローダを他所よそに士郎は、凍った炎の上を悠々ゆうゆうと飛び、上空から再び接近戦に持ち込む。


 上下左右、前方、後方、ありとあらゆる所から氷狼の刃が襲いかかる。


 ローダも二刀を駆使くしし、ことごとくそれらをしのぐ。ただ立ち位置までは変える事が出来ず、その場に釘付けとなってしまった。


 氷狼の刃を操る士郎が青い輝き、対するローダは赤い輝きでもって空に映える。剣を交える度に互いの光が飛び散るのが美しい。


(んっ?)


 ふと自分の身体が重くなっている様な気がするローダ。激化する士郎の剣技に応対するのが遅れそうになる。


(……かかった)


 士郎は心中だけで笑いながら、下段からの逆袈裟けさ斬りで遂にローダの左腿ひだりももを斬った。


「ウグッ!?」


 ローダの顔が苦痛にゆがむ。遂にこれ迄で一番の深手ふかでを負ってしまった。

 宙に浮いているので移動にこそ支障ししょうはないが出血がひどい。


 このまま長時間戦うのは極めて危険だ。加えてさらなる不幸が直ぐにやってくる。


(か、身体が言う事を利かない!?)


 ローダの周りの空気が完全に白い。身体どころか、口を動かすのも怪しい。


 これは凍気による攻撃である。先程の様に身体の一部だけを瞬時に凍らせるよりも時間はかかるが、ゆっくりと周囲の気温を奪われるで気づくのが遅れてしまうのだ。


「頂くッ!」


 やはり士郎は、ローダの首を所望しょもうしている。刀を逆手さかてに持ち変えて、狙いを定めて払う様な一撃を繰り出した。


 するとローダの全身の赤い輝きがさらに増す。特に左の日本刀の赤が尋常じんじょうではない、そして彼自身が大爆発した。


 凍気は水蒸気すいじょうきに変化し、姿が見えなくなった。


「馬鹿なっ! 動きも出来ない奴が一体何を!?」


「何ぃ? ………それはいよいよデタラメだ。もっとも俺にも実践じっせん出来たことがないけどな」


 慌てて士郎は爆発を避けると、蒸気を振り払いながらローダを必死に探す。

 その様子を見ていたガロウだけが苦笑いする。


示現真打じげんしんうち奥義おうぎ櫻島さくらじま』」

(………くっ! 自爆ではないか!)


 ローダは煙を払いのけると堂々とその技の名を告げる。自らの体温を瞬時に急上昇させ爆発させたのだから、無傷ではいられない。


 凍傷を負いそうな身体であったのに、あちこちに火傷を負っている。


 この無謀むぼうさ故に士郎は驚き、迂闊うかつにも刹那せつな動きを止める。それを見逃すローダではない。


「示現真打! 『櫻打おうだ』ッ!」


 ローダはノーモーションで、赤くたぎる脇差の柄で士郎の胸を強打した。

 流石の士郎もこれは避けきれずまともに喰らう。


「何ィィィッ! ぐわぁぁぁ!!」


 士郎の身体がくの字に曲がり、その胸から血が吹き出す。傷を押さえながら初めて苦悶くもんの表情になる。遂に彼も致命ちめいに繋がる傷を負った。


「あの野郎っ! また俺の技をっ!」


しかし示現の技は一撃必殺。俺でさえ、あれを決めれば仕留しとめられる………)


「………やはり未だに彼は非情ひじょうになりきれんのか」


 ガロウの気持ちをみ取ったジェリドが口を代わりに開く。まゆせた顔で首を振っている。


「何故だ………」


 恐らく肺をつぶされたようだ。胸を押さえながら士郎がつぶやく。


「何故だ何故だ何故だっ! 貴様とうに俺を殺れているだろうっ!」

「………決着はついたんだ、無駄に死ぬ事はない」


 つぶやきが怒りの咆哮ほうこうに変わる。士郎もとっくに気づいていたのだ。飛び散る吐血がローダにも降りかかる。


 静かにさとす様に応じるローダ。左足の傷を衣服をやぶり、固くしばって一応の止血しけつを試みる。


貴様きっさまァァッ! ふざけるなッ! 無駄と言ったかッ!?」


 怒りの咆哮ほうこうを上げながら、士郎が闇雲やみくもに剣を振り下ろす。

 なれどもう力が入らないのか、ローダはいとも簡単に右のロングソードで受け止める。


「嗚呼、無駄だと言った。貴様程の男が、マーダなんかのために命を散らす事は無駄だと言っているんだ」


(………ローダ、それは死より受け入れがた屈辱くつじょくだ)


 サラリッと言ってのけるローダを見ながら今度はガロウが首を横に振る。誰が何と言おうが今の士郎は「マーダなんか………」に忠誠ちゅうせいを誓っているのだ。


 負けるのであれば、そのまま生き恥をさらすことなど到底とうてい容認ようにん出来はしない。


 ………此処に至ってなお不殺ころさずを相手に押し付ける。それは身勝手エゴイストが過ぎるというものだ。

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