第21話 焦る学者
フォルテザの砦、
過去に少し触れたとおり、
実にザックリとしたシナリオ。ドゥーウェンの付き人であるハイエルフのベランドナ。
彼女が主の無能さ故に反旗を掲げて、砦にいるエディン兵らと共にドゥーウェンを討つという子供
さらにその前にエドル自治区の神殿遺跡と、その町テンピアを占拠した
……が、肝心のエドル神殿の戦いがからくも勝利に終わったとはいえ、そのゴタゴタから未だに勝利宣言が出来ていない。
ドゥーウェンも先述の通り、状況は理解しているので仕方のない事と、静観している。
一応作戦は進行中という事で、ベランドナは、この部屋にはいない。
作戦が始まったら、他のエディン兵を引き連れてこちらにやってくる
ドゥーウェンは一人、先程サイガンと話した内容について考えていた。
「彼が遂にあの力を手にしてしまった。どうやって手にしたのかは不明だが、完全な力ではない筈だ。ローダ君が完全に
机の上を人差し指でコツコツと叩きながら、自分が現状把握している事を整理する。
「しかしだ、これ程イレギュラーな事が起きていると、それも絶対とは正直言い
ノートパソコンのキーボードを叩きつつ彼の情報と、彼がローダと戦った時の戦績データを比較する。
「彼は確か……そう、ローダ君のお兄さんであるルイスの身体を支配する事で今の自分を維持している。よってローダ君の最初の封印『
頬を叩かれたようにドゥーウェンは、ハッとする。思わずキーボードの
「そ、そうだっ! そういう事かっ! じ、実にシンプルな答えだ。
そこへ不意に後ろから矢が飛んできて、机の一角に突き刺さった。
「うわぁっ!?」
その矢を
「な、何をするんだベランドナ!? まだ開始の合図は来て……」
振り返ったドゥーウェンは絶句する。そこには次の矢を打つべく弓を引き絞るベランドナと隣にもう一人、見知った顔がいたからだ。
「フォ、フォウ!?」
そう、後ろにいたもう一人はヴァロウズ4番目の女魔導士、フォウ・クワットロだったのである。
「久しいな、学者
フォウは不敵な笑みを浮かべてドゥーウェンを見つめていた。
「あ、貴女っ! 一体どうやって此処まで!?」
「此処まで? 嗚呼、此方の御婦人が私をまるで
楽しげに応じるフォウ。ベランドナから一歩下がった位置で、彼女の方を
「べ、ベランドナ!?」
それを聞いたドゥーウェンは、ベランドナの方をよく観察する。眼光が赤く輝いていた。
「フォウ、貴女! 暗闇の雲の術を使ったのですかっ!?」
「流石、
そう言ってフォウはフフッと笑った。
「クッ! まさか魔法耐性の高いベランドナを堕とすとは!」
「そうね、案外あっけなかったわ。そんな事よりも学者殿、先程から彼の力がどうとか言ってたわね。彼とは、私も良く存じ上げてる彼の事かしら?」
彼を連呼しながら、フォウはさらにニヤニヤ笑いつつ、ドゥーウェンに詰め寄る。
(し、しまった! 聞かれていた!?)
「ねえ、私、その話とても興味あるのだけど。内容によっては見逃してあげるかも知れないわよ…」
フォウの声のトーンが変わる。マーダの事となると彼女には途端に艶が出る。
「……な、何の事ですか?」
この場は意地でもしらを切り通す覚悟のドゥーウェン。この自分の仮説が知られては、いよいよマーダは手が付けられない事になるかも知れない。
(……いや、既にもう手遅れかも知れないが)
この状況においてドゥーウェンは、自らの
「成程……。私もまだ死にたくはありませんからね。近頃のマーダ様、何か変わったと思われた事はないですか?」
スっと立ち上がり、両の掌を拡げたドゥーウェン。何も武器は持ってないという意思表示だ。
質問を質問で返す、少し頭に頼りがある者程、このやり方にはイラッとする筈だ。
(……何っ!?)
それはもう、物欲しそうな顔をしてモニターを見続けていたフォウの顔色が明らかに変わった。
「貴様ッ! 一体何を知っている!?」
「知りませんねぇ………。あの
マーダとフォウが毎日のルーティンのように
完全にハッタリとデマかせを言っているに過ぎない。
「サッサと口を開く方が
「……い、良いんですか? 最高に
突然
(……う、うわぁ噛みつき過ぎですよ。これだから
やりにくさを感じるドゥーウェン。そう言えば先生も
ならば生徒の出来が悪くなっても仕方がないなどと、どうでも良い事を
「此処に来るまでの間、他の連中は夢の中に落としてきた。しかもこの可愛いベランドナがやってくれたのよ。学者殿は、実に優秀なカードをお持ちだ」
フォウも決して上手いこと交渉が出来てるとは言い難い。取り合えず仲間は来ないという、実に
「そうです。僕のベランドナは実に優秀なんですよ。彼女の実力も含めて僕は2番目になれたと言ってもいい位です」
恐らくルイスがマーダに少なからず影響を及ぼしているというヒントは得られた。
今はもうそれだけで此方側の収穫は上々だ。
(さて……後は何とかしてベランドナを取り戻すまで間を持たせないと。これは厳しい)
冷や汗かき通しのドゥーウェン、まあ無理もない。彼はただの学者どころか
一人きりで戦うとか完全に担当業務を
「そんな話はどうでもいいと言ってるっ!」
「フッ、
とにかく
「何ィ?」
「聞こえませんでしたか? 勘違いしないで欲しいと言っている。僕はただの学者ではない。まだ
ただの学者ですらないに凄みを見せるドゥーウェン。フォウを指差しながらそう告げた。
(いやいやいやいや、どうするんだ僕。確かにアレを使えば100%勝てる! だがもし使ってみろ、彼女の目を通してマーダに見られるかも知れない! それだけは避けたい! イヤッ! それ以前にッ! こんなつまらない場面で切り札を使うのは、僕の美学に反するッ!)
格好つけている割に、頼りにしている頭の中はフラフラと揺れている。勝利よりも
「どうしたのよ、何かやるんならやってみなさいよ」
まるで見透かしたかの様にフォウが詰め寄る。
すると部屋の中に1本のジャベリンが飛んできて突き刺さった。
「フッ、まだ寝ていない兵士がいたか」
余裕ある態度でフォウは、部屋の入口の方に視線を送る。
(いや、こんな武器を使える仲間を僕は知らない……。み、味方なのか!?)
ドゥーウェンはこの青い槍を初めて見た。
「そうか、そうだったのか。俺様が面白そうだと思ったのはお前達か」
ベランドナは入口に向かって3本の矢を同時に放つ。しかしそれは高速に回転させたジャベリンで全て落とされた。
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