第5話 貴族の嗜み
ガロウ達、エドナ村から転送された民衆軍の連中が
フォルテザの街は街自体に石塁や堀があり、攻め込みにくい様な工夫がされているが、その中心にある砦は、街の者を避難させて
この大広間は、町の者達を受け入れるために作った部屋である。フォルデノ城の大広間の様に、宴をする場所ではないので、凝った
けれど
空のワイングラス達は、自分達が赤か白で満たされるのを待っているかの様である。
既に砦の兵士達と、街から
その華や食事よりも先にガロウは、一人の見知った老人が立っているのを見つけて思わず声を上げる。
「ビ、ビスワン、ビスワンじゃねえか!」
「おお、ガロウではないか、待っておったぞ」
階段の上から呼ばれた老人がガロウ達の方へ身体ごと視線を移す。ビスワンと呼ばれた老人は、このエディン自治区の長である。
『我々が落ちたらアドノスが終わる、それだけは避けねばならん。今は
これを言い残し、
走って階段を降りると真っ先にビスワンの元に駆けつけるガロウ。目に活気が
「ほ、本当に生きていたのですね。良かった、本当に良かった………」
珍しく敬語を使うガロウ。そして長の手を両手で握る。
「あ、あれは
「いや、決してその様な事はない、私とて知らなかったのだ。ロットレン殿とドゥーウェン殿が繋がっていたことなど」
彼は砦にいる味方の目すら
「まあ、もっとも三食昼寝付きで仕事なんぞ、何もせんで良かったから実に
そう言ってカカカっと笑い飛ばし「全くロットレンには、してやられたわ」と締めくくった。
「皆様、今宵迄はこの砦を預かる主人としての
階段の踊り場からドゥーウェンが
「そして今夜の主役を紹介いたします。あのサイガン・ロットレン氏の孫娘であられるルシア・ロットレン嬢と、そしてあの黒い剣士を退けた英雄、ローダ・ファルムーンです!」
ローダは白ベースに少しだけグレーが入ったタキシード姿、胸には青い
一方ルシアは、深く美しい海を思わせるドレス姿で現れた。白い両肩を出しており、腰の辺りには斜めに大きなひだがついている。
頭の左上には、これまた青い薔薇の飾りがついていた。派手ではないが、ルシアの美しさを
ここまで
そんなルシアの手を優しく握るローダは、意外にも堂々と彼女の事をエスコートしている。
一同から更なる歓声が沸き起こった。
「お姉さまぁぁぁぁ! 綺麗っ! 綺麗っ! 素敵過ぎるっ!」
(………そしてなんだかローダさんが妙に格好いい!?)
跳ねながら大はしゃぎで大きく二人に向かって手を振り続けるリイナである。
「「おおっ……」」
ジェリドとガロウは、ルシアのドレス姿にも驚いたが、ローダがまるで一流貴族の様に堂々と
皆が見つめる中、歩きづらそうにしているルシアに自然と歩幅を合わせて、階段を無事に降りると、二人にもグラスに注がれたワインが渡された。
「では皆様、エディンとアドノスの未来に乾杯!」
ドゥーウェンの仕切りで皆がグラスを
しつこい様だが、ここは砦なので
ルシアは席にゆっくりと腰を下ろすと「ようやく落ち着ける」と一息ついた。するとローダが料理を取り分けて、運んで来てくれた。
「あ、ありがと…………」
「他にも何かあったら言ってくれ」
先程より何から何まで別人の様な自信のある振舞いをしているローダ。ルシアは戸惑い、
「お姉さまっ!」
リイナが後ろから声をかけてきたのでルシアは、ビクっと肩を
「な、何、どうしたのリイナ?」
一生懸命にルシアは取り
「何だかローダさんが、随分生き生きとしていませんか?」
「………ああ、俺も同感だねぇ。何だいありゃ?」
リイナに続いてガロウもその話題にのっかってくる。
「あー、スマンッ。なんか鼻についてしまったか?」
鼻の頭を
「あ、いえいえ………」
「
リイナが首を横にブルブル大きく振る。ガロウも本気で頭を下げる。
「あ、いや、皆の言いたいことはなんとなく判る。それこそ嫌味っぽく聞こえるかも知れないが、俺、こういうのって割と慣れているんだ」
「あ………。そう言えばローダさんて確か、
少し恥ずかし気なローダに対して、リイナが質問で詰め寄ってくる。
「そ、そういう事。こういう宴にはガキの頃から出されていたんだ。嫌でも慣れるってものさ」
「納得です、本物の貴族出身って事ですね。実に
素直にリイナは
「成程な………。じゃあ貴族の御婦人をエスコートするのも慣れてらっしゃるのか騎士殿?」
ちょっと
「そ、それはだな。義父さんと
「「ふーーーん………」」
リイナとルシアがなんだかなあ……
食事が一通り終わると、ドレスを着た女性をダンスに誘う騎士や戦士が出てきた。特にフォルテザ出身の連中は、こういう行事に多少は慣れているらしい。
その中でも特に際立っていたのはドゥーウェンとベランドナのペアであった。高身長でお互い
ルシアも同様に、
サッと立ち上がるとルシアの前に歩み寄るローダ。そして片膝をついて、頭を下げた後、顔を上げるとルシアの手を
(な、何!?)
「
(れっ、れでえ!?)
またローダがいつもと違うギャップで攻め込んできた。
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