第3話 黒い蜘蛛と屈辱の涙
「
ヴァロウズ8番目の男オットーは、しゃがれた声でその詠唱を
ルシアの右拳は、オットーを
「……な、何、これ」
ルシアはオットーに飛びかかっている最中に、
手足どころか喋る事さえ不自由な気がする。
「ル、ルシア……」
必死に
「……ククククッ、いいザマだなあ。いや、これは実に美しい見せ物だなあ、おぃ」
ルシアのしなやかかつ美しい金髪で手遊びをするオットー。加えて彼女の全身を
「ホレ、どうした? 俺は目の前だぞ?」
嫌らし気なその顔を、ルシアに突き出してさらに勝ち誇る。
「くっ…………」
発声どころか、息さえも苦しい気がしてきたルシア。悔しさと苦痛を
「どうだ、これが俺様が暗黒神より授かった
「ハァハァ……」
本当に苦しそうなルシア。最早驚きを返す余裕すらもない。
「な、なんだと!?」
「く、クソっ!」
ガロウとローダは既に相手の術中で、しかもルシアに先陣を切らせた事を心底悔やんだ。
「後はいつお前らに魔法を仕掛けるか。ただそれだけの実に簡単な作業だァ。しかもおぉぉ、俺のこの赤い目はなあ、お前らが
「……………っ!」
「そしたら女が、飛びかかって来たのが見えたから、此処だなって思った訳よ。どうだ? 悔しいか?」
ルシアの眼前で仕掛けをアッサリとばらすオットー。余裕を態度で示している。
「そしてこの術にかかったが最後……やがて息どころか心臓すら動かなくなり、筋力を失ったその身体の穴という穴から、
「しかしお前は本当に美しいなあ……俺とは大違いだ」
ルシアの
「俺はなあ、ただのエルフだった時に、ハイエルフの女に恋をした。お前よりも美しい女だ。だが
彼は言いながら自分の醜い顔の中でも特に目立つ赤い目を指差す。
「確かに俺はエルフの中でも
「…………」
「………こんなになってまで俺はやったんだ! それなのに、それなのに、醜いと言ってこの仕打ちだ。まあ、どいつこいつもそんなもんだ。美しさこそ正義ッ! 醜いは悪ッ! …だがなあ」
灰色の指をルシアの首筋から肩へ、それをねっとりと往復させて楽しんでいる。
「見ろよ、この醜い俺様の目の前で何も出来ずに好きにされてるこの女。それを指を
その男共に見下した視線をこれでもかと送り付ける。
「き、貴様! ルシアに手を出すなっ!」
ローダが
「ほう、まだそんな口が叩けるのか。んーーーっ? ひょっとしてこの女、お前のか?」
さらに楽しそうな顔でオットーは、ルシアの首をぐぃと
「よおし、決めた、決めたぜぇぇ………」
(……な、何をする気!?)
ルシアはいよいよ一言も声が出せない。
「な、なんだ!?」
オットーのその
「……
オットーは
「この女が醜く死ぬのは、実に惜しい気分になった。そこでこれよ」
ダークエルフの顔が黒い炎に照らされ、
「教えてやるっ! これは俺様のとっておきでよ、コイツに当たった者は、肉体は完全に残り、魂だけが燃え
そして余った右手を舌舐めづり。舌が
「要は俺様の好きに出来るって寸法よ。勿論言うまでもねえが、この炎で燃やすのはこの女だけだあァァ!」
(………こ、こんなヤツに!)
舌を
「や、やめろッ!」
必死にもがいて蜘蛛の糸の
(な、なんて悪趣味な野郎だ)
ガロウも悔しくて仕方がないのだが、心の中で
「お前らには、そのままの死をくれてやる。俺様が
やたらと統率の取れたコボルト兵達の正体も、このダークエルフの得意とする
(……な、泣いている!? 私は死ぬのが怖くて涙を流しているの!?)
ルシアが自分の心の弱さを恥じる。なれど涙を止める事が出来なかった。
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