第4話 天使が放つ光の盾
不覚にも死を恐れ、涙を流し始めたルシア。息をするも辛いというのに、みっともない
その涙を灰色の指ですくい、ペロリッと
「ほう、命乞いすら美しい。ますます気にいった。安心しろ、お前は大事に可愛がってやるからな。マーダ様
オットーは、自分が信仰する暗黒神よりも
「でわッ死ねぇぇ!
黒い炎をオットーがルシアの胸に押し付けようとした、まさにその瞬間であった。
「
甲高く若々しい女性の声が辺りに
さらに神々しい光が巨大な盾の様な形を成して、
その場にいた全員、いや、正確には光を矢の様に打ち出した少女と、その連れである戦士以外が、何事が起ったのか理解出来なかった。
光の盾は特に何かを壊す訳でもなく、ただ圧倒的に前進すると、
「あッ!」
突然、自分が落下している事を認識するルシア。地面に叩きつけられると覚悟するが、太い両腕が受け止めてくれた。
「やあ、大丈夫かな? 久しいな、勇ましき炎の乙女」
それはルシアにとって聞き覚えのある優しさに
「あ、貴方はアルベェラータさん!?」
「おお、覚えていてくれているとは光栄だな。だがこれからは、ただのジェリドだ」
アルベェラータと呼ばれた男は、ルシアを静かに優しく降ろす。
そう、ルシアはこの男を知っている。白き鋼の鎧と背中には柄の長い
元フォルデノ王国騎士団で、ラファン自治区民衆軍の総指揮官、ジェリド・アルベェラータである。
「じゃ、じゃあ、さっきの光は……」
「お姉さまぁぁぁっ!」
ルシアの言葉を
「リ、リイナ!?」
ルシアが顔を赤く染めて、自分を抱きしめる少女の名を呼ぶ。
「良かったっ! 間に合ったっ! 会いたかったっ! ルシアお姉さまっ!」
さらにギュッと”お姉さま”の事を抱きしめ続けるリイナ。まるで飼い主にじゃれつく子犬のようだ。銀髪を揺らして大いにはしゃぐ。
「こらリイナ、まだ戦闘中だ。その位にしなさい」
「あ、いっけない……」
「あの、さっきの光の奇跡は貴女が……」
「そうです、まだ覚えたてなんですけどね。上手くいきました。良かった、この奇跡でお姉さまを護る事が出来て心から嬉しいです」
リイナは再会の挨拶すら忘れていた事に気が付いて、頭を下げてからニコッと微笑んだ。
長い銀髪、綺麗な白い肌、大きな青い瞳、真っ白なエディウス神の司祭の法衣と14歳という若さから溢れ出る
別名『ラファンの森の天使』リイナ・アルベェラータである。
「ルシア、大丈夫かっ!」
そんなやり取りをしている処へローダとガロウが、駆け寄って来た。彼らの束縛も無事解かれていたようである。
声を聞いたルシアは、大きく手を振って二人に健在ぶりをアピールした。
「も、もう、大丈夫よ」
「よ、良かった、本当に……」
そう言ってルシアは微笑と共に返す。けれど先程の束縛の術を一番を強く受けた
ホッと胸を撫でおろすローダ。束縛の糸だけでなく、緊張からもようやく解放され穏やかな顔つきになった。
「来てくれたんだな、アルベェラータ」
「ああ、そういう事だ。これからお前達の指揮下に入る。ジェリドと呼んでくれ」
その手を握り返すジェリド。ガロウはその力強い手に、これ以上の頼もしい
「だが、サムライマスターよ。お前さん、まさか弱くなったのではあるまいな? あの
「…………っ!」
力強い援軍であった筈の男は、戦友に全く
「『
ジェリドはニッと笑って、握手したその上にもう片方の手を載せて握りしめる。
「ああ、勿論だ。俺の血は怒りで、故郷の火山の如く、煮えくりかえっているぜ」
愛刀を握る手に怒りと力を込めるガロウ。
「判る、判るが………」
「わーーてるよっ、頭は常に
ニヤッと笑って
一方オットーは、御神木の上で信じられないといった表情でその身を震わせている。
「こ、この俺様の術が完全に消えた!? なんだあの小娘は!? 知らんぞ、あんな奴ッ!」
そしてもう一度、暗黒神の魔法、
「こ、これは、まさか!? 全ての魔法を封じるという、あの
御神木の下で微笑む少女を
「クソクソクソクソッ! 許せんぞっ! あいつらっ!」
太い枝の上で激しく
そこへガロウが
体制を崩したオットーだが、そこは冷静に他の枝を蹴ったりしながら、無事地面に着地する。
「なんだあ貴様? これだけ仲間がいるというのに、俺様とタイマンする気か?」
オットーは睨みを効かせながら、腰のダガーを右手に掴んだ。
「俺が魔法だけしか取り柄がないと思うなよ。それに貴様とて、もう仲間から魔法での援護は望めまい?」
オットーの言う通りである。リイナの
敵味方、そして魔法の種類は関係ない。
「嗚呼……だがな、それで充分だ。それに……」
ガロウが珍しく上段ではなく、中段に構えを取った。
「貴様は俺の刀の
「ほうっ……面白えなぁ。侍も戦いの最中に冗談を言うのかぁぁ」
戦闘に余計な言葉は無用と決めているガロウだが、今は想いを口にする事で有言を実行すると腹を
対するオットーは、ダガーの刃を
「ガロウ・チュウマ、いざっ! 参るっ!」
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