第1話 煽りを入れる小さな船頭
穏やかとはいえ真夜中の海に浮かぶその船は、小川を流れる
しかしながらその
船の後方にはエタリア国の港町、ルークの街並みが広がっている。エタリアは陽気で派手を好む人が多い。
この街も例外ではなく、街の灯り、灯台、
一方、船の向かう方はまるで別世界の様に暗く、灯りなど
「だけどどうしてあんな島に行くのさ?」
船頭である
「それ、何度目だ。どれだけ聞かれても答える気はない」
青年は面倒臭い顔を隠す気もなく言い放って押し黙る。
不愛想な青年が身に着けている銅製の鎧。
余程長い旅でもしてきたのか、
腰に下げているロングソードの
髪はボサボサの黒髪で
自分と兄弟達が食べていけるだけの漁を
この青年は良い家の出身か、何処かの王族の騎士見習い位の地位はある人物であろうと勝手に
「………あの島に渡りたい、これで頼めるか」
10日程前のこと、この青年は少年の元を訪れると、美しいエメラルドが輝く腕輪を目の前に無造作に置いてそう告げた。
少年は何か訳ありだなと
そして何よりも希望する行き先が
島国アドノス。大陸と比べたら
6つの自治区と、そしてそれらを
加えて大陸の国家に全く引けを取らない軍事力と貿易で栄えている場所であると伝えられている。
ただこの島から良い話は全く聞かない。
それどころかドラゴンの様な
だからアドノスに渡してくれと船乗りに頼む人間は、全て訳ありで普通の船乗りは相手にしないのである。
ところがこの少年、ディンは変わり者であった。まあ若さ
ひっそりとアドノスに渡っては、裕福な連中しかお目に掛かれない装飾品等を拾って来て
そんな
ディンがアドノスに渡るのはいつも夜。彼の頭の中には海に潜む
そして何よりもこの"訳ありの青年"を
ただ変わり者の自分に声を掛けてきた事と同じ、いやそれ以上の変わり者である青年と、もっと話がしたいという欲求を満たしたくて仕方がない。
好奇心旺盛な少年にとって穏やかな夜の海は、余りにも静か過ぎた。
「なあっ!」
ディンは
「どいつもこいつもアンタの頼みを断ったろ? 答えを聞くまでもねえ、門前払いされたろ?」
ニヤニヤと意地の悪い顔で青年を見ながらさらに続ける。
「
意地の悪い視線を送りながらディンは、揺さぶりをかけてきた。
青年はひとつ溜息をついてから、観念して「面白くない話」だと口を開いた。
「俺にはルイスという兄がいる。正確には血は繋がってはいない。俺は兄さんの家、ファルムーン家に拾ってもらった。本当の親の事は全く覚えていない」
青年は夜空を見上げながらボソボソと喋る。まるで感情を何処かへ置き去りにしたかのように。
話を切り出したディンの顔から先程の意地の悪さは消えて、青年の方をじっと見つめる。
「ファルムーン家は代々王宮に
「………」
「18で
淡々と表情を変えることなく青年は続ける。
「あ、うん……」
一体何の話だろうとディンは思い、首を
「騎士団の中でも近衛騎士ともなれば毎日、王の
此処で青年は一度言葉を切る。
「けれど兄さんは20歳を迎える成人の儀式の日に、突然いなくなってしまったんだ」
明らかに青年の声色が変わり曇った生気が宿る。加えて話は、突如重く暗いものへと変わるのだ。
「兄さんが居なくなった時、残りの近衛騎士9人が皆、死んだ。どの死体も人の死に様とは言い
当時を思い出した青年の顔が
「そ、それって……」
驚いたディンの挙動で船の床板が
「そんな訳があるかっ!」
ディンの発言を容赦なく
「すまない……悪かった。皆、今のお前と同じだ。父さんまで兄さんがやったと怒り狂ったよ。でも俺はあの優しい兄さんがそんな事をしたなんて、全く思っちゃいないんだ………する訳がない」
「そうか、うん、そう……だよね」
青年は元の口調に戻ったが、実は平静を取り
ディンも平静を
海だけは、そんな二人を知る
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