第8話 それぞれの扉(道)
こうしてマーダとローダ・ロットレン、さらにルイス・ファルムーンと、その仲間等を巻き込んだ
結局、サイガンという男が残した
それが善と悪、どちらに
サイガン・ロットレンだけは、帰らぬ人となってしまったが、このフォルデノ城へ生きた身体で戦いに
さらにフォルデノ城下町の地下にいる住人達もほぼ無事である。街こそ消えてしまったが、生きてさえいれば、元の活気を取り戻すのに、時間はそうかからないであろう。
「
「あ、貴方ぁぁぁぁ………」
ようやくホーリィーン・アルベェラータが
ルシアがローダの胸の中に、
互いにやるせないその想い……けれど失われた命を戻す
ルシアは涙が枯れるまで泣き、ローダの方は、気が済むまで支えようと思った。
彼女の身体も涙も、とても温かで心地良い。
「………終わったな」
ルイスが隣から声をかけてきた。黒い鎧も衣服も脱ぎ捨てていた。長い間、探し求めた兄の姿をようやく取り戻せた。
「………6年、いや7年か」
「一体何の話だい?」
ボソッと
それに対する
「17歳、アンタを探して旅に出て、今25歳って話だ。2年程前に、黒い鎧を
「嗚呼………成程。そういう話か」
「全く、随分軽く言いやがる。
ローダが
「あーっ、その
ローダの胸でひたすらに泣き
「喋るなっ、お前が扉のマスターで僕を倒しにやって来る!? 僕の方こそ悪い夢でも見てると思いたかったよ。それから苦心して、マーダを説得し……」
ルイスも段々口が悪くなって、とうとう二人は言い合いになってしまった。
普段
ルシアやフォウだけじゃなく、周囲の誰もが、その様子にどう声を掛ければ良いか苦心を
「あ~っ、もうっ、止めて下さいっ! 良い大人同士が何てみっともないっ!」
そんな最中、思い切って二人の間へ割って入ったのは、最年少のリイナである。
「お互い打ち解けてる兄弟だし、久し振りで言いたくなる気持ちも判りますよっ! でも皆が貴方達の盛大な
リイナの実に的確な指摘に28歳のルイスと、25歳のローダは絶句以外の選択肢が見当たらない。これには周囲の仲間達が一斉に噴き出す。
ずっと泣いていたルシアですら、これは笑わずにいられなかった。
ローダは自身の愚かさが引き出したとはいえ、ようやく彼女の笑顔を見る事が出来て、救われた気分になれた。
(いや、ルシアだけじゃない。此処にいる皆の笑顔。加えてこの戦いに於いて
(そんな皆に救われて、此処に立って幸せを
ローダも途端に笑い出し、釣られてルイスも笑い出す。互いの笑い声が響き合い、皆がひとつになってゆく。そこにはもう
明日にはまた、皆それぞれが持つ
だけどこの瞬間だけは、地位も、
出来る事なら我々だけでなく、世界中の人々に、こんな一瞬を一つでも多く増やせたら、どんなに幸福であろうか。
これはローダ一人の想いだ。けれども、きっとこの場にいる皆の想いであり、これから誕生する命全てがそうであって欲しいものだ。
それはとても
例えどんな能力を得ようとも、
「
号泣から笑いへ、
柔らかな
「あっ……いや、大したことじゃない。ただ皆に掛けた色んな苦労を、これからは、俺が返してやらないとなって思った処だ」
「ふ~ん………」
もうこれしきの挑発では動じないローダが、相変わらずのクソ真面目顔でサラリと応じる。
これにはちょっと面白く無さげな顔をするルシアである。
「………貴方の言う
少し言葉足らずなルシアの質問。でも聞きたいことは理解出来る。ローダがこれから頑張るお返しとやらの活動をするにあたり、私は頭数に入ってますか?
改めてのそんな確認なのである。ルシアという創られた存在は、恐らくハイエルフ以上に永久な存在になるであろう。
ローダがこのまま
「ああ………勿論だ。一番頼りにしている」
「あっ、そっ、なら良かったっ!」
さらにギュッと夫を抱き締める妻の笑顔は、幸せに満ち
無論、幸福を心から感じているのはローダとて同じこと。正直これからも過酷な道に彼女を付き合わせることになる。
だけど、この妻と7ケ月後に誕生するヒビキを除いた人生なんて想像出来る筈がない。
そんな想いに駆られていたら、フォルデノの南沖から実に賑やかな空砲が幾度となく轟くのが聞こえてきた。
「………あっ! あの黒い船はっ!」
「逃げずに俺達を待っていてくれたのか………全く無茶をする」
それは
皆が満面の笑みでそれを眺めて大いにはしゃぐ。ローダも「無茶をする……」と言った割に顔を
身体の向きを変え、喜ぶルシアを両腕で抱えながら、キラキラ輝く美しい海上を共に見つめた。
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