《番外編第15話》感謝の想いを力に変えて

 竜之牙ザナデルドラの中で息づく白い竜シグノの力を取り込んで竜騎士と化したローダ・ロットレン。


 一方、リイナが操りし不死鳥フェニックスの炎の癒し手により、完全なる力を取り戻した亡者送りの剣士、アスター・バルトワルド。


 二人で殺ると決めた傀儡の中でも大きさが際立きわだつ巨人。人間のサイズであればごく普通の足さばきに見えるその走り。


 だが反則級の大きさが繰り出す速度スケールスピード尋常じんじょうでない。あっという間に向こうだけ此方に届く距離へと迫る。


 しかしこの二人、まるで動じない。両手持ちの大剣グレートソードに分類される竜之牙ザナデルドラを両手で構えるローダ。


 加えてやはり両手持ちの剣バスタードソードを本来の両手で握るアスター。


 少し位は本気を見せてやる……………そんな気分の表れだ。


「………く」


「………言われるまでもない」


 ローダはシグノの白い翼を大いに生かし、巨人という破格のさらに上から距離を詰め、最早完全に自分のもの得意にまで習得した最上段の構えをみせる。


 一方アスターの方は、対極する地面。その掟破りふざけたの両脚側から斬って捨てようと剣を斜め左下段に構える。


 一応、昔からの顔馴染みのくせに相変わらずロクに声を掛け合おうとしない両者。けれども上と下。


 驚く程に息の方は合っていた。


「………『残光ざんこうそうげつざん』」

「………竜之牙ザナデルドラ・『雷の咆哮レギット・デチューノ』」」


 そして斬り込む声色の冷静さすら似通っている。但し、その太刀筋は十字を結ぶ。


 逆袈裟懸ぎゃくけさがけというべきか、アスターのあおき剣圧が、巨人の足元から腰の辺りを分断する。


 そしてローダだ。


 その構えからして如何にもあの示現の侍ガロウよりかすめ取った一ノ太刀櫻華を繰り出すのかと思えたが、そうではなかった。


 竜之牙ザナデルドラに秘めたる力を惜しげもなく行使する。雷竜の咆哮ブレスを彷彿とさせる稲妻を帯びた剣をに振り下ろす。


 蒼き剣と光の剣が十字に交わり、傀儡達の中で見た目、実力共に最恐と思われた巨人が跡形もなく消し飛ぶ。


「………ふ、二人共すごい!」


 その強さの目の当たりにしたメルがただただ圧倒される。


「………まあ、この程度よね」


「ガオォォォォンッ!!」


 一方、同じ光景を見た筈のルシアと炎の獅子ジオーネは、真逆と取れる反応を見せる。


 さも当然とばかりに一笑いっしょうしたルシア。そして未だ傀儡の残兵はいるものの、勝どきの雄叫おたけびを上げるジオーネであった。


 確かに誰もが粗方あらかたのことは成った………そう気がゆるんだ矢先、此処から真の地獄が幕を開ける。


 ─………やはりどれだけ強固であろうと所詮しょせん傀儡人形止まりか。


「むぅっ!?」


「な、なんや今のおどろおどろしい声は!?」


 ローダとアスター、二人が粉砕ふんさいした巨人がいた今や何も無き虚空こくうより、聞こえる筈のない声が皆の頭に直接響く。


 この面子で唯一同じようなこと心の声が使えるローダが、その何も見えない虚無きょむにらむ。


 何ともおぞましき声によって、パルメラの恐怖言葉が引きり出される。


「そうか、これからが真なる戦い………」


(ただの傀儡、それも魂送りさえすれば良い輩を召喚するだけであるなら、屍術師ネクロマンサーノーウェンが既にげているも同然………)


 最初の扉を開いた男が、一人に落ちた顔を示す。ヴァロウズNo1の実力者、あの道化師ピエロのような男の記憶が脳裏をかすめる。


(似たような能力を抱く者を態々わざわざ創造つくる………あの黒い剣士マーダが余計な真似をするのはおかしいと思っていた)


 これがローダの真意。さらにこの声の主の正体も彼だけには知れている。だがそれを決してひけらかすことはしない。


 何故ならかつて此方側だと信じていた連中アスター達に余計なことを言いたくはないからだ。


(これよりを断罪するっ! それを背負うのは俺一人で充分沢山だっ!)


 まだ残っている傀儡達の動きが糸が切れたように停止する。そして虚空がやがて渦を巻いてそれら全てを取り込み始めた。


 まるで次元の断層………ブラックホールへ吸い込まれるかのようだ。


 ─さあ、魂を秘めた我が可愛き子供達………。おのにえりてそして全て自由を勝ち取ろうぞッ!


「来るっ! アスター・バルトワルド、あの場所虚空に本当の敵が去来きょらいする!」


「……………!」


 ローダが竜之牙ザナデルドラで指し示した場所をアスターが眉をひそめつつにらみつける。


(………元々魂を持った傀儡を取り込んで自分の力へ変える存在!)


「メル! 早く魂送りを! アレは絶えた傀儡も生きた傀儡も全て取り込んで力にする。せめて絶えた連中だけでも今すぐに葬送おくるんだ!」


 それは数多あまたの亡者を見届けた蒼氷の目アスターだからこそとらえた確信………。


 数々の扉使いとの争いを繰り広げたローダですら、これより出現する真の敵にそなえることしか浮かばなかった。


「う、うん、判った!」

「メル……ちゃん?」


 流石は新たなる防国ぼうこく双璧そうへきのもう一人のにない手である。


 即時頭を切り替えて、その強大なる敵の方を向きながら歌と踊りに集中すべく己の精神を高めてゆく。


 ただ自然と新しき相棒友人の手も握っていた。これには普段冷静なリイナも驚きを隠せない。思わずメルの顔をのぞき込む。


 そこにあったのは意外………………底抜けの笑顔であった。


「ご、ごめん。でも、何だかこうしてると凄く勇気があふれてくるんだ……」


 ………そうなのだ、この小さな女神メルは知っている。自身の勇気だけでも、増してや他人任せの想いだけでも魂送りは成し得なかったことに。


 メルが咄嗟とっさにリイナの手を掴んだ訳。今は亡き想い友達に背中を押して欲しい切実なる願いを何とも身勝手だが、新しき友に求めた。


 一瞬だけ目を閉じるリイナ。扉? そんなものなくたって独りよがりではない真なる人の想いは必ず通じることをこの世に生を受けたその日から知っているのだ。


 しかし、文字、声、音、接触………。伝えることの便利さに酔い、いつしか人はそんな当たり前さえ忘却ぼうきゃく彼方かなたへ置き去りにする。


 けれどこの小さな手は大事なことを思い出させてくれた。


(………何だろう、とてもとても心地良い)


 カッ!


 目を開き再びメルの笑顔を迎えるその心にもう欠片も迷いはなかった。


「判った、一緒にやろう踊り歌おう!」


「ありがとう!」


 シャラン……シャラン……。


 鉄枷てつかせが絡む音すら心地良く感じるリイナ。当たり前だがメルはメル、自分は自分。決して混ざり合うことはない。同じ歌も踊りもユニゾンなんて出来やしない。


 だけどだから人を、空を、大地を、そして愛を感じられるからこそ人生は楽しいのだ。全てのものにありったけの感謝を!


 それこそが彷徨さまよえる者達を葬送おく魂送たまおくりの本質だと、何も知らないリイナは勝手に解釈した。


 ─ムッ? い、いかん! 早くあの雑音ノイズを止めろォォッ!!


 真なる敵、リグレット・バルバリアは、おのが最大の障壁災いに気づく。彼女当人は未だ致命打を受けてないので問題ない。


 だがこれより取り込もうとする贄の数を減らされてしまう、これは実に忌々いまいましい。早速取り込もうとしていた最後の巨人の糸を再び操る。


 歌と踊りに集中するメルとリイナに襲い来る危機。二人はもう後戻りなど出来やしない。


「ガオォォォォッ!!」

「………させるか!」


 リイナと魂を分かつジオーネと、メル本来の相棒バディが黙っている訳がない。


 メルとリイナを叩き潰そうと振り上げた巨人の腕を喰らいちぎる炎の獅子。そして静かなる怒りを力に変え、技名を告げぬに敵へ解き放ったアスターであった。


「さあ導きの光よ!」

「私の中の希望ひかりを呼び覚ませ!」


 メル先導の元、リイナの想いの力も折り重なる。


 ─い、いかんッ!


 とうとう本当の自分が形作られる一歩手前の状態でリグレット本体が止めに掛かろうとする。だが最早手遅れであった。


「「──聖なる浄化の光フェアリー・シャイン!」」


 希望の光は知り合ったばかりの二人によって、そのきらめきを流し始めた。

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