第7話

舞台はディスコ公爵家に移る。

そこには人払いを済ませたところで公爵とセイラが向かい合っていた。


「これが調査結果か。」

「はい。学園の公式記録、図書室の書籍、記録庫等からゼフ様の学園活動結果です。」

「実技、勉学、共に並。交友関係は洗えなかったのか。」

「はっ。平民が使う方の食堂に入っていた職人を当たりましたが心当たりはないと。」

「ふむ…。」

「ただ。」

「ただ?」

「入学記録に載っていない者が幾人か確認できました。」

「不正か。…まぁ、それについては良い。それで。」

「ワンダラー。そう書かれているものが、とある時期からゼフ様が退学するまでの間活動しています。」

「ワンダラー…ふざけた名よ。」


ダラーとはアトランティス王国が建国する前にあったとされる国で使われていた金や貨幣を指すもので現代では金に替えられない価値があるとされる。


「それが活動していたのはダンジョンの攻略と思われます。そして、そのパーティーはデュワーズ殿下がリーダーを努められておりました。殿下の活動記録は確認できませんでしたが、唯一確認できたものの記述の中にワンダラーのことを、金に替えられない傭兵、王子の右腕と称しております。記録から推察になりますが、突撃する王子の代わりにパーティーを仕切り、戦武、魔法を駆使していたと思われます。その結果パーティーは最高到達階を記録し、殿下は王から賛辞を受けております。」

「それは覚えておる。私もその場にいた。だが、その中にワンダラーと呼ばれるものやゼフ殿はいなかった筈だ。」

「はい、死亡届が出されていました。王子達が最高到達階を記録した後、ダンジョンに潜らなくなったのはパーティーから2人の死者を出したからと言われております。」

「その後、ゼフ殿は退学…。まて、もう1人は誰だ?」

「記録に残っておりませんでした。意図的に消されていたようです。」

「わかった。良く調べてくれた。」

「はっ。」


舞台は戻り、深夜の街道。

水を飲み、食事を終えて休んでいた馬の顔が起き上がる。

監視があっては下手に空も使えない。

その為には馬を手放す訳には行かず、ブラックパイソンの探索と討伐が1日で済んだことで時間的余裕も生まれたこともあって馬を休ませていた。

俺を監視していた奴らが行動に移ったのはしびれをきらしたからか。

飼われている馬に気付かれるレベルの弓兵が放った矢は、馬の顔に刺さり痛みと混乱で暴れて木に頭をぶつけて泡を吹いて倒れた。


「野盗か。」


馬から矢を抜いてやる。

この世界は襲われ損、負け損、死に損だ。

襲われないように群れる必要はあるし、どちらが先に手を出したかを証明できない場所では負けた方が悪い。

そして、荷を捨てようと泥を啜ろうと死んだら終わり、逆に言えば生きていされすれば再起の可能性は残る。


ガツンッ!!


剣の質は普通、やはり野盗ではなく冒険者…だよな?


少し不安になる。


「おいっ!援護だ!」

「はいっ!」


剣を合わせて動きを止めてから味方事攻撃するつもりか?


「シャープエッジ!」


理法?


「死ね!必殺!!」

「!」


右手に青

術式、三重強化


ぱきぃんっ……


相手の戦武と付与された魔法の力がこもったバスターソードはこちらのサーベルの強度に負けて刃の途中から折れた。


「……は?」

「この…素人が。」


鎧の隙間を狙いながらも雑に両肩、股関節を貫く。


「うがぁ……。」

「リーダー!!」


叫んだら隠れてる意味がないだろう。


サーベルを逆手に持ち替え、遠投のフォームで弓兵を狙う。

冒険者のパーティーは6名が推奨されている。

もちろん、全てがそうでないが、この布陣から見て後1人か、2人。


がさっ!!


「うぉぉおおっ!!」


レンジャーが叫んでどうする。

弓兵の追撃を防ぐためか、物陰に隠れていたレンジャーが飛び出す。

得物は大振りのナイフ、攻める場合は間合いを自分から詰めるタイプの武器。

それなのに気合いと共に突っ込んでこないというのは、挟撃していると白状しているようなものだ。

なので、近いレンジャーの方を素手で叩き伏せる。


「つよ…すぎ……」

「お前が弱いだけだ。」


ナイフを奪い取り、物音を消して近付いていた後ろの戦士に振り返る。


「お前、学園の出か?」

「それがなんだ!」

「ぬるい。」


ナイフで受け止めていた剣を受け流すことで、姿勢が前のめりになったところを太股の裏を数度切り裂いた。


ヒュッ……


的外れの矢が俺の視界を通り過ぎた。

左手に刺さったサーベルは抜けていないが、寝転びながら足で弓を抑え、右手で引くとは根性がある奴だ。

矢が射てるというのは放置すると面倒になる。


「返してもらおう。」

「うぎゃぁっっ!!!」


無理矢理引き抜かれたサーベルの激痛で意気消沈した。


「これは返しておく。」


ナイフを弓兵の腹に投げ付け、残る後方組に向かった。


「教会の見習いか。」


拳1つで伸びた男は鼻血を派手に流しながら倒おれた。

この僧侶が遠距離から魔法で回復を行えていればもう少しまともな戦闘になった。

後は付与魔法を使っていた魔法使いが残っている。


…学園出の戦士の治療に向かったか。

見立ては間違っていない、治療が一番必要なのはそいつだ。

それがわかっているなら他の連中も死にはしまい。


結局、進めなかった俺は日の出から街道を襲ってきた奴等の馬で駆け抜けた。

一夜を越して、制限時間まで後数時間になった頃、街道の何もないところで陣取る1人の男と遭遇した。

そこは何もないといっても、街の北門から入るには通らなければならない場所であり、一時的に流入が増えやすい場所であるからか、ここだけ道が膨らんでいる。


…素人なら良かったんだがな。


単独の冒険者かそれともパーティーから1人離れたのか、少なからず先程の連中とは格が違った。

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