第6話

合色『緑』


倒れたグリフォンの体内は自然毒が混在し、ほどけぬ糸の塊のようになっていた。

1つ1つ解析して拮抗する術式を構築する他ないが、自然毒では術で作られた毒と比べると効果は薄くなる。

しかも、シャーマンの置き土産1種類でかなりの疲労が蓄積されていた。


…いや、言い訳だ。

しかし、なぜだろうな。

助けを請われた訳でも恩を売られたわけでもないのにどうしてここまでしているんだ?


自問自答をしつつも解析を継続していると毒から回復した2匹のグリフォンが倒れているグリフォンの顔や首筋を舐め始めた。

その直ぐ後に倒れたグリフォンの手が力なく俺の手の上に乗せられ、うっすらと目蓋を上げて開きつつある瞳で俺を見た。


「…。」


俺は手を離し、ルナを引っ張って外へ出た。


「……。」


ルナも察してか何も言わなかった。

30分もしないうちに中から悲痛な鳴き声が響いた。


「悪いな。」

「えっ?」


合色『緑』


グリフォンの様子を見に行くと予想通りグリフォンは助からなかった。

しかし、先程まで弱々しかった2匹には戦ったグリフォンの目付きが宿っているように感じる。

それに向こうから何やら伝えたいような念を感じ、ルナには鎮静化を瞬間的に強度上げて眠ってもらった。


「こい、イオ。」


彼女を介しての意志疎通はグリフォンがこちらに伝える意志が強くあり、尚且つ人並みの知性を持ち合わせていた上で、断片的な言葉と向こうのジェッシャーでようやく理解できるレベルだった。

まとめると、治療の感謝と死んだグリフォンの遺体を対価として差し出すというもので、それについては死んだ本人が了承しているということだった。


確かにグリフォンを持って帰ればこれ以上ない評価を得る。

代わりにこいつは剥製にでもなり晒され続ける事だろう。


「イオ。お前、こいつを向こうで飼うか?」

『いいの?』


今回、大分頑張らせた事を考えれば獣魔のように仕わせるのもいいだろう。

それになぜグリフォンとゴブリンが対立することになったかも知りたいところであった。


「ああ。」

『わーい♪』


イオが俺の許可を得て緑の魔力で倒れているグリフォンを包み込む。

それはかつてイオとその母を肉体事昇華させた時と同じ光景だった。

グリフォン達と別れ、ルナを担いでブラックパイソンの死体のところへ向かうと兵士達が検分していた。


「何をしている。」

「それはこちらの台詞だ。貴様何者だ。」

「ディスコ公爵様の命を受け、この地にやって来たものだ。その蛇は俺が討伐したもので今回の狩りの成果となる。」

「はっ、何を証拠に。」

「その潰れた目に刺さる剣を見ろ。」


俺は残っていた剣を隊長とおぼしき男に投げ渡した。


「確かに、刺さっているものと酷似している。」

「町長には前もってここで狩りをする旨を伝えてあった筈。」

「はっ、我々は長の命でその確認に…。」

「ならちょうどいい。部下を1人報告として走らせろ。これだけの大物だ、出きるだけ傷付けずに運び出してほしい。お前は俺と共に町長への報告に立ち会え。残りはこいつの見張りとして残せ。」

「う、承りました。」

「余っている馬を借りる。」

「はっ、森に入る際に幾人負傷し、外で馬番として待機させておりますので。」


蛇の牙を1つ折る。


「証拠だ、これだけでもかなりの大きさとわかることだろう。…わかっいると思うが、下手な傷は町を滅ぼすことに繋がりかねんぞ?」


皮なんて剥いでくれるなよ?


隊長とルナを連れて森を出た。

その途中で殺して放置していた遺体は消えており、引き摺ったような後もなかった。

馬に無理をさせてその日のうちに町長と面会する。


「一筆書いてもらいたい。鷹狩りの獲物が大きすぎて運ぶのに時間を有すると。」

「は、はぁ…。」

「それとこの娘、何でも生け贄として村から追い出されたそうだ。」

「生け贄…。」

「話を聞くと森の周辺の村々から定期的に出されていたようだ。おそらく、その村長どもの独断であろう?ただ、伝え方が間違うと話しも変わってくるであろうな。」

「……ゴクッ。」

「取りあえず、この娘の世話を頼みたい。何せ捨てられているのでな。それと鷹狩りの成果の搬送も迅速かつ丁寧に願いたい。」

「ぜ、全力で、やらせていただくっ!」


ルナの面倒を町長に丸投げし、書状をもってヒポクリフに乗って夜の空を翔ていく。


まさか、猶予に間に合うとは思わなかった。

3、4日過ぎてから成果だけ差し出すつもりだったが…。


4日目の朝、ヒポクリフが降りた近くの村で馬を購入して街を目指す。

3日目がハードだったせいで疲れが溜まっているのを自覚していた。

それが乗馬に影響し、思うように距離が延ばせず野営する羽目になった。


追跡されてたか…。


おそらく鷹狩り参加者の誰かが放った刺客の冒険者。

夜通しこちらを監視し視界を外さない。

おそらく、俺が休むのを待って襲うつもりなのだろう。

奴等からすれば俺が辿り着かなければ最低限の目標は達成される。

考えたくないのは向こうの目標が殺害だった場合の事だ。

闇討ちし、遺体を処分すれば俺は帰らぬ身となり、公爵には汚泥が降りかかる。

それを気にする人ではないが、表だった怒りを見せるために何をするか。


…かといって殺す訳にもいかない。

今、この場では。


鷹狩りはフェアに行われなければならい。

妨害行為を行い、それが表に出れば貴族が王族の文化に唾を吐いたと見なされかねない。

普通の貴族の感覚であれば、夜襲が失敗したとしてもそれを呑み込むだけの懐の深さがある。

だが、これを仕掛けている奴は親の権威を使い、虎の威を借りる小僧だ。

そんな奴が手に入りかけた爵位が手からこぼれ落ちたとしたら、平静を保っていれるだろうか?


生かさず殺さず…全く面倒な事だ。

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