第5話
「仕上げだ。」
灰に宿った魂がトラウマの形になって悪霊に絡み付く。
「無間地獄の陣。」
依代に入った剥き出しの魂にトラウマが再現された。
かつて存在したゴブリンシャーマンの逸物が再現したかと思うとそれを灰の蛇が咥えるように丸飲み、根元からかじり千切った。
灰の蛇は一矢報いたとばかりに昇華して消えていった。
霊体となった事で痛覚から解放された筈が忘れられない記憶から痛みを喚起させられる。
痛み、踠き、苦しもうともそれを赦さぬとばかりに霊体を締め上げる。
衝撃が落ち着いた頃、失った筈の逸物が再生しているのに気付いてしまった。
そして、待ち構えるトラウマ。
これが、込められた魔力の分だけ続けられる。
使用される魔力は、先程奪い取った魂からのものであり、1つの魂で1回という生易しい事はない。
それが一時の無限に凝縮された。
終わるまで続く終わりない地獄。
それを越えた先、魂にかかる負担が一気にのし掛かった。
輪廻にも残さぬ諸行により悪霊は消え去った。
成仏でも昇華でもない。
文字通りの消滅。
それは依代にされていた生物が解放される事を意味する。
もっとも、それを許す程怠慢でも傲慢でもなかった。
「同色、『青』」
魔力は十分に回復した。
ブラックパイソンの意識が混濁する中、右目を十字に切り裂き蛇特有の目蓋を潰す。
………ピキッ。
右手のサーベルから悲鳴が聞こえた。
どうやら先程の染色がサーベルに過度の負担をかけていたらしい。
右手に黄。
黄色は繋がりを現す。
それを言われた時、昔の知識からか俺は電気をイメージした。
電線で電池と電球を繋げると光る、あれだ。
そのイメージを発展させ辿り着いたのは触れた場所に抵抗なく魔力を送り込む形で、それは中国拳法の発勁に近い。
違うのは今回打撃ではなく、刺突先から魔力が触れている間、こちらの任意で魔力を送り続ける事が出来るということだ。
加えて言うならば、そのサーベルの先にある器官は3秒も保つことなく液状と化した。
「全く可愛げのない。」
「…。」
ヒ・レツは俺の始末が終わるまで残っていた。
その周りには灰の美女達を侍らせている。
「これは褒美としてもらっていく。では、さらば。」
何が手持ちは27だ。
20も使わずに残りは遊びに使いやがった。
それを読み取ってかどうかはわからない。
ただ、勝ち誇った様子で生け贄だった娘達の魂事消え去るのだった。
「んんん…。」
ルナが目覚めたのはそれから1時間程経過した頃だ。
「……あの変態共は、どこ?」
「……この更地、何?」
「……あの蛇、何?」
それだけ騒げるなら放置してもいいだろう。
俺はブラックパイソンがどこからやって来たかが気になって、押し倒された木々を頼りに森を進んだ。
「どうして付いてくる。」
「あんな場所においていかないで!?」
「それだけ騒げるなら問題ない。」
しばらく歩くと同じところを何度も通っていた。
それは同じ道筋を通る電車のようで、獣道と言うよりも整備された山道のようでもあった。
その内側に向かって進路を切ると岩山を見付けることができ、岩山に向かっても山道のような跡が見受けられる。
そこにいたのは毛並みが荒れたグリフォンだった。
「森神様?」
確かに威厳は感じられる。
更に感じたのは歴戦の戦士ような刃の如き眼光だ。
限界まで研ぎ澄まされた刃は切れ味を追求するがため脆くなる。
その脆さが毛並みに表れているのだろうか。
しばしの沈黙のあと、先に動いたのはグリフォンだった。
魔獣、幻獣とも呼ばれ、知識が高いとも言われるが所詮は獣。
こちらに敵意がなくとも、向こうが外敵の排除を目的とすれば戦闘は発生する。
鋭い。
岩山から飛び立つと急降下し、鉤爪を見せ付けるような蹴り出しと体を捻る回避軌道で攻撃が旋風のようだ。
右手に青。
術式、三重強化。
剣と鉤爪が火花を散らす。
…二重だったら折られていたな。
防御に回れば押しきられる。
旋風と刃が数度交わった後、グリフォンが地面に降り立った。
鋭い眼光でこちらを睨み付けた後、背中を向けて歩き始める。
その背中は付いて来いと雄弁に物語っていた。
岩山の隙間にグリフォンの巣があった。
そこには2匹のグリフォンが力なく横たわっている。
「死んでいるの…?」
「生きてはいる。だが…。」
おそらく、あのゴブリンシャーマンの仕業だろう。
死してなお面倒を残すとは本当に嫌なやつだ。
「食べられそうな物を探してこれるか?木の実でも果物でもいい。今ならグリフォンにびびって他の魔物は寄ってこない、と思う。」
このグリフォンはこの2匹の治療を望んでいるようだ。
だったら何故最初に襲ってきた?
何と間違えた?
右手に青、左手に黄。
合色『緑』
痛みを鎮静化させても苦しみから解放されるにすぎない。
そして、まだ緑には万能の薬のような効能はない。
故に緑を構成する繋がる意味を持つ黄と知を意味する青の力を同時に使用する。
黄の力で状態を把握し、青の力でそれを拮抗させる効能を作り出せば毒に対して何を逃れることができる。
それはいうが易し、自然界の毒素を適当に混ぜ合わせられていれば現状手の打ちようはなかった。
だが、あのシャーマンはこの毒をグリフォンに対して用意していた。
自然界で用意できる毒で、グリフォンを殺ろうとするには量も必要となる上、過程で気付かれることもあると考えたのだろう。
体の筋肉や反応を弛める効果を蓄積させたようだな。
なら、術式で身体強化、反応促進を付与する。
もう片方も同じ症状で交互に変化する状態を観察する。
まだ、使いこなせていないな。
緑の座に座るイオは森の寵児、いわば魔力の申し子であり森の寵児は回復に特出する才能を有することが多い。
俺にはそれを完全に活かしきることができない。
元々、イオができないものを俺が使用使用とする時点で無理はある。
それをここまで引き出せるのは色魔の力ではあるが奴には興味のないことだろう。
野生生物ということもあってか、グリフォンは1時間程でルナが取ってきた果物等を口にし始めた。
どうにか、ゴブリンシャーマンの置き土産を解決することができたようだ。
………ドスンッ!
それわ見届けたかと思うと今度は親のグリフォンが倒れた。
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