第3話
「なんか、悪いですね。」
「いやいや、この子達は普段大人しいんですけどね、1度怒ると中々収まらなくて…たぶん、見馴れない馬車の馬に礼儀がなかったんでしょう。それに馬を見ていてもらったおかげで随分早く出発できました。」
俺は西門から西の街道を馬車に乗って西の宿場町に進んだ。
「ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ助かりました。もし、街で用があったらタラスク商店に着てください。」
「わかりました。」
俺は道中、朝早くから出ることを話題にあげていた。
タラスクは荷馬車の管理もあるため、見習いと共に商人専用の宿に泊まるということだった。
俺は賑やかな酒場に紛れるとそこで買い物をしてから宿場町を出て、周囲の目が気にならないところまで歩いた。
右手に黄、左手黄。
重色『金』
「我は求める、叡知なる翼『ヒポクリフ』。」
ソロモンを経由して呼び出した四足獣は人の言葉も理解する知性を持つ獣であり、対価は俺の魔力が使われている。
「北まで飛んでくれ。」
「ニャァ。」
ちなみにグリフォンは鳥のような頭、マティンコアは獅子のような頭をしている。
ヒポクリフは猫の近く、毛並みは黒く毛は直毛なものの手を当てると柔らかく温かい。
「ニャァ。」
「おっと、悪い悪い。」
鳥の半身を焼いたものを口に持っていくとバキバキと音を立てて飲み込んだ。
計10本、4時間分の運賃としては破格の料金である。
「マッ○のバーベキューソース見たいな感じに近いか?…覚えているもんだ。」
俺が食べ残した骨まで飲み込み、口元を拭いてやる。
「頼むぞ。」
「ニャッ。」
背中に股がると翼は羽ばたかせていながらも音はなく静かに闇夜へ羽ばたいた。
ある程度の高度に到達したところで、俺はヒポクリフの背中に自分の背中を合わせて眠りについた。
しばらくして空が明るくなり始めた頃に鳴き声で起こされた。
姿勢を整え降下すると微かに外縁の森が薄暗く映った。
ここからは徒歩で森まで向かう。
その日の昼過ぎに森の入口に到着した。
時折森から吹き出す空気がマイナスイオンを越えて物理的に肌を冷やす。
「右手に青、左手に黄。合色『緑』」
今度は森に背を向けて直近の町まで戻った。
町に付いたのは門が閉まるギリギリの時間で、そのまま宿へ泊まった。
3日目の朝、折り返しとなるがまだ借りすらしていない。
「町長に会いたい。」
そう口にして警備兵に門前払いされるも公爵に出発前にしたためて貰った書き物を無理矢理渡すとすごい勢いで走ってきた。
「私めが、この町の、町長で、ございます!」
「お初目にお目にかかる。私は公爵様の客分として世話になっているもの。用あって外縁の森に入る故に挨拶をと思ったのだが、門前払いされてしまった。」
「たいへんっ、申し訳、ございません!」
「それでは急ぐゆえ、これにて。」
「ちょっ……」
後ろからお茶だけでも等と聞こえてくるが、無視して町を出る。
右手に青、左手に黄。
合色『緑』
「イオ、俺を運べ。」
久しぶりに体事召喚されたエルフ姿の親子は何の不満も見せずに昨日付けたマーキングの場所へ俺を運んだ。
「……さて。」
「ひっ!?」
俺が飛ぶとそこには細身の女が薄着で立っていた。
「あんた、誰?」
彼女はモディ村のルナ。
近くの村々から出された森神への生け贄だそうだ。
「まっ、好きにすればいい。」
色々聞いたが、彼女は生け贄になることを納得してはいない。
村のためと言われても今までハブられて生かされてきた事と、そんな役割があるのをつい先日になるまで聞かされてこなかった為だ。
俺がサーベルで草を払いながら先に進むと何故か虎鋏が仕掛けてあった。
虎鋏に鳴子ね…、これは何だかきな臭い。
虎鋏にかかると連動して鳴るようになっていた鳴子を鳴らした。
すると直ぐに仮面を付けた身なりの汚い男が数人現れた。
「どゆことだ?」
「何で男がいる?」
「女!女!」
手にもっているは農具のようで、農民若しくは農奴にしか見えない。
「こいつらを知っているか?」
「し、知らない…。」
「おい、知ってることを話せ。そうすれば」
すでに相手は農具を振り上げて襲い掛かってきた。
「遅いか。」
右手に青、左手に青
同色、術式、一重強化
農具の柄を断ち、まともそうな2人の腹部を深く切り裂く。
残された男は知能が引くそうだが、良く見ると若そうだ。
男は訳もわからずパニックを引き起こし、仲間を見捨てて森の中へ逃げていった。
方向を覚えながら、切り捨てた男達の様子を見ると1人は動脈を切り裂いたか血溜まりの中に頭を垂れている。
もう1人はこぼれそうな大腸を押さえているが長くはもたないだろう。
「…追えばわかるか。」
焦って逃げたこともあり、痕跡を追うのは難しくなかった。
行き着いた先には集落があり、そこでは農奴が文字通り奴隷として働かせられていた。
「…何これ。」
そこらの開拓村の方がましなレベルの労働環境のようで枯れ木のような体で農具を振り上げて作業している。
それを監督するのが先程見た仮面を付けた人間だ。
人が人を支配する。
ある種当たり前の構図だが、更にその上がいた。
「亜人。いや、ゴブリンか。」
村の中央の家と呼ぶにはお粗末な屋根の下で椅子に座るゴブリンが逃げていった男の報告を聞いているようだ。
パチンッ!!
「コノグズ!」
頬を叩かれた男はそのままの姿勢で呆然としている。
「人の言葉が話せると言うことは、ゴブリンシャーマンか。」
「ボウケンシャカ…、ソンチョウドモハウラギッタ。」
「中々流暢じゃないか。ついでにどうして生け贄なんて要求しているんだ?」
「シネ。」
仮面の男達がこちらを向いて取り囲む。
さっきと違うところは、粗悪品ながらも武器をもっていることと、それなりに訓練された男達と言うことだろう。
「死にたくないなら動くな。」
「は、ひゃい!」
襲い掛かってくる男達は訓練されてはいる。
だが、素人だった。
素養はあったし、戦技くらい使えてもおかしくはなかったがどいつもこいつも素人だ。
そのせいで、俺のサーベルの防御を崩す事も出来なければ、攻撃の一振を受け止めることもできなかった。
ゴブリンとはいえ、シャーマン。
シャーマンは特殊な理法を扱う。
代表的なものであれば眠り、毒、混乱をもたらすものだろう、それ故生かしておいていいことはない。
ザシュッ。
シャーマンの首が容易く飛んだ。
「…手応えが無さすぎる。」
緑色の肌をしたシャーマンの腹に黒い痣があって、腰ミノを切り落とすとゴブリンにとって…いや、雄のシンボルが根元から失くなっていた。
噛まれた後のようだな…。
「……。」
シャーマンの椅子の後ろにあった小屋があった。
その中は酷い臭いだった。
「ちっ…。」
右手に赤。
染色、赤。
右手のサーベルが赤く染まる。
それを離れてから振ると小屋の外壁が吹き飛ばす。
中には仮面を付けた男と生け贄となってきた娘達がいた。
既に目に光はなく、裸でだらしなく口から涎を垂らしている。
そして、共通点は足にある虎鋏の傷跡だ。
「そう言うことか。」
シャーマンがこうした理由はわからない。
だが、逸物を失ったシャーマンは人間の男達に自分の血を飲ませ、半亜人として娘達に次世代を孕ませる事できちんとしたゴブリンを産み出そうとしていた。
「きゃっ!痛いっ!!」
「オマエラガ!コナケレッッ!」
シッ………
逃げた男の頭が地面を転がる。
ルナは頭を打たれ意識を失った。
「仮面を付けた男と農奴の違いは出来の良し悪しだったということか。」
農奴達は多少のいざこざがあった筈なのに気にもしていない。
農奴以外に息をしているのは生け贄の娘達とその娘達を先程まで犯していた仮面の男達だけとなった。
「…染色。」
残りも掃除しようとしていたところ森の奥からこちらに向かって何か大きいものが近付きつつあった。
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