第2話
鷹狩りを行うことで費用面を除けばホストには自分の領地にある魔物の討伐が進むという利点があり、ゲスト側は整備された町や村を頭のすげ替えの形で手に入れられるという利点がある。
更に、本来爵位を継ぐことのできない子弟に爵位の席が与えられるのも大きな意味を持っていた。
今回、俺が鷹狩りに出ても貴族でないから領地が与えられることはない。
その為、公爵家の預かりとなり、翌年以降の成果でルーメン子爵が取り戻す事も不可能ではない。
更に言えば、統治者も変える必要がなくなる。
男爵程度の爵位であれば、町1つを領主と兼ねて統治する。
子爵クラスになれば幾つかの町を管理するため、1番栄えた町の領主となり、他は息のかかったものを統治者にあてるのが通常だった。
「ふむ…どうするか。」
「品揃えはかなりものと自負しております。」
「ええ、迷う程です。」
客分でありながら自前の武器は斧1本。
魔法師には効果的な武器だと思っているが、今回は少し毛色が違う。
公爵家のように騎士を手勢に囲える程低位の爵位は金がない。
かといって周辺貴族の子弟が1人で鷹狩りに出てくる訳はなく、冒険者を雇ってくる。
冒険者は荒事が多い便利屋で、傭兵よりも仕事の幅が広く、変なプライドがない限り食い扶持がなくなることはない。
それだけ法整備が緩く、グレーゾーンや日の目に当たらない違法行為がかなりあるということでもある。
そいつ等を相手にするには、物理防御が低い相手を一撃で戦闘不能にする目的で使っている斧はむしろ相性が悪い。
「これを借ります。」
「はっ。承知しました。」
武器庫を管理する執事に確認をとってサーベルを2本借りた。
「魔物相手にそんな装備で良いのですか?」
「鷹狩りには立場によって主要な相手が違う。」
「?」
「トールには関係のない話だ。」
ホストが自分の子弟を出さないことは意外と多い。
そうすると不運な事故も起きやすくなる。
流石に公爵家の客分に表立って殺りくる事はないだろうが、見えないところで野盗を装うことは大いにあるだろう。
「来週の1週間程訓練は休みだ。だが、練習は怠るな。」
「「はい。」」
公爵家の領地は広い、その分魔物被害を受けている地域もそれ相応となる。
狭い領地であれば同じ地域で獲物を奪い合う事になるが今回は関係ない。
「明日、歓待と説明を行う。期間は5日間だ。」
「準備は整っています。」
「…騎士達には声をかけなかったのか?」
「私のような半端者ではうまく連携が取れませんので、騎士様に迷惑をかけるわけには行きません。」
「セイラを連れては行かんか?」
「メイドを危険な場所に連れては行けません。」
「自分の従者はどうする?」
「トール様より見熟であれば尚早です。今回は置いていきます。」
「…わかった。よろしく頼む。」
狩り場は全10箇所。
参加者は5人、内訳は伯爵家次男、子爵四男、男爵家次男三男と俺。
ここには着ていないが、お抱えの冒険者を用意してあるのは間違いない。
逆に向こうからすれば、平民のおっさんが何でこの場にいるのかと不思議と思うであろうし、実際あからさまではないもののその様子は見て取れた。
「お待たせいたしました。これより狩場決めのクジを引いていただきます。」
移動が片道半日以内の狩場は3ヵ所、1日かかるのが3ヵ所、2日かかるのが3ヵ所となる。
残りは外れだ。
いや、狩りをすることを考えれば2日かける場所も十分に外れとなる。
狩場に不満があればクジで余った場所を選択できるが、それは申し出順となる。
引く順番は序列順となり、伯爵家、子爵家、男爵家次男、男爵家三男(男爵家は別々の家)、公爵家客分。
俺が引くまでの間に半日のところが2ヶ所、1日の所が1ヶ所、2日かかる所が1ヶ所、埋まった。
外縁の森
「っ。」
クジの箱を持った執事から息が漏れる。
大外れの場所であり、片道3日かかる狩場だった。
それから直ぐに外れクジを引いた子爵家の四男が公爵に狩場の変更を願い出た。
勿論、半日の狩場を希望し、口を開こうとした1日かかる狩場を引いた男爵家三男を目線で牽制する。
外縁の森か…記録を見ると大物の黒蛇、ブラックパイソンの脱皮した脱け殻が見付かっていたな。
「他になければ明日の日の出より5日間で鷹狩りを開催する。各人奮闘されよ。」
解散後、公爵から呼び出しを受けることはなかった。
「良かったんですか?」
「何が?」
「片道3日ですよ?」
「それは馬車で行ったらの話だ。」
「馬車で行かないと倒した獲物を運べないからって事でもあるんですよ?」
「考えはある。」
翌朝、日の出と共に屋敷を出た男爵家三男を筆頭に各人は外に待たせている護衛に合流するべく行動を開始した。
「朝早くからご面倒をお掛けしました。」
「気にする程ではない。気を付けて行かれよ。」
俺はその4人よりも大きく遅れて屋敷を出発した。
「さて、夜まで時間を潰さないと……。」
通りから外れた道で馬車が荷崩れを起こしていた。
「どうしました?」
「急に貴族の馬車が飛び出してきまして…。」
荷物が生活用品が主体で食料品が少ない事から街から村に向かう馬車に見える。
「近くから水を貰ってきますよ。」
馬の興奮が収まっていない。
近くの井戸場から桶を借りて水を並々注ぎそれを両手に持つ。
「ほら、落ち着けよぉ…。」
右手に青、左手に黄。
合食『緑』
俺と馬達の周囲に精神の鎮静効果がもたらされる。
馬が落ち着き、2頭引きの馬車が出発時と同じ状況に戻ったのは昼前の事だった。
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