第4話

「では、術式を分けると手段と回路に分かれます。」

「回路?」

「聞きなれません。」

「その回路こそが貴族様方の強みとでもいいましょう。例えば詠唱魔法で同じ火の魔法使い手同士だった時、同じ詠唱でも個人差が生じます。それは詠唱によって回路をどこまで開くかに差があるからです。私の体感では回路が大きければ大きいほど、その差が顕著になるようです。」

「同じ術式、なのよね?」

「同じ術式です。刻印の部分使用とでも言いましょう。魔法を順序立てて言うなれば、刻印を何らかの手段で開くことで術式を起こし、そこに魔力を満たすことで発動する現象です。」

「学園と随分違う言い方なのね。」

「はい。私には自然と調和し生み出す奇跡というのは肌に合いませんでしたので。」

「…。」

「セイラさん、どうしました?」

「いえ、どうもしておりません。」

「セイラ、ここに立場は必要ないわ。発展と目的のためには忌憚の無い話し合いが必要よ。」

「…では、ゼフ様は何故この話を発表しないのですか?」

「あー…。それは簡単な話で、発表しても無駄だからです。」

「それはそうかもね。」

「…。」

「魔法師や魔法学者は数いれど、このような話をするものは殆どいませんし、そのような内容の本もないでしょう。」


本は貴重な代物で、貴重な情報源でもある。

国の書籍の8割は貴族の手にあり、1割は学園に収められている。


「言うなれば私の話は異端であり、今ある権威の根幹を崩すものかもしれません。それを表立って支持したり、支援すれば爪弾きになります。並みの権力では。」

「御父様のお話はちょうど良かったということ?」

「ちょうど良くもあり、意図しなかった部分もあり…っといったところです。」

「はっきりしないのですね。」

「このようなおっさんの内話をしてもうら若き御2人は面白くないかと。」

「申し訳ありません。先程の説明をお聞きして疑問がございます。」

「答えられる範囲なら。」

「術式のお話で、トール様と他の方は結果的に理由が同じと言われました。ですが、先程のお話ではその理由が述べられていないように思います。」

「それですか。平民の方は話が簡単で単に術式となる回路が失われているか、忘れられているかのどちらかです。なので、希に辺境の町や村にも魔法の素養を有した子供が見付かるのです。トール様の場合は、血の濃さと言えば良いでしょうか。ディスコ公爵家の積み重ねられてきた術式と御本人の属性があっていないのです。」

「属性?」

「その話はまた違うときにでも。今日はトール様に魔法を覚えていただく為の方針を決めましょう。」

「信じないわけではないけど、可能なの?」

「理論的には十分可能だと考えています。が、危険性がないわけではありません。」

「では、その為の奴隷と言うわけですね。」

「ええ、トール様のような境遇の貴族の子女は多いのです。特に血が濃い程、魔法の術式に占有されて戦武も覚えられないことも多いのです。そうすると最初から居なかったとするのが家名に傷を付けずに済みます。」

「…何とも耳の痛い話ね。」

「ですが、事実でしょう。現に奴隷でも魔法を使用できるものもいますし。」

「「!?」」

「知りませんか?ただ、ばれてしまうと戦奴として、ていよく使われて3、4年で壊れてしまうそうですが。」

「どうして?」

「魔法は自然と調和し生み出す奇跡であり、人として扱われない奴隷が使用できる代物では無いからです。後、この話の報告はディスコ公爵様だけにしてください。話が漏れてここに居ずらくなのるのは、私も避けたいので。」

「…。」

「セイラ。」

「承りました。」


昼食を取ってからは1人宛がわれた部屋で思索に励んでいた。

そこに小さな来訪者が現れた。


「…どうぞ、開いておりますよ。」


トールが従者と共に部屋に来た。


「トール様でしたか。これは失礼をいたしました。」

「お忙しいところ失礼致します。ゼフ様、トール様がお話を聞きたいと言うことで参りました。御時間よろしいですか。」

「勿論です。どうぞ、こちらに。」


セイラがお茶の道具をカートに乗せて入ってきた。


「ありがとうございます。それで、お話というのは?」

「…ライル、少し外してほしい。」

「なるほど、セイラさん。トール様と2人で話をさせていだたいてもよろしいですか?」

「トール様がそれを望まれるのでしたら。」


セイラが従者と共に部屋から出ていった。


右手に青。


パチンッ。


「何をしたのですか?」

「呪いを少々。これで話し声は外に漏れません。」


客間はメイリの部屋と違い、音が漏れないと言うことはない。

寧ろ漏れるように作られているといってもよかった。


「先ずは遠方より良く…。」

「トール様、それは昨日御当主様より御言葉を賜りましたので十分です。建前も不要ですし、この場での話は私とトール様だけの話です。何なりとお聞きください。」

「…私が魔法を使えない理由です。」

「なるほど。それは確かに話しにくいことでしょうね。」

「使えるようになりますか?」

「…今のトール様の状況についてお話ししましょう。」


紙を1枚机に置いた。


「今、トール様にはディスコ家が積み重ねてきた術式があります。残念ながら、それはトール様の属性とは適合していない状態であり、如何なる手段であっても使用できないものです。」

「それは魔法は使えないと言うことですか?」

「はっきりと申しますと、ディスコ家が積み重ねてきた魔法という意味では使えることはないでしょう。ですが、それはトール様の魔法が失われたという意味ではございません。」

「………どういう意味ですか。」

「トール様にあった属性の回路の基礎を用意し、それを育てることで魔法を使用できるようになる可能性は充分にあると思います。」

「それでは平民もその手段で魔法が使えるようになるということですか?」

「それは難しいでしょう。平民には回路を育てることが出きるほど魔力を保有しているものはおりません。トール様両手をお出しください。」


トールの両手に触れる。


「やはり、トール様には高い素養があります。これは生まれ持った血筋とその後の努力の成果です。」

「振れただけでわかるのか?」

「私にはわかります。」


これは嘘だ。

眼帯の下にある左目は、普段モノクロの世界しか映さない。

そこに魔力を流すことで見たものの魔力の色を右目から奪う形で写し出す。


「ゼフ様とは今初めててをつなぎましたよね。」

「この歳にもなると感覚にも磨きが掛かりまして、近くによることで感じるものがあるのです。」


トールは納得したのか手を離した。

その後は雑談を交えながら時間を潰すと1時間程度で部屋から出ていった。

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