19.あぁ、そうやって戻るんですか
そして光が落ち着いてきた所で、ある一枚の紙が空中に浮いていました。
所々古ぼけており、血のような赤黒い液体が付着しています。そして男女二人の夫婦が狂気の笑みを浮かべて全員を睨んでいます。
「貴様らにある自由は我々のようにない!あるはずがないのだ!」
「私達一族の謎を解け、解かねば貴様らを殺す!解いても殺す!」
そう彼らが怒鳴り散らすと、部屋の壁からナイフが飛んできました。
そのナイフは幸い誰にも当たりませんでしたが、壁から再度飛んできました。
「あら、この理不尽さ似てますね」
「急に攻撃してくるなんて酷い」
そのナイフをヴェニアミンと薫田あるじが対応していますが、それも防ぎ切れなくなるもの時間の問題でしょう。
「当主ジョルシュ・ターナーとエリザベス・ターナーは結婚したが男児が生まれなかった。そこで忌まわしきジョルシュは何をした!答えろ!東洋人!」
男の方がまた怒鳴って問題を言っています。針口裕精の近くでは金属音が鈍く響いています。
「ニアミン先生とあちきが攻撃を防ぐから針口が答えるのだ」
「頑張ってね、おっと」
薫田あるじは目にも見えない程のスピードでナイフの柄を掴み、二刀流になりました。ナイフでナイフを制すという企みでしょう。
そして、ヴェニアミンは元々あった古い剣を振り回してナイフを返しています。
「浮気だ!」
「正解だ!そしてエリザベスとの間にも愛人の間にも男児が生まれた、奴はその愛人との男児に何をした!」
「引き取ったんだ!血縁を隠して、血の繋がっていない養子に仕立てあげたんだ!」
ナイフの数が少し多くなった気がします。
「正解だ!なら成長した養子は姉と結婚し、アイツは別の女と結婚した。アイツらには子供が出来ても、我々にはなぜ出来なかった!なぜ止めなかったのだ!」
「それは血が濃いからだ!だが、昔だから衛生管理や医療技術がダメだった可能性がある。そして結婚を止めなかったのは浮気がバレるからだ!」
声が大きくなっていきます。それに負けじと、針口裕精の声も大きくなっていきます。
「そう…なら私は何に手を出したと思う?3つある、私の罪を教えろ」
「俺にも罪が2つだ、2つある。時系列になぞって答えるのだ」
「それ、は…」
針口裕精の頭は混乱しています。なぜなら、まだ彼は完全に絵画一族に何があったのか把握しきれていないからです。
合計5つも事実を伝えなければならないので、更に頭が混乱していきます。
「針口!早く答えるのだ!ドンドンと攻撃が早くなって多くなって!うわぁ!?」
「流石に多いよ、これ」
そうやってしている内に、ナイフが最初の頃と比べて多くなってきました。
針口裕精は何とか話そうとしますが、薫田あるじの四肢に無数の切り傷が出来ているのに気づき、更に考えられなくなります。
「あぁ、それはだな。えっと」
「貴方達は己の一族を滅ぼした犯人です」
彼が冷や汗をかいて過呼吸になりかけている所に、何もしていなかった蝦蛄エビ菜がその絵画に指を指します。
「そこの女は狂気に満ちています、私は盲信し、精神までも朽ちていく人間を多く知っています。貴方は死んだ子供を蘇らせたかったのでしょう」
淡々と話す彼女に針口裕精は目が離せませんでした。誰かを救済するような性格ではないのは今までの時間でたっぷり分かっていますが、彼女は仏様のような雰囲気で話していたのです。
「そしてあの
彼女が口を開く度、その絵画の狂気の笑みが哀しみに近づいていきます。
「狂った貴方は夫の生みの親である愛人を殺した。
浮気の噂を流して自殺に追い込んだのでしょう、八つ当たりですよ」
「妻が追い込んだとは知らずに、夫が養子の書類を見つけて生みの親に会いに行こうとしたらもう彼女は死んでいた。
その自殺の原因を五郎の両親だと思い込み殺害した、貴方も呪いの影響を受けていたんですよ」
探偵顔負けの推理をツラツラと言う彼女に五郎は驚いていました。
「そして妻、貴方はまたその本に頼って死者蘇生を試みたのでしょう。
しかし、その儀式を貴方の母であるエリザベスに見られ、止めろと言われた。だから貴方は彼女を毒殺した。敵にでも見えたのでしょうか」
「最後に貴方達はお互いが敵に見えたから殺し合ってお互いに死んだ、家に他の家族がいるというのに放火して
…これが貴方達の罪なのです、自達の行いの代償が返ってきたのです。」
針口裕精は何故彼女がその
「蝦蛄さん…」
そう名前を呼んでも彼女は反応しません。そんな冷たい彼女に少しホッとしました。
ナイフは壁から、もう出てきません。落ちた金属音が全員の心臓に響き渡ります。
「何とか言ってください、もう貴方達の子供の集合体は消滅しました。
あの集合体から、産み出された貴方達に勝ち目はないのです」
完全に絵画の夫婦は絶望に満ちた顔で、金切り声を上げています。そんな様子を慣れたように彼女は見ています。
「そして五郎…いえ、オーロラ・ターナーを元の時代に戻してください」
「この世界は五郎の意思とあの集合体の意思が固められて出来た夢です」
突拍子もない事実に彼女以外驚いています。しかし、ヴェニアミンだけは予想通りとでも言いたげな顔です。
「え、夢だったのだ!?」
「やっぱりね」
「いやいや痛覚あっから絶対にこれは夢じゃねぇ!」
真面目組が騒いでいると、彼女は口に指をあてて、静かにしろとジェスチャーで伝えてきます。
「緊張感ありませんね、間抜けですか?」
そして絵画の夫婦は急に笑いだしました。
「クハハ!!返すものか!お前たちは我々の新しい体となるのだ!」
「馬鹿な奴らだ!私達は真実を知ってお前たちの時代に行き、食い殺してやる!」
しかし、その夫婦の絵画は一刀両断。真っ二つに切り裂かれています。
「駄目だよ、攻撃の手を緩めちゃ」
ヴェニアミンはその大きな剣を再度振り回して切っていきます。切れ味が悪いのか、叩き切って、木っ端微塵にしています。
「ぐっ…!」
1歩引いた所に、彼女は居ます。その紙切れにはもう興味がないようです。というか、その絵画に目掛けて火のついたマッチを投げています。
「あああいあああ!!!」
「五郎大胆だね」
「後はよろしくお願いしますね、先生」
もう針口裕精は何も言いませんでした。
「すげぇ...明るい」
「綺麗なのだ...」
薫田あるじは身体中に細かい傷跡が沢山できているのにも関わらず、全く動じていません。服もボロボロで、血で汚れています。
「あるじたん大丈夫じゃないなそれ。ちゃんとした病院行くまで、これでも着てくれ」
そういって針口裕精は自身のTシャツを脱ぎます。そのTシャツを渡しますが、彼女は拒否しました。
「なんでなのだ?別に平気なのだ」
「成人男性の汗が染み込んだTシャツなんざ要らねよね…配慮が足らねがった」
明らかに彼は自身が高校生から見て、りっぱなおじさんであると勝手に思い込んでいます。まだ二十七の若造の癖に。
「これぐらいの傷、どうって事は無いのだ。それより早く服を着ないとお腹冷えちゃうのだ」
「…仏?」
彼女の優しさに触れて、泣きながら服を着ました。そして彼女は気を取り直して、蝦蛄エビ菜に後の状況を聞きました。
「もうすぐ帰れるのだー?」
「えぇ、あの集合体の意思はもうじき、消えますので」
「つまり五郎とあの赤ちゃんの化け物は時間を超えて俺たちに一族の死を解明させるのが目的だったのか?」
「まぁ、そんなところだと思いますよ」
そう雑談していると、薫田あるじにだけ分かった事ですが、床が少しずつ下がっているような感覚に陥ります。
まるで、床が抜けてこのまま外に放り出されるような感覚でした。
「なんか落下している感じがするのだ…」
その感覚はやがて全員にも来ました。そう、床は抜けて青い空と見慣れた街が自分達の下にあるのです。
「いや、感じじゃない。これは本当に落ちているのだぁあ!」
風が体を包み、目はまともに開けていられません。しかしここの人間は異常なので針口裕精以外は目を開けて、周りの状況を見渡しています。
「皆さん
「あんな所にカフェリソワラが、後で行こう」
一方、パラシュートもないまま落下し続けていることに怖がっている彼は叫んでツッコんでいますが、瞼の下が丸見えになっています。
「なんでそんなに軽いんだお前らぁぉぁぁああえああええええああー!!」
そして五郎は落ちていくさ中、段々と体が星屑のようにキラキラと輝きながら、空へと戻っていきます。
戻っていく場所の空間はハサミで切られたかのような所で、そこには白い空間がただは広がっているだけでした。
「ありがとう、針口、エビ菜、あるじ、ニアミン。わたしとあの子達とじゃ絶対に分からなかったから」
五郎が涙を流して言います。
「五郎…!」
針口裕精も手を伸ばして、彼女と握手しようとしますが、手に残る感触は塵のみで、もう既に彼女の形はなくなりつつあります。
「感謝するなら空中から落とすのやめてくれませんか。崖から突き落とされた事思い出すので」
「こうやって空中から侵入した事もあったねー懐かしい」
「バンジーなんて何回もやってるからつまんないのだ」
感動的な場面でも容赦なくぶっ壊すのがこの人達の十八番です。そして、また彼は叫んでいます。喉が強くて羨ましい限りです。
「お前らの人生どんだけ濃いんだぁああああああああ!!!!」
そして、全員の意識はなくなりました。気がつくと元の場所にいた時に戻っており、時間も何も変わっていませんでした。
ただ自分達が経験したあの出来事は変わることは無いでしょう。
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