20.会うのは聞いてないよ
後日、二週間ほどでしょうか。
針口裕精はあの出来事がただの夢ではない気がして、今日に至るまでに絵画一族の事を無意識的に気になって調べていました。
そして、この氷見区で美術館で絵画一族の所有する絵画の展覧会があるというのを知りました。
その展覧会のある日に、彼は幼馴染と共に訪れていました。
「げっ…」
「あが、裕ちゃんの知り合いべか?面白そうな人がだだね」
そして、あの夢であった人物が今目の前にいるのです。夢で会った時と何ら変わりない生身の人間だったので、彼は驚いています。
「へー、ニートなのに彼女居たんですね」
「と、としゃべるか彼女じゃねよ」
自然に隣の幼馴染に話しかけているので、蝦蛄エビ菜には悪いのですが、咄嗟に距離を置きました。幼馴染は赤面してそれどころではなさそうですが。
蝦蛄エビ菜の隣に居る男性は気を使っているのか、先に行くと言い、奥の方へと行ってしまいました。
「お前だって彼氏居たのかよ」
「ただ奢ってもらうだけですよ」
「けっ、道徳心がねぇな。だがあの時はありがとう。それだけは言っ…お前もか!」
彼が話している時に、体格のいい、どう見ても危ない金髪の男が目に入ってしまいました。ヴェニアミンは児童を引き連れて、こちらへと向かってきます。
「ニアミンは引率で来ているだけだよ。大人の泥沼恋愛を観察しようね」
「人を勝手にサンプルにするな、勝手に泥沼にするな!」
そしてヴェニアミンの後ろで、小さい女の子が出てきました。
「しー、美術館では騒いだら駄目なのだ」
「まぁこの流れなら居るか、あるじたん」
薫田あるじが揃った所で、全員あの時と同じように集まってしまいました。そして、彼は聞きました。
「全員やっぱり、オーロラ・ターナーの作品を見に来たのか?」
緊張して少し声が震えます。しかし、彼が思っていた反応とは全く違うものが返ってきました。
「いや友達が藤下
「保育園の引率だって言ったよ、耳ある?」
「一緒に来た人がデートプランに混ぜていましたから、興味無いんですけれどね」
針口裕精は落胆しました。
「動悸が不純なのしかないな」
「こほん、裕ちゃんについて行って正解だったよ。こんなに面白い人達に出会えた」
「面白い…ねぇ。てか秋田弁どこいったよ」
隣の幼馴染は急に標準語で話すので、彼は少し驚きました。都会の大学に進学するだけあって、彼女も彼と同様に方言が恥ずかしくなったのでしょうか。
「それはお互い様、だよ」
「まぁそれもそうか」
そんなやり取りを横目で、薫田あるじは幼馴染に指を指します。何だか不屈そうな顔で。
「てか針口に彼女がいるのが信じられないのだ、おかしいのだ」
「彼女じゃねえって、幼馴染だ」
急に彼の服の袖が引っ張られます。
「あ、ねぇねぇ裕ちゃん」
「どうした?」
幼馴染が向かおうとしていた所は、絵画一族の説明と、生き残った少女、オーロラ・ターナーについての説明書きがある場所です。
そこには沢山のスケッチや彼女自身の日記があり、どれも日本語訳されています。
「オーロラ・ターナーって不思議な夢を見たあとにゴローってミドルネームを付けたらしいね。
その夢の記憶を元に夢に出てきた人物が描かれているんだけど、ちょっと似てないかな?」
彼女が指を指したスケッチブックには、四人の人相が描かれており、あまり上手ではありませんが特徴は捉えているでしょう。
「マジか…」
「やはり時を超えてましたか」
蝦蛄エビ菜はあの出来事をただの幻覚だと思っていませんので、淡々としています。
「ニアミンこんなに恐ろしくないよ」
「あちきと針口が美化されすぎなのだ」
「あるじたんはこんなもんだろ」
薫田あるじと針口裕精は本人よりも美化されていますが、彼女の顔に関してはどれだけ美化してもいいような気がします。
彼女の顔はまるで神が自ら手を施したように、整っているのですから。
そして、蝦蛄エビ菜とヴェニアミンは化け物のような描かれ方をしています。邪智暴虐といった言葉がとても似合うでしょう。
「あ、今もそのオーロラ・ターナーの子孫が一族を復興させて、今度は家具の会社とか色々な事業に手を出しているみたい。それで35歳で亡くなったんだ、早すぎるよね…」
オーロラ・ターナーの子孫は今や有名な大企業の一族ではありますが、会社名やらが色々と違うので、大元がここだとはあまり知られていない事実です。
「あの五郎が…確かに早いが今は金持ちになって子孫がいるのか」
「五郎?」
「いやなんでもない」
そう雑談していると時間が過ぎていき、そろそろ全員が痺れを切らしてきました。
元々一緒に居た人間の元へ帰らなけらばならない、という気持ちが出てきたからです。
「もう会うこともないですし、さようなら」
「あちきもそろそろ友達の所に戻らなくてはならないのだ、ばいばーい」
先に女性陣が戻っていきます。ヒールの音が段々と遠くなり、スニーカーの地面を擦る音がなくなっていきます。
「子供達が離れちゃった、迷子だ」
「それじゃあな」
サンダルの音が軽快に響き、古ぼけた靴音は部屋の奥へと消えていきました。
こうして、4人はそれぞれ別の方向に行きました。
また会うことも知らずに。
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