17.そういうのは習っていないぞ?!

 次に入った部屋の壁は燃え尽きた後であり、塗装は剥がれています。床には絵画が二枚置かれています。


 奥にあるのが扉で、それ以外は何もありません。前の部屋が狂気に満ちていたので、こんなボロボロの部屋でも安心してきました。


「ジョルシュの部屋に似ているのだ」

「匂い自体は少なくなって来ましたね」

「全部燃えた後だからかな?」


 遅れてきた針口以外はこの部屋に来ました。


「この絵画の女が着ている服、ジョルシュの部屋にあった服に似ている…こっちの絵画もか」


 絵画は二つとも燃えて苦しんでいる女性が描かれており、ずっと見ていると呼吸が荒くなるほどの熱量が伝わってきます。


 そして、その絵画の近くに、とても古い新聞紙が落ちていました。


「お、日本語なのだ!って、うわぁ…酷い死因ばっかりなのだ」


 大見出しには「絵画一族皆殺し事件!」と書かれており、死因と浮気、そして絵画一族に関しての情報が記載されていました。


 最初に息子夫婦が何者かに屋敷で刺されて死亡。その次に、ジョルシュの妻が何者かに一服盛られて死亡。


 その後、屋敷は燃えて当主とその娘三人は焼死。そして後の調査で首吊り死体が見つかった。これはもう1人の息子だと判明したということです。


「このオーロラ・ターナー8歳って女の子が生き残ったようです」

「写真は…ないみたいだな。代わりに肖像画か。全員見たことあるな」


 写真はなく、肖像画が記載されており、それの大半は回ってきた部屋で見てきました。


「お、おいこれ!」

「五郎の肖像画ですね」


 その中に五郎本人の肖像画がありました。今この場にいる五郎よりも血色が良く、楽しそうに描かれております。


 そしてその下にはと書かれていました。


「…やっぱりですか」


 蝦蛄エビ菜は五郎をチラッと見てから次の部屋に行こうとします。


「次行こうか」

「待ってくれ五郎に確認を」


 針口裕精が五郎に新聞紙を見せようとしますが、彼の前にヴェニアミンが立ちはばかります。


「記憶喪失なのに無駄だよ。自分の顔なんて覚えている訳がない」

「それは…やってみないと分からないだろ。もう五郎に関する情報は出尽くした、そろそろ自分の事だって思い出しているはずだ」


 ヴェニアミンはかつての仲間がPTSDが原因で記憶障害になっていた事を思い出しました。その時に彼がパニック障害になったりと、色々な弊害があった事を彼から聞いたことがあります。


「記憶喪失は短時間で治らない」


 その真剣な目に睨まれた彼は新聞紙を元の場所に戻していきました。


「それは…そうか」

「後で医者に見てもらえばいいじゃないですか、次で最後のはずです」


 大人達は先の部屋に行きました。しかし、子供達はまだこの部屋におり、五郎が座り込んでいます。


「五郎は何か見つけたのかー?」

「これ、持っとく」


 薫田あるじは彼女の隣に座り込んで、手に持っているマッチ箱を見せてきました。


「マッチなのか?あ、あちきを燃やして耐火性を調べようと...」


 彼女は過去に起きた事を思い出して、冷や汗を出しました。そして、古びたマッチ箱にはあと僅かしかなく、側面がとても汚れていました。


「なんでそんな事しなきゃならないの」

「あ、あはっ、早とちりなのだ」

「お前まで発想グロくなってるぞ」


 五郎は本当に何故だろうという顔で薫田あるじを見ています。そんな顔をされたので、彼女は恥ずかしくなって笑って誤魔化しています。


 突然、彼女の耳に人の声が聞こえてきました。低いしゃがれているのに、何故か赤ちゃんのように幼い声が。


 針口裕精がドアを開けようとしていると、薫田あるじがボソッと言いました。


「...あ、この先に誰かいるのだ」

「えっ、またあの化け物か?」


 あの化け物より大きな巨体が引きずっているような音も聞こえました。


「それよりも大きいのだ、何倍にも」


 全員に緊張が走りました。


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