16.キモ

 彼女はこの先に何がいるのかは特定は出来ませんでしたが、とりあえず人間ではないことは確かです。


「ちょっと待つのだ、少しだけ開けた状態で良いから待つのだ」

「早く行きましょうよ。あ、もしかして扉の間にスライダーしたいんですか?」


 扉の隙間はほんの数ミリ程であり、そこに頭からスライダーすれば流血し、失神するでしょう。

 蝦蛄エビ菜は彼女の頭を扉に擦り付けようとしますが、勿論彼女は抵抗して距離を取りました。


「違うのだ…すこし静かに…」

「それは前フリ、って事でドーン」


 ヴェニアミンが扉を開けると、そこには鉄臭い匂いと獣臭、そしてなにやら焦げた香りがしてこのフロアで1番臭いでしょう。


 そして彼は見てしまいました。視認してしまったのです、お互いに


こんにちはピービェット、こちら保育士。今から殺す」


 彼は手に持っていた古びた剣を振り回して目の前の化け物に特攻していきます。


「意味が分からなっ…!きっしょくわるい生き物いるぅ!?なんがあれ!?」


 化け物は二体おり、部屋の中は薄暗いです。


 その内の二体は小さな犬のようで体がドロドロに溶けてゾンビのようでした。身体中に人間の赤ちゃんの手足が生えております。

 素早くうごいており、尻尾でこちらを攻撃してきます。


「くっ、応戦したいけど武器がないのだ」

「壊した椅子の脚を使って」

「あ、頭いいのだ」


 ヴェニアミン一人で戦っております。そして薫田あるじは彼のアドバイス通りに椅子の脚を持ってきて、応戦します。


「頑張ってその畜生どもの魂を食い殺しましょうね」

「急に怖いこと言うな!食い殺すとかよく思いつくよな!」


 対してOLと元社会人は扉の少し後ろで怖気ついています。


「いつも通りでは?」

「...まぁ、確かに」


 戦闘の場面に移ります。彼は小さな化け物を剣を振りかざして、それを潰していきます。

 切れ味が悪いのでこうやって潰さないとちゃんと殺せないからです。


「この敵の体液を被ると皮膚が解ける。もしかして、硫酸かな?もー硫酸は存分に浴びたのに嫌だよ。更に園児達に怖がられちゃう」


 彼は腕に小さな化け物一体を潰した時の体液を浴びてしまいました。エプロンで体液を拭きますが、少し皮膚が溶けてしまいました。


「戦いになると日本語流暢だな!」

「わぁ、こっち来ますよ」

「ぎゃあああああ!!五郎後ろに下がれ!」


 もう一体は五郎に向かって来ます。部屋の外にまで来ようとするので、待機している3人は後ろに下がっていきました。


「うん、分かった」

「言う前に下がってんじゃねぇか!優秀だなお前!」


 針口裕精が後ろの幼女とOLを守るように前に出ますが、彼の膝は震えています。

 そんな勇敢な彼を殺そうとする小さな化け物は尻尾で喉元を掻っ切ろうとしますが、


「こっちは頭上貫通で死亡したのだ、ニアミン先生の方はどうなのだ?」


 薫田あるじによって頭を椅子の脚で床に突き刺さりました。そして彼女はそれを引っこ抜いて、また頭に刺しました。


 化け物が死んだことによって安堵した針口裕精は床に座り込みました。


「んーもんじゃ焼き。体液さえ浴びなければ身体能力は普通の小型犬、弱いしすぐに死んじゃった。あ、剣にこの体液を染み込ませれば強くなるね」


 彼はもう倒れてしまった小型の化け物を剣で細切れにしています。形状としてはもんじゃ焼きに近いですが、あまり想像しない方がいいと思います。


「もういっその事、口に含んで相手の顔面にかけましょう」

「あはは、両頬と下顎が溶けて落ちるよ」


 蝦蛄エビ菜はいつの間にか部屋の中に入り、その化け物の形状を観察しています。その際にヴェニアミンに軽い冗談を言っていますが、あまりにブラックすぎて、後の3人は引いています。


「どこに笑う要素が?」

「常人には分からないのだ」

「この部屋を調べて」


 五郎が中を調べてというので全員、中に入りました。


「うえっ、サンダルで来るんじゃなかった…ば、吐きそう」


 あの化け物の肉片は床全体に飛び散っており、踏む度にぐにゅぐちゃと嫌な音とたてます。そして、息をする度に生臭く鉄臭い匂いが肺全体を満たします。


 あぁ、極めて不愉快です。


「懐かしい匂いがします」

「あ、エビ菜ちゃんも?」

「早くこんな所おさらばするのだ…」


 狂人2人が一斉に深呼吸しています。薫田あるじは、こんな匂いを肺いっぱいに吸っている2人にドン引きしました。


「私達の子、集めて生まれた子。血が濃いのは誰のせい?」

「え、もしかして黒幕は蝦蛄さん?」


 彼女が急に脈絡のないことを言い出すのので、針口裕精は驚きました。


「紙の内容を読んでいるだけです」

「うん、予想通り。早く次行こう」


 彼女の下には血や何かで汚れてしまった古びた紙がありました。


 そしてそれを聞いたヴェニアミンは己の悪い方の予想が次々当たっていくので、少し覚悟することにしました。


「その予想を聞きたいんだが」


 全員、次の部屋へと行きました。針口裕精は放っておかれたのです。


「冷たいなぁ!」


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