15.金庫破り型破りですね

「ウェーイ」

殺そうダヴァンビヨン〜」


 狂人2人が暗号のある壁を蹴ったり、殴ったりしていますが壁には一切傷や穴は開きません。表情は変わらないものの、物凄く楽しそうです。


「これが壊れたらここから出れないかもしれないのに…」


 薫田あるじが不安そうにそれを見つめています。足はそこに行って止めようとしたがっていますが、彼女の体格では蝦蛄エビ菜ですら止めることは出来ないでしょう。


「むしろ正規の方法でいくの恥ずかしくないですか?」

「むしろ荒業でいくのって馬鹿じゃないですか?ふざけるなよ、倫理観うんこ蝦蛄さん」


 スーツ姿でスカートが段々とめくれそうになっている所で、針口裕精が羽交い締めにして止めました。


 彼女はスカートの裾を伸ばして、元に戻しました。その隣でヴェニアミンが殴りを繰り返しています。


 そして、急にピタッと止まって冷静になって暗号の答えを考えています。


「で、結局パスワード何なのだ?」

「うーん難しいね」


 一番身長差がある2人が話しています。薫田あるじは首を傾げて、考えていますが全く分かりません。彼も考えてはいますが、段々とつまらなくなってきました。


「あるじちゃまをねじ込みましょう。小さいからきっと鍵穴に入ります」

「鍵穴なんてないのだ」


 本当に何を言っているのでしょうか、閉鎖空間で頭がおかしく…いえ、元々でしたね。彼女は怖くなってヴェニアミンの後ろに隠れました。


「犠牲は付き物ですから」

「じゃあエビ菜ちゃんが死のう」


 蝦蛄エビ菜は彼女に近づいて、ぐるぐると彼の周りを回っています。


 ずっと回っているので彼は腹が立って、蝦蛄エビ菜の顔を鷲掴みにしました。


「は?私はまだ死ねませんけど」


 彼女は体重を彼に預けて、どこかのジャクソンのように、ムーンウォークをしているかのように、体勢が斜めになっています。


 首の骨がイカれる前にヴェニアミンは鷲掴みをやめました。彼にも人の心があったのですね。


「仲良いのか悪いのか…どっちなのだ」

「ルーレットスタートです」


 急に針口裕精以外が歌い出すので、彼は戸惑って何とか着いていこうと思いましたが、手拍子しか出来ませんでした。


 テノール、ソプラノ、絶妙に高いのか低いのかよく分からない声が廊下に響いています。


「じゃんじゃか〜じゃんじゃか〜」

「な、なんだこれは?」


 幼女と女子高校生が手を振ってダンシングしており、OLはソーラン節を歌いながら謎の神秘的な舞踊をしています。


 心地の良い低音でオペラを歌いあげて、古びた剣を丁寧に振り回しています。振り回しているのに丁寧とはなんでしょうか。


「判決!」

殺そう〜ダヴァンビヨン

「あちゃー死罪なのだ、来世にご期待なのだが、期待する程の人生送ってなかったのだ」


 薫田あるじはあっかんべーをしながら、くねくねしています。全員が考えるのに飽きて狂気に至る行動ばかりやっています。


 彼女の言葉が針口裕精の精神を削ってきたので、彼は暗号を入れようとしています。


「なんか楽しい雰囲気なのに虚しくなってきたからパスワード入れるぞ」

「正直ヒントが皆無じゃないですかね、とりあえず問題を読んでください」


 蝦蛄エビ菜にチョップされて、彼はこの廊下のすみっこにうずくまって痛みが収まるのを待っています。


 脳天ど真ん中に力いっぱいチョップされたので、脳が揺れているような、そこに血流が集まるのを感じました。


「対となる夫婦、片割れは元気に一人のshellが生まれた。そしてもう片割れはshellにもSwordにもならないもの、何回も何回も。それがanswerだ」


 ヴェニアミンが問題文を読み上げます。わざわざありがとうございます。


「対となる夫婦は愛人さんとジョルシュのことなのだ?」

「夫婦じゃないですね、愛人関係なので」


 薫田あるじはあまりにも登場人物と考察する要素が多すぎるので、頭がこんがらってきました。


 そして、蝦蛄エビ菜は謎の舞踊をしながら考えています。本当にこの人は何をしているのでしょうか。


「その対となる夫婦は五郎の両親と養子と姉の夫婦だよ。片割れは五郎夫妻、shellは貝だから女の子、つまり五郎」


 ヴェニアミンはどんどんと自分が考えている最悪のシナリオに近づいている、と感じました。彼は五郎を瞳孔を開けてじっくりと見つめました。


 やはり見かけは普通の女の子です。西洋や自分の祖国に居ても何ら不思議ではありません。


 しかし、彼の頭には五郎黒幕説がもう固定されており、彼女の前で油断は出来ません。


「そしてもう片割れの養子と姉の夫婦は何回も死産したんでしょうか」

「なんで死産って分かるのだ?」


 OLは簡易的に答えを出しました。


 自身の過去の経験から基づいた事を、命の授業も性教育もマトモに受けていなさそうな女子高校生に説明しました。


「死産って妊娠12週間から19週間の間に多いんです。性別が分かるのは男でも最低14週目、女なら最低17週目です」

「へー知らなかったのだ。そんなに時間がかかるものなのか」


 彼女は生命やら生死について考える事を毛嫌いしているので、その説明を興味なさそうに聞いています。


「shellにもswordにもならないって事は、性別がまだ具現していないと考えて流産の可能性もあったのですが」

「生命のことなんか分かんないのだぁ」


 不貞腐れたような顔で、蝦蛄エビ菜の説明を聞き流しています。だって自分には全く関係のない、全く役に立たない知識なのですから。


「何回も、というのですから性別が特定出来ないのではないでしょうか。これが一人の人物をさしているならば」

「う、うーん?どういうことなのだ?」


 しかし、答えが死産というのには引っかかっるようでした。更に一人の人物というキーワードが追加されて、ますます分かりににくくなってしまいました。


「なんで急に頭が切れるようになるんだよ、つまり死産が答えなのか」

「美味しい所持っていったね」


 針口裕精は何故こんなにまで蝦蛄エビ菜が妊娠について詳しいのか、少し疑問に思いました。


 彼はポジティブな解釈をしました。多分、彼女は性教育の分野は得意だったのだろうと。


「でも死産の英単語なんて分かんないのだ」

「こんな時に何ヶ国語も学んでいる人がいればいいんだけどな…」

「どこかに居ませんかね、そんな素晴らしい頭脳を持った人が」


 これが三段オチの応用ならぬ四段オチの応用の活用形です。日本人、特に西の方ならば、もはや常識でしょう。


 関西はお笑いの1つや2つが出来ていなければ迫害されます、知らんけど。


 そして全員ヴェニアミンの方をチラチラ、いえ、ガン見をしています。そんな視線を諸共せず彼はその流れを破壊しました。


「ニアミン日本のお笑い分かんないなぁ」


 彼は暗号を入れており、カチカチという音が廊下に響いております。彼は期待されていると天邪鬼になってしまいそのまま自分の意思を貫きます。


「ちゃっかり入れるなよ、ノリに乗れ!」

「答えはstillbirth、10文字でぴったり」


 ガチャッ…という金属音と鍵特有の音が聞こえて扉は今にも開きそうです。


「…ん!」


 他の皆は何も気づかず、そのまま扉の先に行こうとしましたが、薫田あるじだけ気づきました。妙な息遣いと微かに香る異臭に。


「開かない方がいいのだ…様子見した方がいいのだ…」

「急にどうしたんだ?」


 彼女は今まで嗅いだことのないような香りに驚き、この扉の先に警戒しています。針口裕精は急にピリピリしだした彼女にびっくりしています。


「何か、人間じゃないものが...」

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