13.双子?の部屋のようだが

 部屋に入ると他人の家の香りがしました。いまさっき人が過ごしていたような、そんな香りです。


 その部屋は現代では出せない味があり、ヨーロッパのどこかにありそうな部屋です。


 アンティーク物の本棚に部屋の中心には古びた剣が床に刺さっており、やはり部屋の奥の真ん中には絵画が飾っていました。


「歴史の教科書にありそうなのだ」


 薫田あるじは世界史はからっきしで、こういった本格的な洋風の建築は初めて見ました。そして、日本史だけは得意です。


「本ばかりで滅入ってしまいます」

「あの絵画、五郎にそっくりじゃないか?」


 蝦蛄エビ菜は本棚から本を一つ取って、それを開けて顔に乗せました。そのまま地面に綺麗に倒れました。


 その倒れ方はまるで舞台の上で、ジュリエットを演じている女優さながらの美しい倒れ方でした。

 いつも通りの頭がおかしい行動をしているので彼女以外の人はもう何もツッコミません。


 そして針口裕精が絵画の方を、指さす方向を見ると金髪と黒髪の女の子が描かれている絵画を発見しました。


「本当なのだ!でも肩幅は広いし男の子なのだ。あれ、なんでスカートなんか履いているのだ?」


 その絵画の女の子達は微妙に肩幅が広く、骨格が男の子です。顔つきもその歳頃の女の子なら、もう少しぷっくりしているはずです。


 そんな些細な事に気づいた薫田あるじですが、何故女装をしているのかは分かりませんでした。そういう所ですよ。


「あぁ、昔の習慣だよ」

「昔の習慣というのは何なんだ?教えてくれ」


 本棚から本を取り出しペラペラと捲っているのはヴェニアミンです。彼はその本に載っていた情報を全員に伝えました。


 ヨーロッパや世界各地、勿論日本にもその文化はありました。


 男児に魔よけとして、女装させる文化があったといいます。昔は男児の方が死ぬ確率が高かったから、女児の方が体が強かったから等の理由があります。


 その文化を受け継いでこの絵画の男の子達も女装しているのでしょう。


「なるほど、そんな変態的な趣味があったのか。罪深いな」


 高校生と保育士は針口裕精を気持ち悪いと思いましたが別の事に集中する事にしました。


 彼は小さい時に親戚や近所の人達に、女の子の浴衣を着せられた事があるのでこの男の子達に少し親近感を感じています。


「ちょっと!ニアミン先生手伝って欲しいのだ!固くて抜けないのだ」

「剣かぁ」


 ヴェニアミンは本を元の場所に戻し、部屋の真ん中に行きました。部屋の真ん中には古い剣が刺さっており、それを抜こうと薫田あるじは踏ん張っておりました。


 中々抜けないので彼に頼んで抜いて貰おうと思いましたが、彼はそのまま彼女ごと抜いてしまいました。


 詳しく説明すると彼女が剣を引っ張っている所にヴェニアミンが彼女本体を上に引っ張って…いや、これ抱っこしてますね。


 剣は薫田あるじの手の中にあり、彼女はキラキラした目で剣を見ています。


「未成年の女の子に怪我させるつもりか!」

「あるじちゃま可愛いですね」

「お前見てないだろ」


 針口裕精はしばらく考えていましたが、彼女が何故か抱っこされながら剣を持っている様子を見てゾッとしました。


 倒れたまま喋っている蝦蛄エビ菜はそろそろ顔に本を置くのも飽きたので、その本を投げ飛ばしました。


 投げ飛ばした先は書類が挟まっていた本棚らしく、彼女の顔の周りには書類が散らばっています。


「養子のですか、辻褄があってきましたね」

「養子縁組の書類?それジョルシュのマヌケが引き取った奴か。あと急に起き上がんな!」


 その書類は養子関連のもので、ジョルシュ・ターナーが名前の欄が塗り潰されていますが、その人を引き取ったという証明書がありました。


 休憩は十分に出来たので、蝦蛄エビ菜は立ち上がりました。その様子を見て、またもや彼はゾッとしました。


「剣抜けて、紙あったよ」

「まずあるじたんに謝罪しろ」

「そうですよ保育士のくせに」


 ヴェニアミンは薫田あるじを下ろして、床に落ちている紙を拾いました。ヒラヒラとさせながら蝦蛄エビ菜と針口裕精に近づきました。


 二人はやいのやいのと言っていますが、ヴェニアミンは気にしません。


「大丈夫なのだ、慣れているのだ。それより紙が気になるのだ」


 二人は標的を変更して、薫田あるじを天使だの可愛いだのとやんのやんのと褒め殺しています。それに照れて更にエスカレートしていきました。


「読むよ」


 ヴェニアミンは保護者が園児にデレデレになっているので慣れていましたが、こうして見ると自分もああなっているのではないかと、少し怖くなってきました。


「また対。五郎の兄弟、もしくは対象的な人物が黒幕なんですかね」

「まだそうと決まった訳じゃない」


 五郎を見ながら二人は誰が黒幕か話し合っていました。OLは五郎を黒幕、ニートは絶対にそれは違うと反論していました。


「あ、図鑑も落ちていたのだ」

「絵画のメモ。イトランの意味を調べて」

「おっけーなのだ」


 薫田あるじは二人を放置して、書類が落ちた所へ行きました。剣は誰かが怪我しないように本棚の隅に置いといておきました。


 そこには本も落ちており、花の図鑑が落ちておりました。


 それを手に取った瞬間にヴェニアミンは絵画のメモの内容を思い出したので、ついでに頼みました。


 OLとニートの二人は絵画の前に来て、その黒髪と金髪の女装した男の子の絵画をまじまじと見ています。


「本当に男の子なんでしょうか、やっぱりついていないのかもしれません」

「だが、あるじたんはオタクではない。絶対に男の子だと思う」

「針口の性癖歪んでますね」


 その絵画の金髪の男の子の方の服装の方が豪華で、どこかで見たことあるような服装です。その隣の黒髪の子は質素でした。


 また、二人とも何かの植物を持っています。

 顔つきはやはり金髪の方が五郎に似ています。


 そして、また二人は言い合いを始めました。


「存在も性格も行動も歪んでいる奴に言われたくねぇよ」

「口が悪いですよ」

「誰のせいだ、おい」


 蝦蛄エビ菜は笑っていますが、何しろ表情が変わらないので笑い声が部屋に響きます。彼女の得体の知れない笑いに彼はやっぱり、この人はヤバいのだなと再認識しました。


「…あ!この服、さっきの部屋で見たのだ!五郎に似ている方の男児の服。一つだけスーツが縫い付けられていた方なのだ」


 薫田あるじが花の図鑑を調べ終わったあとに、ふと絵画の方を見てみました。


 絵画の金髪の方の服装が、前の部屋で床に落ちていたあの女児服そっくりなのです。


「なんで気づかなかったのだ…それで、イトランの花言葉は男らしいさ、やっぱりこの2人は男の子なのだ!」


 花の図鑑にはイトランが載ってあり、その花言葉は男らしいさと戸惑いです。薫田あるじは絵画を見て、自分でも驚くくらいスラスラと考えが出てきました。


 彼女は確信しました。イトランの花言葉に骨格、この絵画に描かれているのは男の子だと。しかし何故あのスーツが縫い付けられていたのかさっぱり分かりませんでした。


「流れ的には養子の子はこの五郎に似ている方でしょうか。でも、この2人どちらも養子という事はなさそうですね」


 養子の書類の名前の欄には1人の名前しかありませんでした。蝦蛄エビ菜は五郎と絵画を見比べて舌を舐めまわしています。


「背景には金髪の方はスーツの男がナイフを持っていて、黒髪の方は首吊りかな」

「思ったんだが、背景物騒すぎないか」


 針口裕精は彼女とは反対方向に居たヴェニアミンと話していました。


 何故か後ろからぺちゃぺちゃと音がするので後ろを振り返ってみました。


「時代背景ってそんなものでしょう」

「まぁ、確実にこの謎のピースは埋まりつつあるな。次の部屋行くか」


 彼女の口周りが妙に光っていますが、彼は気にせずに次の部屋に行くことにしました。


 しかし後ろで何かを外す音と金属音がなっています。彼は振り向きました。


「次はどんなのがあるのかな」

「脱出の糸口があればいいのですが」

「待て、その剣とその絵画を置いていけ」


 彼はヴェニアミンと蝦蛄エビ菜に注意しました。何故か戦闘態勢にいる二人を見て、ため息をついた後に理由を聞きました。


「殺人鬼が居たら何で戦えばいいの?」

「まず戦いから離れろ戦闘民族め」


 ヴェニアミンは表情は普段より少し穏やかになっています。しかし、剣を持ち、刃を肩に乗せているせいで益々怪しい人物へとなっています。


 その職質の後ろで彼女がこっそりと絵画を持ち出そうとしていました。


「絵画もだ」

「盾に出来るじゃないですか」


 ほら、と言わんばかりに絵画を彼の前に置いてグイグイと押し出してきます。また彼はため息をつきました。


「出来るわけねぇだろ、お前が盾になれ」

「ツッコミが過労死するのだ」


 常識人二人が辺りを見渡すと、もうヴェニアミンは部屋の外に出ており剣も持ち出しているのが分かりました。


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