12.芸術は破壊力に勝らないね

 ヴェニアミンが見た内容というのは


「もう死んだ赤ちゃんの蘇生はやめなさい、貴方の顔色酷いわ。貴方の母、エリザベスより」


 綺麗な字ですが、これを受け取った相手の拳にクシャッとされたのが分かります。


 そして、その紙が挟まれていたページこそが死者蘇生のページであり、失敗すればその死体は大きく膨張し蠢くのです。


 そしてその失敗作を合体させると、意志を持つようになるが、持つようになるまでの体積は全長3m程でなければならないという事が書かれておりました。


「確実にこのメモを受け取った人はやった」


 彼は直接これを言うと、混乱に陥ると思ったのでとても抽象的に言いました。


「何をだよ」

「なんかの呪文じゃないですかね」

「身内に不幸が訪れちゃうのだ」


 針口裕精だけが鈍感で何も気づきませんでしたが、何となく後の女性陣は気づきました。


 しかし彼は別のことには気が付きました。


「紙が折れている部分があるが、そこは?」

「死者蘇生って書かれているね、あと毒薬の小瓶の作り方も」


 死者蘇生のページ以外にも毒薬の小瓶の作り方というのが書かれていました。その毒薬というのは飲めばすぐに死にます。


 そして、心臓発作を引き起こす大変危険な毒ですが毒の反応は出てこないおかしな薬です。


「そうですか、そうですか」

「キョンシーが作れるのだ」


 女性陣の反応として微妙ですが、針口裕精はこの部屋の探索がこのまま続けば大変な事になるのではないかと思えてきました。


「微妙に嫌な予感はするが…まぁいいだろう。次はこの絵画についても調べるか」


 しかし知的好奇心は抑えられません。部屋の探索を続けなければ脱出は出来ないと、彼は考えているのですから。


「確か貝があれば女でしたね。この老婆、貴族でしょうか」


 老婆の絵画は気難しい表情をしており、目が少し虚ろに見えます。高そうな装飾品に歳相応ですが、少し派手で品のある服装に貝殻がついた帽子を被っております。


 その老婆の後ろには薄暗いベットとその床に空の小瓶が落ちていました。


「背景のベットとビンは何なのだ?」

「この小瓶、毒じゃないか」


 薫田あるじはこの絵画をじっくりと見ましたが、やはりただの老婆の肖像画にしか見えません。


 針口裕精もこの絵画を見ましたが、彼はこの絵の後ろに描かれている小瓶の意味に気づきました。


「なんで分かるのだ?」

「毒薬の小瓶の作り方、そして謎の本に挟まれていたよく分からないメモ用紙、このばっちゃの気難しい顔、解けたぞ」


 彼女は謎に思いました。ただの小瓶、しかも床に落ちている小瓶に毒が入っているのか。


 小さい時はシャーロック・ホームズに憧れた彼は得意げな顔をして、推理を話し始めました。


「メモ用紙をこの本の持ち主に渡して、何らかの理由でこの老婆が毒殺されたんですね」

「美味しい所持っていくなよ」


 美味しい所を持っていった蝦蛄エビ菜に彼は不貞腐れて、やる気をなくしました。


 詳しい内容を次に記します。


 メモ用紙の中身は赤ちゃんの蘇生を止めろと書かれていました。そのメモを受け取った本の持ち主は殺意が湧き、メモを書いた人物。


 そう、絵画に描かれている老婆です。そして、あの本には毒薬の小瓶の作り方が載ってありました。


 ページの端が折られている事から、重要な所であるのは明白です。その毒薬を作り、老婆を殺したのでしょう。


「でもこの人が殺されたって証拠はないのだ。なんで後ろに小瓶があるのだー?」


 薫田あるじは頭が悪いので何故この絵画の老婆が殺されているのか、さっぱり分かりませんでした。


「そんなの、こんな死んだ目をしたお節介ババアは殺すでしょうよ」

「動機として酷くないか。こーんな絵画の後ろに毒薬の小瓶があったらそりゃ殺されでら証拠になるはずだ」


 薫田あるじは針口裕精の言い分には納得はしましたが理解はしていません。どちらかというと彼女の言う分の方が理解出来ます。


 口が悪くなりますが、薫田あるじはこの老婆を幸が無さそうなのだと思っていたからこそ彼女の方が納得出来るのです。


「この散らばっている子供服とスーツ、それに謎の骸がまだ残っているのだ」

「白骨死体は老婆、腰あたりの骨が大きく脆い。服は知らない」


 彼女はこの謎も大人三人が、解いてくれると思ったのですがほぼ全てヴェニアミンが解いてくれました。


 服に関しての情報は今のところなにもないので、彼も何も言えないのでした。


「もう次に行きましょうか」

「そうするしかなさそうだな」


 OLと元サラリーマンが部屋を出ていきました。その後を保育士と高校生と記憶喪失の幼女がついて行きました。


「五郎、次はどっち行けばいいのだ」


 薫田あるじが彼女に聞くと、元いた白い部屋から見ると奥の右の方の部屋に指をさしました。

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