8.賃貸でこれが出てきたら、ニアミンは不動産屋を潰す

 奥の部屋は、前の部屋の壁紙の点々がどんどんと目玉になっており、5人の目の前には綺麗な女の絵画が飾ってあります。


 その女の絵画の下には木のオブジェクトが両サイドに突き出ています。


「錆びているとはいえ凄い力なのだ…」

「これで奥に行けるようになりましたね、先生」


 鉄格子の残骸を見た薫田あるじは血の気を引いています。その隣で針口裕精が白目になって怯えています。


 そして、蝦蛄エビ菜はヴェニアミンとハイタッチをしていました。2人は嬉しそうにみえます。あくまで、嬉しそうにみえるだけです。


「エビ菜ちゃん、ウラー」

「ハイタッチですね、やったー」

「ウラーってどういう意味なのだ?」


 2人は先程までぴょんぴょんと跳ねていたのにハイタッチをした後には、元の配置に戻っていました。


「これは武器には出来ないね、脆すぎるよ」

「それで誰を殺す気だよ、あーもう何なんだこの部屋は」


 ヴェニアミンは折れた鉄格子を壁に向かって叩きつけました。すると、叩きつけられた鉄格子は真っ二つになってしまいました。


 その様子に針口裕精はもう慣れたのか、頭を掻いてイライラしています。


「部屋の壁紙の点が目ん玉になっているのだ。うへーリアルなのだ」

「これは奥二重でこれは二重ですね、ここの壁紙の目は整形済みですかね」


 女性陣が壁紙のリアルな目の模様を手でなぞっています。それは本当にただの模様なのですが、そこに本物だと錯覚する程にまでリアルな眼球が描かれていますから、興味を引かれたのでしょう。


「この女の絵画、綺麗だな」

「その絵画もこの部屋のオブジェクトも何か意味があるのかな」

「意味があるから置いているんじゃないんですかね」


 そして男性陣もあるアートに興味を惹かれていました。それは飾られている女の絵画です。


 ヨーロッパのどこかの国の昔の平民のような格好をしており、茶色の髪色の女で、後ろの背景にはたくさんの人が左端を見つめています。


 そうして各々がまるで美術館に来たように、鑑賞していました。


「恒例のアレをやるのだ、五郎!ここに見覚えはぁー?」

「ない」


 薫田あるじはまた五郎に聞きましたが、駄目でした。


「あええ、やっぱりダメだったのだ」

「こんな置物に見覚えある方も中々だな」


 彼女はまた落胆しました。薫田あるじは感情豊かなので、すぐに落ち込みすぐに元気になります。

 そして針口裕精は皮肉を言いました。彼はこの部屋の内装を不気味に感じ取っているからです。


 あわよくば、早く別の所へ行きたいとさえ思っています。


「難しいことは大人に任せるのだ。あ、五郎もここに乗るのだ」


 薫田あるじはこんなにまで頭を悩ませる事は今までに1回ぐらいしかなかったので、疲れてしまいました。休憩をするため、絵画の近くの木のオブジェクトに座っています。


「一応、お前も考えろ。新しい視点が見つかるかもしれないからな」

「絵画をメリーゴーランドしている人に言って欲しいのだ。もうあちき、疲れたのだ」

「は?いきなり何を言い出しているんだ」


 針口裕精は彼女の方向を向いていたので、気づきませんでしたが、隣で風を切る音がします。不思議に思い、音がする方向を見てみると


 蝦蛄エビ菜がかかっている絵画を回していました。そのスピードは凄まじく、扇風機として代用しても差し支えないほどでした。


「いつもより多く回転してますね」

「絵画をいつも回している奴がいる訳ないだろ、何やってんだ馬鹿。絵画一族の謎を解くのに一番重要そうなのを回すんじゃねぇよ!」


 それを見た彼は蝦蛄エビ菜を羽交い締めにして、無理やり止めました。


「絵画一族という名前だから絵画がキーとなっていると考えるのは安直では?」

「それは…揚げ足を取るなよ」


 大人しくなったので、彼は羽交い締めをやめました。彼女は何事もなかったかのように平然としています。


 そして、床に何かの紙が落ちている事に薫田あるじが気づきました。彼女はそれを取りに行って、ヴェニアミンに渡しました。


「なんか紙が落ちているのだ、さっきまであんなのなかったのだ」

「本当だね、ちゃんと日本語で書かれているよ。みんなに優しいね」


 紙は折りたたまれており、紙質が劣化しています。それを彼が開けてみますと、中は日本語で書かれたメモのようでした。


「あの暗号もそうですが、英語と日本語が混じっているのはなぜでしょうね。全部翻訳すればいいものを」

「できない理由があるのだ?」


 蝦蛄エビ菜はふと思ったことを言いました。そしてそれに薫田あるじが乗っかりました。


「見ていないものは出来ない。私とアレが混じっているのだから」

「五郎、それはどういう意味なのだ?」

「いまでてきた」


 一瞬、五郎がまたあの時と同じように、雰囲気が一変しました。しかし、すぐに元に戻ったのでこれに気づいたのは薫田あるじ1人だけでした。


「俺が読もう」


 ヴェニアミンから紙を受け取り、彼が読むことになりました。


「絵画の見方に関するメモ。貝があれば女、剣があれば男で、絵画の人物の後ろにあるのは人物のナントカカントカで、正面は聖人しか向かないが、一人と二人は違う。一人はイトランで後の二人は…いない?」


 彼が開いた紙に書かれているのは、またもや下手くそな日本語で書かれていました。しかし、最後の文である。いない、という所だけ明らかに字体が違っています。


「ナントカカントカと言った所は黒く塗りつぶされていて、読めないな」

「針口、そのメモを貸すのだ」

「分かった」


 針口裕精は薫田あるじにその絵画に関するメモを渡しました。彼女はじっくりとその文章を見ています。


「最後のいない、という所だけ筆跡が違うのでこれは誰かがこの文の重要そうな所を塗りつぶしたということか」

「妨害ですかね、私的にはイトランというのが気になります。そして1人と2人という所は別々の絵画の事でも表しているんでしょうか」


 針口裕精と蝦蛄エビ菜が話しています。不思議と、この絵画に関するメモについての考察がスラスラと出来ています。


 ここだけの話ですが、イトランというのは植物だということをこれを読んでいる方に記載しておきます。


「あぁ、そういう意味か。てっきり数学的な記述かと思っていた」

「こんなメモがあるということは他の部屋にも絵画があるってことかな」

「あーだからこのメモがこの絵画から出てきたって訳か」


 大人の会話が続いているさ中、また蝦蛄エビ菜の発作が出てきました。それをヴェニアミンは微笑んで見守っています。


「なら私が絵画をぶん回したのは正解だったということで。また回します」

「たまたまだからな?偶然だ」


 彼女が絵画に近づこうとすると、針口裕精がまた羽交い締めしようとしましたが、暴れてしまうので、彼の貧弱な力では抑えきれませんでした。


 暴れて満足したのか、彼女は絵画を回すことなく大人しくなりました。


「針口!ニアミン先生!エビ菜!これ、この黒く塗りつぶしている所!」

「そこがどんな文字か分かったのか?この部分か?」


 息切れしながらも針口裕精は反応しました。彼女に近づいて、その紙に黒く塗りつぶしてある所をなぞりました。


「違うのだ、この黒いのは劣化した血なのだ。微かに鉄分の香りがするのだ」

「え、その部分触っ…ああああああいいいいいあああ!!汚ねぇえええ!!病気、病気になるううう!誰の血だよ!」


 彼はその部分に触った事に後悔しました。そして、絶叫しながら飛び跳ねて必死に手を服で拭いています。


「血よりもインクか何かで塗りつぶした方が効率的だよ」

「修正テープを知らないのでしょう。もしくは、雰囲気重視の為に血で塗り塗りしたんですかね」

「エビ菜ちゃん、その線は有り得るね」


 狂人2人が何故血で塗りつぶしたのかを真面目に考察し合っています。


「なんで冷静になってんだよ!そっちゃある汚い物離せよ!」

「何弁なのだ?」


 阿鼻叫喚、そう表現するのが正しいでしょう。五郎はこの4人を放って、絵画を見つめていました。

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