後輩の感情色が恋色だった

たこすけ

第1話 告白

「先輩のことがずっと好きでした」


俺はある日の放課後、学校の屋上で後輩の女子に告白された。

相手の子の名前は八宵水萌やよいみなも。関係性は、簡単に言ってしまえば仲の良い先輩後輩の関係。別にそれ以上でもそれ以下でもなかった……はずだった。

実際のところ、告白をされるなんて思ってもいなかったし水萌がこっちに恋愛的な好意を向けていることにも気づかなかった。


「それって……つまり」


「はい。私と付き合って欲しいってことです」


どうなりたいのか。その質問に真剣な眼差しで水萌は答えた。回りくどい言い方ではなく、直接的な言い方だった。


本気で俺の事を好き、ということか。

そう思った瞬間、胸がちくりと痛んだ。

俺はここで彼女のことを振らなければならない。そう思ったからに他ならなかった。

自分のような人間を好いてくれる事はとても嬉しかった。だけど、生憎俺はその感情を理解できない。


覚悟を決めて、水萌に返事をしようとした時、俺より早く水萌が言葉を発した。


「この告白に返事はいりません。これは、あくまで鈍い先輩に自分の気持ちを伝えただけ。今度は先輩に好きだって言わせてみせます」


意気揚々とした態度の水萌に俺は呆気にとられていた。

そんな彼女を見て、言おうとした言葉を引っ込めた。もしかしたら、水萌は何を言おうとしたのか理解していたのかもしれない。


「……いいのか? 」


「なんのことです?」


含ませた言い方での問いかけに対して、水萌ははぐらかすようにして誤魔化した。

そこへの詮索をそれ以上することはなかった。


「先輩。一個だけお願いきいてもらってもいいですか? 」


そう言うや否や水萌は、俺との距離を徐々に詰めてくる。一歩……二歩……さっきまであった距離が一気に縮まる。

完全に二人の距離が縮まったところで、数秒間立ち止まって──抱きついてきた。

当然、その現状が理解できずに戸惑っている。


「お、おい! 水萌! 」


呼びかけているが、全くといっていいほど反応がない。

さすがにこれはまずいと思って肩を掴んで引き剥がそうとするが抱きついている手が離れない。

こうなったら、水萌の手を掴んで離すしかない。水萌の手を掴んで離そうとしたその時、俺は気づいた。いや、気づいてしまった。


水萌の手が震えている。


「水萌……お前……」


俺は、顔を上げた水萌を見て言葉がでなかった。

さっきまでの態度とは打って変わって泣いている表情が見えた。

それだけではない。彼女の肌に触って今までに見た事のない感情色の色を見てしまった。

淡いピンク色……その色が表す感情を俺は知らない。


涙を流しながら、言葉が途中で途切れながらも水萌は必死に謝ってくる。


「先……輩っ……ごめん……なさい……私……」


「いや、謝るのはこっちの方だ……ごめん。」


どうして謝るのか、それを言葉にする必要がなかった。なぜなら、彼女の涙がそれを証明してるから。

彼女の一言一言が胸に刺さる。

少しだけ落ち着いたのか、涙を制服の袖で拭うと元通り……とはいかなくても、大方さっきの表情に戻っていた。


「私、諦めませんから」


少し掠れた声だが先程よりも、堂々とした態度でそう言った。


「それじゃあ帰りましょうか」


詰まっていた距離がまた離れて、扉を開けた。完全に告白のときと切り替わっている。

その事に安堵して強ばっていた表情を崩し水萌後を追った。


家に帰ってから、俺はその日の水萌の表情と、あの時触れた色が頭から離れなかった。









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