〈短編集〉恋愛ショート
有田 賢生
第1話 僕らの王国
この王国は女王が支配している。
我儘、理不尽、傍若無人な統治者である。
女王陛下はいつも私にご命令なさる。
「今日は魔王を倒しに行く、ついてこい」
「仰せのままに」
そう言って、私はテクテクと女王の後を付いて回る。
女王陛下は今日も私にご命令なさる。
「甘い菓子が食べたい」
「仰せのままに」
そう言って私と女王は深夜に店屋へ出向く。プリンなどいかがでしょう?
今日も私にご命令なさる。
「疲れた、足を揉め」
「…仰せのままに」
揉むのは構わないが、いきなり私の背中を蹴るのはやめて欲しい。今日もお疲れ様。
今日も私にご命令なさる。
「何か動物が飼いたい」
「我慢してください」
いつかお城を移したら考えてあげよう。目標は5年以内。
今日も私にご命令なさる。
『今日シーツ干しといて』
『仰せのままに』
陛下からの文をパタリと閉じて、件のシーツから起き上がる。ほのかな香りにまた微睡む。
ガチャリと正門が開き、差し込む夕日と共に陛下がご帰還なさる。
ご帰投のご挨拶も早々に、戦利品を掲げられながら。
女王陛下は今日も私にご命令なさる。
「お酒を買ってきた、一緒に飲みなさい」
「仰せのままに」
温まった頭を揺らすように、陛下は話術師や芸人を見てお笑いになる。
そのご尊顔を眺めていると、私の口も自然と弛む。
女王陛下は明日も私にご命令なさる。
〈短編集〉恋愛ショート 有田 賢生 @aritaka1998
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