ギャルゲーの悪人キャラに転生してしまったんだがどうすればいい?

きりんのつばさ

ギャルゲーの悪人キャラに転生してしまったんだがどうすればいい?

僕は“青い月が見える丘で”通称“月丘”というギャルゲーが好きだ。


このゲームは魔法が使える世界が舞台で主人公の男子生徒アクセル・フォンが家の都合でとある学校に来たところから始まる。そこで何人かの女子生徒と交流していく中でたった一人の大切な相手を探すののがおおまかな話だ。実はこの主人公には色々と辛い過去があったりするのだが……まぁそれは今度にしておこう。



高校生の僕はそのゲームにドはまりした。


ーー魅力的なヒロイン


ーー主人公を助ける悪友


ーーその場にあったBGMや綺麗なイベント絵


それらが全て僕の好みにドストライクだった。好きすぎて英単語や歴史の人名は覚えるのが苦手な僕なのだが、このゲームにおいてはテキスト、選択肢は勿論、説明書の一言一句まで覚えている。主人公からヒロイン、悪友、モブに至るまで人物が全て魅力的だ。


だが……そんなゲームでも唯一嫌いなキャラがいる。それはレイ・ハーストンというキャラだ。こいつは親が国の有力者というのをいいことに常に偉そうに振舞っている。性格も傲慢不遜で本人に大した能力は無い、転校してきた主人公を目の敵にして、嫌がらせをしてくるのだが全て乗り越えられたあげく、最後は今までの悪行がバレた上に父親の政敵を蹴落とすための策略に使われてしまい命を落とすのであった。


このゲームのキャラはモブキャラでも取り替わってその世界を見てみたいと思っていたが、何があってもレイだけにはなりたくないと思っていた……そう思いたかった。






結論から言おう、僕は何故かレイ・ハーストンになってしまった。



とある日“月丘”をプレイしたあと寝て目を覚ますと、そこは明らかに今まで自分がいた部屋とは違っていた。そして部屋に入ってきたメイドにこう言われた。


「おはようございます


それを聞いた瞬間、何言ってんだこいつと思っていたのだが鏡に映った自分の顔を見たら、そこに写っていたのは紛れもなく僕が一番なりたくなかったキャラ、レイ・ハーストン幼少期そのものだった。

……それを理解した瞬間、僕はショックのあまり気を失った。


まさか自分がモブキャラでもいいから転生したいと願っていたゲームに転生したのに、よりによってゲームで一番の嫌われキャラであるレイ・ハーストン5歳に転生するとは……。


それからというもの僕は自分のバットエンドを防ぐため、色々と努力した。


魔法の練習?

現実世界だと勉強も運動も大して出来なかった僕が魔法でチート能力……なんてことはなくまともに魔法を使えず、唯一使えた魔法は近くにいる人の魔法を強くする補助魔法のみ。

……しかも手を握っている人1人のみというというチートには程遠い性能。



策略に使われないように家族と仲良くする?

色々と家族のためにやろうとすると全て空回りしてしまい、しっかり者の妹には“お兄様は何もしないでくださいませんか?”って怒られたよ。

……許してくれ妹よ、兄もバットエンドを回避するために必死なのだ。



友達を増やして味方を増やす?

とにかく頑張って友達を増やそうとしたのだけど、何か気が付いたらとっても男女構わず遠巻きにされているんだけど……? 前に廊下歩いていた時に、クラスメイトが僕に誰が話すかで話しているのを見たんだけど……結構ショックだよ?

ヒロイン達に至っては僕に話すので喧嘩していたし、僕の推しのヒロインに声をかけたら目を逸らされ全力疾走で逃げられたし。

……好きなゲームのヒロインだからこそあんな態度を取られると更に傷つきますよ僕。



まぁ見て分かるように散々な結果に終わっている。

何度も部屋のベットで自己嫌悪になったか。

どうすれば僕のバットエンドは回避できるのか馬鹿な頭なりに必死に考えてみたのだけど全くと妙案が思いつかなかった。そんな事をしている内に気が付いたら例の転校生が来るまでもう少しになっていた。



「よぉ、坊ちゃん」


「……あぁアルか」


彼の名はアルト・トリスケール。180越えの細マッチョで目つきがいかついが実際話してみると気さくな奴で一緒にいて楽な奴だ。この学校に入学してきた際に周りから見た目のせいで遠巻きにされていたのだがどうしても味方が欲しかった僕が話しに話しかけて友達になった。転生してから僕が頑張ってきた中での数少ない成果と言えばアルと友達になったことだろう。


「どうしたそんな浮かない顔をして」


「あぁ僕にも色々あんだよ……」


「心配ごとがあるなら何かするか? 授業サボろうぜ!!」


「……たまにはそれもありかな」


「坊ちゃん、悩みがあるなら聞くぜ?

ーーまぁ俺の馬鹿な頭で正解が出てくるか分からんがな!!」


「ありがとうな、アル」


「おう、教頭のかつらを剥がしにいこうぜ!!」


「何言っているの!?」


「てか、思い出した」


「何をだい?」


「そう言えば坊ちゃんを生徒会室に呼んでこいって伝言頼まれていたんだわ」


僕は仕事の要領がいい訳でも、何か一芸が出来る訳でもないのに何故か僕は妹と一緒に生徒会の一員なのだ。ちなみにアルも僕の推薦で生徒会の一員なのである。実はこの生徒会というのがゲームのメインヒロイン達が集まる場所なのだ。

……ちなみに僕の役職は副会長だ。本当に謎だ。


「それ先に言ってよ!?」


と僕は生徒会室に向かって走り出すのであった。







いかにも豪華な扉をそっと開いた。


「お兄様……今日はおかしなことしてませんよね?」


「大丈夫だ、我が妹ーー」


「ーー坊ちゃんなら教頭のかつらを取ろうとしていたぜ!!」


「アルーーー!?」


「……お兄様、貴方は何をしているのですか?」


と冷たい目線をこちらに向けてくるのは我が妹、ラウラ・ハーストン。生徒会では書記担当。

僕と同じ銀髪をした美少女で、頭の良さを認められて生徒会入りが認められた。僕よりも年下でとても器量がよく周りに優しいのだが、兄である僕にはとてつもなく厳しい。

妹に怒られている僕を後ろでアルがニヤニヤしながら見ている。

……てめぇ、今度覚えておけよ。


「本当にラウラはレイの事が好きですね~」


とそんな僕ら兄妹の様子を見てニヤニヤしながら見てくるのはチャス・アルマンダ、担当は主務。

ラウラと同じぐらい美少女で日頃はのんびりしているが情報収集が得意で、生徒会構わず学園内で敵に回したくない人間の1人だ。僕も何度か彼女にはお世話になっている。


「チャス様!? べ、別にそ、そんな訳ないじゃないですか!!

何をい、言っているんですか!! お兄様がダメなのがいけないんです!!」


「……ごめんよ、出来の悪い兄で」


「ち、違うんですよお兄様!? も、もうチャス様!!」


「ハッハッハッ~ゴメンってばラウラ。でもレイって本当に面白いよね~

ーー貴方もそう思うでしょ、ミラ」


「……同意、レイもラウラも面白い」


そう言いながら優しく微笑んでいるのがミラ・ルネフ。担当は会計。

長身のモデル体型で真面目で口数こそ少ないが温厚な性格。

騎士団長の娘で女性ながら剣の腕は達人級で、学園内で喧嘩を仲裁するところをよく見るし、そういうよ僕もよく僕が面倒ごとに巻き込まれるたびに嫌な顔をせずにアルと一緒に加勢してくれる。


「皆さん、お茶いかがですか?」


とチャスとラウラが喧嘩しているのをしり目に人数分のお茶をしれっと用意しているのが副会長のアリーヌ・ベスランド。豊満なプロモーションが表すように、この中では最上級生のため生徒会の中でもお姉さんという立場で役員みんなを暖かく見守っていて、そして気が付いたら人数分のお茶とお菓子を用意している。

……毎度のことながらお茶とお菓子はどこから出てくるんだろうかと疑問に思う。


「わぁ~いアリーヌ先輩のお菓子だ~」


「……私もいただく」


「下級生の私がやりますからアリーヌ様は座っててくださいって」


「ラウラさん、お茶入れは私が好きでやっていることですから気にしなくていいですよ」


「そうだぞ下級生~アリーヌ先輩のお茶は美味しいんだからいいじゃないか~」


「チャス様はもう少し先輩に敬意を払ってください!!」


ガチャ


「--今日も生徒会室は賑やかね。

皆さん、ごきげんよう」


そう言いながら生徒会室に入ってきたのは生徒会長のフローレンス・ライシング。

スタイル抜群、文武両道、、魔法適正も抜群で、性格良しという非の打ちどころがないという完璧超人。

……そしてこのゲームで僕の一番の推しヒロインである。


「すみません会長……」


「いいのよラウラさん、貴方は兄のレイ君が好きですからね」


と会長は微笑みながらラウラをからかうように言った。


「会長まで!?」


完璧超人でありがならも、このような冗談を言ったり、気さくに下級生に話しかけてくるため学園内でも人気はトップクラス。僕なんて隣にいていいのだろうかと思うぐらい。


「レイ君、ごめんなさいね。急に呼び出してしまって……」


「い、いいですよ!! 会長のお呼びとあればどこまでも!!」


推しキャラに“来い”と呼ばれたら行かないはずがないだろ?

……そして申し訳なさそうな顔、たまらないです、ハイ。


「アルトさんもごめんなさいね」


「俺のことはいいですって。

ーーで、レイを呼び出した理由ってなんですか?」


「そうですね。本日、先生方から私に話があるました」


「どのようなお話なのですか?」


「ーー転校生が来ます」


「……ッ!?」


とうとうこの時期が来てしまったかと身体がこわばる。

それを悟られないようにとりあえず頑張って口を開けた。


「どのような方なのですか?」


「あまり情報は無いのですが……確か名前はアクセル・フォン、レイ君と同じ学年です」


“アクセル・フォン”

自分が一番なりたかった人物の名前……そして今一番聞きたくない名前だった。

さっきアリーヌ先輩がいれてくれたお茶を飲んだはずなのに喉が渇き、指先が震えるのを皆に悟られないように我慢した。


「なんでも記憶喪失とのことで……」


「な、なるほど……な、なら同い年の僕が仲良くしまーー」


「レイ君?」


そっと隣から会長の細くて綺麗な指が僕に触れる。


「体調、大丈夫かしら?」


そう言いながら僕を見つめてくる。


「お兄様……? そうなのですか?」


「大丈夫か~レイ?」


「……然り、無理禁物」


「あらあらレイ君、無理はだめよ?」


妹を始めとして生徒会のメンバーも僕の体調を心配してくる。


「ぼ、僕は大丈夫ですよ、さぁ会長話の続きをーー」


「ダメです。会議よりも役員の貴方の体調が大切です」


「そうだぞ、坊ちゃん。ここは一度休もうぜ」


会長だけではなく、アルにまで言われたので僕は言い返せなかった。


「……すみません。少し外の雰囲気に当たってきますね」


「分かりました。アルトさん、お願いしますね」


「おう、任せな

ーー行こうぜ、坊ちゃん」


「悪い……アル」


と僕はアルに付き添ってもらい生徒会室を後にした。




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「さて、皆さん。今回の話はどう思いますか?」


フローレンスはそう生徒会の面々に尋ねると、役員達はそれぞれ違った表情をした。


「全くお兄様は……なんで私に何も言ってくれないんですか」


ラウラは少し悲しそうな顔をした。


「そんなの愛しの妹を心配させたくないからでしょ~」


「それでも私はお兄様の妹ですし……」


「だからこそじゃないの、まぁね~そういうのがレイ君の良いところだしね~。

……でもねぇ~事前の情報通りだからねぇ、気を付けますか」


チャスはいつもののんびりとした様子とは裏腹に真面目な表情をした。


「……然り、私の剣の腕を見せよう。彼には幾らか借りがある」


ミラは表情こそ変えなかったが腰に帯刀している剣を少し抜いた。


「私もレイさんのことは心配なのでお手伝いさせていただきます

ーー私の可愛い後輩のために頑張りますね」


アリーヌはいつもの微笑みだが冷たさを感じる微笑みだった。


「では、皆さん申し訳ないですがお力お借りします」


「「かしこまりました」」





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例の主人公が学園に転校してきて数か月。

彼は膨大な魔力と爽やか風イケメンの風貌も相まって、学園で一気に噂になった。

まぁ転校生というだけなら噂ならすぐに終わるものだ。


「アクセル君、ついに生徒会入りみたいね」


「まぁあの魔力量なら妥当だよな……」


アクセルはゲームのストーリー通りに生徒会役員に応援されながらの学園生活を送っているようだ。ここがゲームの世界ならシナリオ通りに物語が進むのが当たり前なのでしょうがない。

……ただ少し寂しいと感じてしまう。


(今まで僕はこの風景を画面で見ていたんだから、この風景は今まで通りじゃないか……何を今更寂しく感じるんだよ……僕は悪キャラ、父親の策略に使われるキャラだ……いなくなるのは当たり前だよね……)


「大丈夫か坊ちゃん?」


隣で歩いていたアルが心配そうに尋ねてきた。

……駄目だな僕、周りの人に心配ばっかりかけているな。


「お、おう……どうした?」


「いや顔色が悪くて、心配になってな。

ーー今日は校長のかつらを取りに行くか?」


「何で毎回偉い人のかつらを取りに行くんだよ……大丈夫だよ、僕は」


「そう……なぁいいんだが。あと周りの奴らの噂はほっとけ。どうせすぐ終わるからな

ーーおっ、そうだ。このあと生徒会室でアリーヌ先輩のお茶とお菓子もらいに行こうぜ」


と妙案を思いついたように俺に意気揚々と言ってくるアル。


「生徒会室か……最近行ってないな……」


「そういえばそうだな、いいのか? 坊ちゃん副会長だろ?」


「僕自身、あまり有能じゃないからね……魔力もあまりないし。それに比べて転校生の彼は……」


なんせいつも要領が悪くて妹や家族に迷惑をかけているし、生徒会の面々のように誇れる一芸を持っている訳でもない僕よりも魔力が高いの彼の方が生徒会に必要だろう。


「そうかぁ~? 俺が言うのもなんだが魔力が膨大なあんな奴よりも魔力が低くても目の前の事を必死にこなして頑張っている坊ちゃんの方が生徒会に必要だと思うがな」


「ハハ、ありがとうねアル」


アルの励ましに少し心が救われた僕であった。


「おうよ、そんでさ……坊ちゃん」


「ん、何だ?」


「会長にいつ告白するんだ?」


「……い、い、いきなりどうしたんだ?」


「いやぁ~だってなぁ。坊ちゃんが会長に好意を持っているのは明らかだしな」


「……」


そりゃね。ゲームで一番推しのキャラですからね。

でも、それだけじゃない。

実際に彼女と生徒会の仕事をこなしていくうちに、彼女の内面に触れていくにつれ、本気で好きになっていき、今では1人の女性として彼女の事が好きだ。


「坊ちゃんなら行けるだろ。なんなら俺が生徒会の面々と告白のシチュエーションをーー」


「--それはない」


「ん?」


「アル、それは絶対ない」


「どうしてだ? 坊ちゃんらしくない」


「だってな……」


ーーだって僕はゲーム内の悪役なんだから。

悪役とヒロインが結ばれるストーリーは無い。

自分の好きなキャラーーいや女性が他の人を好きになるなんて普通見たくはない。

それでも僕は悪役のキャラなんだ。父親の策略に嵌められて死ぬ愚かなキャラだ。

どう頑張っても僕が彼女と一緒になる未来はない。


ーーだとすればあの2人の恋を応援すべきだ。


「おいおい勝負を挑む前に負けなんて決めるつけるなんてつまんねぇだろ、それによ言いたい事があんなら言わないと伝えられないだろうが。

ーーほら、行こうぜ坊ちゃん!!」


「いやでも今会長忙しいでしょ。今行ったら迷惑だよ」


「そんな時こそ副会長の力が必要だろが!!

もしかしたらそんな坊ちゃんに惹かれるーー」


「--それはない」


「……坊ちゃん?」


「そんな事あり得ないんだ」


……だって僕は悪役なのだから。

だがそんな事しらないアルはいつも通りに


「まだ告白してねぇのによ、なんでそんな決めつけるんーー」


「アルに僕の何が分かるんだよ!!」


「……ッ」


「アルは僕か!? 僕じゃないだろ!! 僕が会長に告白するかどうかなんてアルには関係ないんだからほっといてくれよ!!」


つい勢いで言ってしまい、アルの表情を見た瞬間、自分がいかに最低な発言をしたのかを理解した。


「だよな……わりぃ……俺無神経すぎたな」


アルは申し訳なさそうな顔をしていた。


「ご、ごめん……アル、僕は……」


「いや坊ちゃんは悪くねぇ。俺っていつも何でこうなんだ……

ーーすまん、坊ちゃん俺頭冷やしてくるわ」


アルは申し訳なさそうな顔そのまま行ってしまった。


「ま、待ってアル……」


僕はアルの方に手を伸ばしたのだがそのまま腕を下した。


「僕は何をしているんだよ……親友に何を言っているんだよ……ハハッ、悪役らしいや」


自分の事を心配してくれた唯一の親友に酷い事を言ってしまった。

悪役の僕らしい最低な行動だ。

本当に会長の事が好きならストーリーなんて気にしないで告白すればいいのに、一番悪役だからという考えに陥っていたのは僕だったのだろう。


「と、とりあえず謝らないとーー」


「--よぉ、レイ」


呼ばれた方を見ると、そこには赤髪の爽やかイケメンが立っていた。

その顔を忘れるはずがない。

……何故ならそいつは僕がやりこんだなのだから。


「少しさ、お前と話したいことがあるんだよ」


アクセル・フォンはその爽やかな笑みを浮かべていた。









最初は僕も断ろうとしたのだが、あまりにもしつこかったので渋々彼についていった。彼についていった場所は学園内での廃校舎であった。


「話って何かな?」


「おう、そうだな。じゃあ端的に言おうか。

ーーお前、この世界の人間じゃないだろ?」


……そう来たか。


「やっぱりそうか……だからストーリー通りに進まないわけだな」


「……」


「おい悪役。さっさと退場してくれねぇか? 本来お前みたいな悪役よりも主人公の俺がフローレンスや生徒会に合っているだろが!!」


……確かにこいつの言う通りだ。

知っているさ、大した能力もない僕なんかよりも主人公の方が生徒会やフローレンスの隣に相応しいってことぐらい。


「というかおかしいだよな……この時期はまだお前には取り巻きは沢山いたはずだし、何よりもお前が生徒会室にいないのはそんなのシナリオになかったはずだ。お前みたいな悪役に味方なんていねぇんだよ!! さっさと親の策略に巻き込まれるか何でもいいから、俺に副会長の座を譲れ!!」


それもそうだろう。

自分が嫌われるのを見たくないから生徒会室に行かない上に、唯一の親友であるアルにはさっき自分の不甲斐無さを棚に上げて八つ当たりしてしまった。

……あまりにも自分がバカで空気が読めなくて嫌になってしまう。

ここは大人しく主人公に副会長の座を譲るべきなんだろうか……だがそんな時ふとある言葉が頭をよぎった。


“おいおい勝負を挑む前に負けなんて決めるつけるなんてつまんねぇだろ、それによ言いたい事があんなら言わないと伝えられないだろうが”


あいつは僕の事を本気で心配してくれた。レン・ハーストンという1人の友達として。

……あいつは本当に悪役の僕には勿体ないぐらいの良い奴だ。


「ねぇアクセル・フォン、1つ聞いていいかな……?」


「なんだ聞いてやるよ」


「お前は生徒会に入って何がしたいんだ……?」


「はぁ~? そんなの決まっているだろ、ハーレムだよ、ハーレム。異世界転生して更に魔法の才能があるって分かったら、やることはそれぐらいしかねぇだろうが!!」


「そうか……なら僕はお前にこの副会長の座を譲るわけにはいかないな」


「はぁ? お前頭悪いんじゃねぇの? この世界でのお前の立ち回り分かっている?」


「あぁ僕の立場なんて誰よりも知っているさ!!」


僕は自分に才能がないというのは嫌というほど知っている。

転生前の世界でも運動や勉強もまともに出来なくて、両親には呆れられて、コミュ障のせいで本音を語れる友達もいなかった。ただ学校に行って、授業受けて、終わったら家に帰るだけのつまらないルーティンを繰り返していくだけだった。


……だからこそこの世界に転生出来たと知った時は今度こそは頑張ってみようと思った。主人公とまではいかなくてもそれなりに平均ぐらいまでは頑張ってみよう、と。だけど実際は前の世界と何も変わらなかった。勉強、運動、魔法も何も上手くいかずに何度も落ち込んだ。


だけど……


“坊ちゃん、悩みがあるなら聞くぜ”



そんな僕でも親友だと思ってくれる奴がいる。



“もぅ、お兄様は仕方ないですね……”


“本当にレイ君は面白いよね~”


“……同意、レイもラウラも面白い”


“レイ君はクッキーとスコーンどちらがいいですか?”


“ほら行くわよ副会長のレイ君”


生徒会のメンバーとして認めてくれるみんながいる。


であるならば僕に出来ることはただ1つだろう。


「僕が生徒会の副会長に相応しいなんて思ってもないし、会長の隣に相応しくないなんて誰よりも分かっていたから、主人公が来た際には大人しく副会長の座を譲ろうと思っていたさ」


「ほぉ……分かってんじゃんか、ならよさっさとーー」


「だがお前には絶対譲るものか!!」


こいつは誰かのためではなく、自分のことしか考えてない。


ーーそんな奴に副会長の座を……生徒会を……会長の隣を譲りたくない!!


「お、お前何を言っているんだ……?」


アクセルは僕の発言が予想外だったらしく若干うろたえている。


「副会長の座も、会長の隣も何もかもお前に譲るものか!! 例え主人公のお前が相手でも、自分が悪役のレイ・ハーストンだとしてもだ!!」


「フン、お前に何が出来る? 大した能力もないくせによ」


先ほどまでのうろたえた表情から変わり、憎々しげな表情に変わった。


「あぁ確かに僕は自慢できる能力は何もない!! なら今まで以上に何事にも努力する!!」


ラウラに勉強を教わり、ミラに剣の指南をつけてもらって、チャスには情報を集める技術を、アリーヌ先輩にはお茶……ではなく人を見る力を教わってみよう。そして少しずつでも会長の力になれるように頑張っていこう。


「おいおい1人でか?」


「1人じゃない!! 僕を……僕の事を本気で心配して、一緒に笑える素晴らしい親友いる!!

ーーだからお前にだけは負けられない!!」


「生意気言いやがって……!!

ーーおい、お前ら出てこい!!」


とアクセルが言うと教室のドアから何人もの男たちが出てきた。

どうやら僕をここで始末するつもりのようだ。

……どこまで僕はバカななのだろうか。わざわざ自分から殺されにいくなんて。


(結局僕はバットエンドなのかよ……まぁ仕方ないよな僕悪役だし

ーー何よりも僕の事を心配してくれた親友に酷い事を言っちゃったしな、しょうがないか)


「お前って本当に馬鹿だなぁ~!! ノコノコとついてくるなんてなぁ!!

ーーじゃあな悪役のレイ・ハーストン!!」


「みんな、ごめん……」


「--させねぇ!!」


ガシャーーン!!


とその声がすると同時に後ろで硝子が割れる音が聞こえた。そしてそのまま窓を突き破ってきた影は僕とアクセル達の間に立ちふさがった。


「あ、アル……?」


「よぉ坊ちゃん、優しいのはお前の長所だけど流石に知らん奴についていくのはどうかと思うがな~」


そこには僕の親友であるアルがいつもの笑顔を浮かべて立っていた。


「なんでここにいるの……?」


「ちょっと頭を冷やそうとしていたんだがその際にお前がその男と一緒にこっちに来るのが見えたから心配になってついてきた……すまんな坊ちゃん」


「アル……」


……本当にお前は僕には勿体ないぐらいの親友だよ。


「ーーお兄様に何をしているのですか貴方達は……」


「何をしているんだろうね~少し遅れていたら危なかったね~でもラウラの気持ちも分かるなぁ」


ラウラとチャスがいつの間にか僕の傍に立っていた。

……なお2人とも今まで見た事無いような怖い顔をしている。


「大丈夫か、レイ……誰から我が剣の錆にしてくれようか」


ミラに至ってはいつも以上に冷たい目線を男達にしていた。


「お、お前らうろたえるな!! 相手はガキだけだぞ!!」


「--グラビティ・アウト」


と誰かの呪文の言葉が聞こえると、僕に襲い掛かろうとした男達は地面に埋め込むぐらいに沈んだ。


「貴方方ですか私の可愛い後輩クンを傷つけようとしたのは……?

ーーそこで大人しく地面でも舐めていてください」


いつもの優しい声はどこにいったのか冷たい声を発してくるアリーヌ先輩。

……というかアリーヌ先輩、意外と怖いんですね。


「ーーそれまでです、アクセル・フォン」


「会長……」


「か、会長!? こ、これは違うんだ!!

ーーそ、そうだ!! こいつだレイ!! レイ・ハーストンが俺を嵌めようと……!!」


「レイ君はそんな事をする人ではないです。それぐらい彼と一緒にいる人なら誰だって分かることです」


「会長……」


僕は会長の一言がとても嬉しかった。

今まで生きてきたそんなことを言われたことが無かったため余計に心に響く。


「皆さん、アクセル・フォンを始めとする数人を無力化し、魔法が使えない部屋に連行します

ーーいいですね?」


「「はっ」」


と会長の一言で僕以外の生徒会メンバーとアルが頷いた。

……まぁアリーヌ先輩の魔法でほぼ無力化されているので無力化は簡単であった。


「レイ君!!」


「お兄様!!」


「レイ~大丈夫?」


「……レイ、怪我は?」


「レイ君、お茶いる?」


と口々に僕の事を心配してくるみんな。

……そして貴方はここでもお茶ですかアリーヌ先輩。


「うん、僕は怪我無いです。みんなありがとう……そしてアル」


「おうどうした?」


「--さっきはごめん。僕、アルに酷い事を言ったよね……最低だ」


「あぁ俺は気にしてねぇって。それに俺も調子に乗っちまってな、お互いおあいこで、どうだ?」


アルは僕がさっき言った事を全く気にしてないようで、そして逆に自分が調子に乗ってしまったと申し訳なさそうな顔をしている。


「だけど僕の方が酷い事を……」


「だから俺は気にしてねぇって。

ーーまぁそれよりも俺はさっきあいつに言ってくれた言葉が嬉しかったな」


「言葉……?」


「あぁ“僕の事を本気で心配して、一緒に笑える素晴らしい親友いる!!”ってな。

ーーいやぁ、あれさ聞いているこっちが恥ずかしかったなぁ?」


とニヤニヤしながら言ってくるアル。


「なら言うなよ!? 僕だって恥ずかしいんだからさ!!」


あの時は勢いで言ってしまったが、冷静になって振り替えてみるとかなり恥ずかしい言葉を言ってしまったと穴があったら穴が入ってそのまま墓石を立てて死にたい……!!


恥ずかしくなりみんなから目線を逸らすと、アクセルが拘束を振り払っているのが見えた。



「ーー俺の思い通りにならない世界なんて死んじまぇ!!」


とアクセルはそう言うと大きな火の玉を作り出し、会長に向かってとんでもないスピードで飛ばしてきた。急なことすぎて会長も含めて誰も動けなかった。

……ただ僕だけはアクセルが拘束をほどけたのを見ていたため、みんなに比べて反応出来た。


「会長危ないっ!!」


「きゃっ!! レイ君!?」


僕は会長を火球の範囲から弾き飛ばすと、僕自身は火球を避ける事が出来ず、そのまま直撃し近くの壁に勢いのまま叩きつけられた。壁に叩きつけられた際の衝撃で指一本動かせない。


「れ、レイ君!? し、しっかりして!!」


「いや……いや……お兄ちゃん……し、しっかりしてよ……?

ねぇ……ねぇってば!!」


「ラウラ落ち着いて!!

ーーミラ、先生に保健室の仕様の許可と医者を呼んで!!」


「……早急に呼んでくる!!」


「アルト君、レイ君を運んで保健室に連れていけますか!?

私も回復魔法を道中でかけ続けますので!!」


「あぁ任せろ!!

ーーおい、坊ちゃん死ぬんじゃねぇぞ!!」


(なんだ……僕も誰かのために出来たじゃないか……まぁ策略で死ぬのが早まっただけだろ……でも……)



「レイ君!! 死なないでお願いですから!! 私まだ何も言ってないのに……!!」


(会長のどんな顔も好きだけど……泣き顔は見たくないかな……)


と思いながら僕は意識を手放した。








「……ん」


その後、僕はベットで目を覚ました。


「あっ!! レイ君起きたんですか!?」


僕が起きたのに驚いた顔をしたのはベットの隣で座っていた会長だった。


「あ、あれ……会長?」


「はい、会長です!!」


「“会長です!!”って……何なんですかその返事は……」


その返事が面白くて、つい笑ってしまった。


「も、もう何ですか!? 心配しちゃいけないんですか!!」


「いえ、すみません……でも、クスッ……あの返事は無いですって……」


「意地悪なレン君は嫌いです。そんな副会長君は知らないです」


とそっぽを向いていじける会長。そんな態度を取っていると可愛すぎて余計にイジリたくなってしまうけど、これ以上はまずいだろう。


「すみません、調子に乗りました会長。今更ですけど心配してくれてありがとうございます」


「べ、別にいいんですよ。私は会長ですから。

ーーあっ、皆さん呼んできますから、少し待っててくださいね」


と言うと椅子から立ち、部屋の外に出た。

そうして部屋を出てから数秒も経たない内にアルを始めとする生徒会の面々がなだれ込んできた。


「坊ちゃん!! 大丈夫か!?」


……大きい声が起き覚めの身体には響くよ、アル。


「お兄ちゃん!! もう大丈夫!? 死なない!?」


そして小さい頃の呼び方に戻っているラウラ。

……これ絶対あとでチャスがからかってくるぞ?


「良かったねぇ~一時期はどうなるかって思ったけど、死んだら恨むところだったよ~」


誰を恨むつもりなんですかねチャスさん。


「……レイが無事で、安心」


いつも通りの対応のミラ。だが少し目がうるってしているのは気のせい?


「良かったわぁ……もう心配で心配で。

ーーでは、目を覚ました祝いに何か高級なお茶でも入れますね」


少し涙目のアリーヌ先輩。

……そして今回もどこからお茶の元を出してくるんですか先輩。


「というかみんな大げさだよ……少し寝てていただけだろ」


「何を言っているんだよ坊ちゃん、1日寝ていたんだぜ……?」


「1日中!?」


どうりで外の明るさが僕が最後にみた時とあまり変わらないわけだ。


「お兄ちゃんに魔法が直撃してから保健室に運ばれたんだけど……」


「……だから見覚えがあるわけだ、この天井。というかみんな授業は?」


「「サボった (です)」」


「何をしているのみんな!?」


アルやチャスは分かるけど、真面目な会長やラウラまでもが学校をサボっているなんて……。


「……皆、レイが心配で見張ってた。会長に至っては休憩も取らず、殆どその椅子から動いてない」


と言われ、僕が会長を見ると彼女は僕から目を逸らした。


「会長……何をしているんですか……生徒の模範になるべきの貴方が……」


「い、いや心配だったんですよ!? 同じ生徒会のメンバーが怪我したら心配なんですよ!!」


「はぁ……でも会長、アリーヌ先輩、チャス、ミラ、ラウラ、そしてアル

ーーみんな、心配してくれてありがとう」


と僕が言うとみんなは笑いながら


「「どういたしまして!!」」


「というかラウラってレイの事を“お兄ちゃん”って呼んでたんだな~」


「なぁっ!? しまった!!」


「もぅ昨日運ばれた時なんて何度もレイにすがりながら“お兄ちゃん、お兄ちゃん!?”って何度も言ってーー」


「余計な事言わないでくださいよ!?」


「もぅ~兄妹愛は尊いねぇ~」


「……コロす、この人コロして私も死ぬ!!」


「ちょっとラウラ落ち着いて!?」


「お兄ちゃんは黙ってて!!」


「だから呼び方戻ってるって!!」


と保健室は賑やかな声で溢れかえり……保健室の先生に叱られるのであった。





僕達は先生にひとしきり怒られたあと、保健室には僕と会長だけが残った。どうやらアル達が気を使ってくれたらしい。


「ところで会長」


「はい、なんでしょうか」


「アクセル・フォンの件は僕以外の人達は知ってんですね……」


「……そうですね、レイ君には秘密にしてしまってました。申し訳ございません」


「い、いいですって!! 頭を上げてくださいって!!

ーーそれに隠していたのって僕の事を思ってのことだったんですよね?」


「えぇ……アクセル・フォンという人物は何故かレイ君を物凄く敵視していたのが分かっていたので、出来るだけ貴方には生徒会室に来ないようにしようとしていたのですが何故か貴方は生徒会室に来なくなったのである意味助かりました……ってなんで目を逸らすんですかレイ君?」


「……」


すみません、会長。会長達に嫌われるのが見たくなかったのであえて遠ざけてました。


「……不思議なレイ君ですね。まぁでも今回のことでアクセル・フォンを始めとする何人かを捕まえることが出来たので色々と分かってきました。どうやらアクセルはとある貴族の死んだはずの子息みたいで、今回彼と一緒に襲おうとしていた連中は隣国の工作員でした」


「……目的はこの国の技術ですかね」


「そうです。この学園はそれなりに魔法の技術が揃いますからね。それに重役の子息が沢山在籍してますから……私やレイ君も生徒会の皆さんも。ですけど、これで解決しましたからレイ君も生徒会室にいつでも来てくださいね」


「そうですね……はぁ」


「どうしましたか?」


「いえ、今回の件で改めて僕の能力不足を実感しまして……」


「レン君……」


「僕に実力があれば皆さんに心配されなかったですし……会長を庇った時も大した能力無いくせに調子乗っちゃって……最終的に皆さんに心配かけてしまって……」


かっこよく会長を助けようとしたのに自分は魔法が直撃して壁にたたきつけられて気絶するという大失態を会長の前で晒したのだから今すぐ死にたい……!!


「それは違いますよレイ君」


「会長……?」


「確かにレイ君は魔法の能力はあまり高くありませんね」


「うっ……」


分かっているけど憧れの会長に言われると落ち込む。

この人は地味にS気があるんだよな……。

それでも会長は優しく微笑みながら


「ーーそれでも貴方はそんな自分の身を顧みず私を庇ってくれました、それはとても勇気が必要なことです。私なら少し躊躇ってしまうかもしれません。でも貴方は躊躇わず行動しましたよね、それはとても素晴らしいことだと思います」


「会長……ありがとうございます」


「いいですよ、私は会長ですからね。でもねレイ君

ーー次はしてはいけませんよ? 流石に私でも怒りますからね……?」


「はい……以後気を付けます」


「よろしい。

ーーでもレイ君、1つ気になることがあるんですよ」


「なんですか?」


「私達がレイ君を生徒会に近づけないようにしようとしていたのに、貴方はあえて私達を遠ざけていましたね? その理由が私には分かりませんので教えてくださいませんか?」


「あぁ……それはですね……」


言えない……皆に嫌われたくないからなんて……会長には特に言えない。


「教えてもらえませんか、レイ君?」


「……言わなきゃダメですか?」


「教えていただきたいですね、今回の件でそれだけが不明なんです」


「はぁ……言っても笑わないでくださいね?」


「えぇ、笑いません

ーーでは、どうぞ」


僕は、はぁ……とため息をつきながら、口を開いた。


「皆さんに嫌われたくなかったからです」


「嫌う? 私達が? 何故?」


「例の彼が皆さんと一緒にいるのを見て、自分自身が嫌になってしまって……改めて自分の能力の低さ……」


「レイ君……」


「笑ってくださいよ、会長。自分の能力の低さを棚に上げておいて会長とアクセルが一緒にいるのを見て嫌だから逃げていた……あっ」


と言っておいて僕はとんでもない事を言ってしまったことに気づいた。会長を見るときょとんとしていたのだが徐々に顔が赤くなっていった。


「れ、レイ君……? 今のはどういう意味ですか……?」


「あっ、い、いや……その……えぇ~と」


「レイ君!!」


「あっ、はい!!」


「今の発言はどういう意味ですか……?」


「その……」


「誤魔化さないでください……私はレイ君、貴方の本心が知りたい、です」


会長の赤くなった顔を見ているとここまで言われたら言うしかなくなる。


「僕は……好きなんです……会長、フローレンス・ライシング、貴方の事が……」


「はぅ……」


僕が会長に告白すると会長の顔がポンッ、と音がなるのではと思うぐらい赤くなった。


「僕は貴方の事が好きなんですよ……会長としてじゃなくて1人の女性として……」


……そういう僕の顔もそれに負けないぐらい赤いだろう。


「うぅ……レイ君って意外という時は言うのですね……」


「す、すみません……」


「はぁ……レイ君って本当に私をドキドキさせますよね」


「はい……?」


「だってレイ君は年々かっこよくなっていくじゃないですか……お姉ちゃんぶろうとしても貴方を見るだけでお姉さんじゃなくて1人の女の子になっちゃんですよ……かっこ悪いですよね」


……あれ、こんなに照れている会長の顔見た事ないぞ?

というかこの態度はまさか……?


「か、会長……も、もしかして……」


「そうです、私もレイ・ハーストン、貴方の事が好きです。レイ君はいつも私が困っているのを助けてくれましたよね? 私が人に頼るの苦手なのを知っていて、いつもさりげなく私のフォローに回ってくれて倒れないように助けてくれましたね。みんなが私を優秀な生徒会長であることを当然としていく中でレイ君は励ましたり褒めてくれましたね? その行為でどれだけ私が救われたか……貴方は知らないのでしょうね」


とはにかみながら言ってくる会長。


「会長……僕は……フローレンス・ライシング、貴方の事が好きです

ーー僕と付き合ってください」


「私も、レイ・ハーストン、貴方の事が好きです

ーー私と付き合ってもらえませんか?」


「僕でよければ」


「私なんかでよければレイ君の彼女にしてください」


と言いながら僕に抱き着いてきた会長。嬉しくて僕も会長を抱き返す。



これから僕は彼女の隣に立つのに相応しい男になるようにもっと頑張ろう。これから僕には色々と起きるだろう……なんせ悪役だし。それでも僕には僕を信頼してくれる親友、僕を好きだと言ってくれる彼女、僕を助けてくれる生徒会のみんながいる。それだけで十分だし、それ以上に望むことがあるだろうか?


今回の件は自分の不甲斐無さを身に染みて感じたのと同時に、自分がいかに恵まれている環境に置かれているのかを感じた。今日の事があれば僕は頑張っていける。どんなに大きな壁に当たっても今日の事を思い出せば頑張っていける気がする。



だって……


「ねぇレイ君」


「はい、なんですか会長」


「私とっても幸せなんです

ーーレイ君はどうですか?」


「会長、僕も幸せですよ」


だってとっても幸せなんだから。




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アルト視点




「ふぅ……ようやくくっついたか……全くひやひやさせるぜ坊ちゃん」


と俺は保健室で抱き合っているのを確認したあと、視力を強化する魔法を解除して、屋根から飛び降りた。

……あぁ、本当に今日は疲れた、坊ちゃんに嫌われたと思った瞬間は目の前が真っ暗になりかけたが坊ちゃんの本心を聞いた瞬間、一気にやる気を取り戻しガラスを割って中に入った。


「でもまさかな……

ーーが付き合うなんてなぁ」


実は俺は坊ちゃんと同じようにこのゲームの世界に転生してきた1人だ。

まぁ坊ちゃんには聞いてないので本当かどうか分からないが、坊ちゃんも転生組だろうと思う。


「いやあれはバレるって坊ちゃん……だって性格、設定と違いすぎるっての」


レイ・ハーストンという人物は傲慢不遜を絵にかいたようなクズで、常に人を見下している性格の設定のはずなのに、俺が実際に見たレイ・ハーストンという人物はあまりにもかけ離れていた。



ーー傲慢不遜な性格で人を見下す?

どこがと言いたくなるぐらい臆病で自分に自信がない。本人は嫌われていると勘違いしているが坊ちゃんに話しかける役割を誰が担うかで学生間の間で奪い合いになるぐらい、学生たちからは信頼されている。

そして生徒会の面々からはかなり好かれており、坊ちゃんがいない時の生徒会室では会長を含む5人は今日は誰が坊ちゃんと仕事をするかでバチバチしている。

……まぁ坊ちゃんが関わらなければ5人は仲が良いんだが。



ーー能力が大して高くない?

生徒会のメンツの能力がおかしいだけで、坊ちゃん自身は平均以上の能力を持っている。2年生で副会長を務めているのは伊達じゃない。しかもあの時火球が直撃したのにもかかわらずわずか1日で目を覚ました。それは明らかに普通ではない。そして火球が放たれた際に本来なら彼がいた箇所から会長がいた場所までは到底あの短時間じゃ移動できないはずなのに坊ちゃんは移動して、会長を庇った。



ーー最後は父親の謀略に使われて死ぬ?

今回の件で、怪我をしたと聞いた瞬間、坊ちゃんの父親は公務を放り投げて学園に走ってきた。情報によると坊ちゃんが小さいころさり気なく渡した父親を書いた絵を見た瞬間、父親が息子を溺愛し始めたらしい。そして父親だけではなく母親からも溺愛されている。実の妹のラウラからはとんでもないぐらい尊敬されている。



よほどの事が無い限り、自分がどういう環境に置かれているのか分かるはずなのに坊ちゃんはこういうところは自己申告通り本当に鈍感だ。


“お前はギャルゲーの鈍感主人公かっ!?”と思いたくなるぐらい鈍感で、能力があるくせに自分の能力を卑下して落ち込む。


それでも坊ちゃんは馬鹿みたいに真っすぐで、こっちが心配になるぐらいお人好しで、一緒にいて本当に楽しいし飽きないのだ。


「まぁ俺も坊ちゃんのファンだからな」


俺も転生した際に自分の能力の高さを使って暴れた。だが暴れすぎて学園内での危ない連中に目をつけらて一時は命の危機を感じたが坊ちゃんが俺を助けてくれた。それから俺は坊ちゃんの味方でいようと決めた。それ以降呼び捨てだった呼び方を、俺は敬意をこめて坊ちゃんと呼ぶようにした。

……まぁ呼び方を変えたのはなんか違っている気がするがまぁ気にしない。


もしかしたら俺は坊ちゃんがいなければアクセルの立場になっていったかもしれない。そいつの姿を見た瞬間、ふとそんな考えが頭がよぎった。


「坊ちゃんは分からないかもしれねぇけどさ、アンタは凄い事しているんだよ。

ーーなんせシナリオを書き換えたんだから」


坊ちゃんは自分が死にたくないからという理由で始めたのかもしれないが、その行動は面白いぐらいに予想外の結果を生み、そして坊ちゃんを取り巻く環境を作った。


「本来のシナリオじゃありえないハッピーエンドをお前は自分の手で作り上げたんだ」


本来バットエンド一直線だったのに、もがきながらもあいつは自分の手でバットエンドをひっくり返した上で、ハッピーエンドを引き寄せた。そんな事簡単に出来ることではない。

……そんなあいつを俺は心から尊敬する。


「レイ・ハーストンに転生した誰か、俺は最後までお前の味方でいるぜ。あんたからもらった恩に報いるために俺は全力であんたの力を尽くすと誓おう」


と俺は坊ちゃんがいる方に拳を向け、そう誓うのであった。

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ギャルゲーの悪人キャラに転生してしまったんだがどうすればいい? きりんのつばさ @53kirintubasa

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