十万文字の言霊に向き合うということ

 なんとなく久しぶりにこのエッセイを更新しようと思い立つ。

 全削除で無かったことにしても良かったし、いわゆる作品投稿だけを中心にこっちは放置でもよかったのだけれど、そうは言っても過去の自分が紡いだここの文字達に対して失礼な気がして続きを書いてみた。



 仕事も鬱陶しい程に残業が続き、何をするにしても平日の余暇と呼べるだけの時間が得られなくなり、苦悩と苦悶の日々を過ごしつつも新作を書き上げた。

 長編はだいたい一篇あたり十万文字を越えて11~12万文字というところ。

 正直に申し上げて執筆は楽しい作業じゃないし、得る物が目に見えないという意味で充実した趣味とは言えない。


 私の場合は、たいていがある『取っ掛かり』を起点に、そこからじっくりと掘り下げて物語を構築することが多い。

 神話や仏教が好きなら、そこから着想を得て。

 夢で見た不思議な物語をそのままプロットに落としたりもする。


 それ以外は、日常で出会った少し可笑しな出来事を発端として。

 もしくは好きなミュージシャンの楽曲から妄想を膨らませたり。

 語呂や言葉遊びが好きなので、そういう部分を広げていったり。


 それにしてもそこから十万文字を越える物語を一篇仕立てなさいって言われたら、それは大変な労力だ。お題系の自主企画でもせいぜいが短編で完結といったところだろう。にもかかわらず、それを長編に仕立てよというのは、あまりに無茶振りであるし、当然ながら創作の苦悩は尽きる事が無い。

 帰宅して、いざパソコンの新作下書きデータを開いて、続きを書こうと意気込むものの、全く一文字も進まずにYouTubeでダラダラと動画を観聴きしてたらタイムアウト。もう寝ないと明日の仕事に障るという時間になっている。そんな平日の繰り返しだった。


 そうやって生まれてきた十万文字を越える子達は、その時の自分が内包する苦悩、怒り、悲しみ、楽しみ、嬉しさ、季節や時間や自然など目で見て耳で聞いて肌に感じたあらゆる想いを文字に乗せている。



 私は自分の作品が決してラノベほど軽いものではないと自覚している。

 でも純文学は読んだことがないので、そんなに重厚ではないとも思っている。

 だからライト文芸はちょうどいい塩梅の言葉だと思っていたが、いつも下読みをしてくれる旅仲間の友人達はそうは思わないみたいだ。

 友人達はこう言った。

 題して「(ペンネームから由来して)じゅん文学」であると。


・作者本人の内面を如実に表す作品が多々ある

・たまに神視点で読者を説教する

・基本はハッピーエンドだけどテーマは重い


 それを聞いた時に、あぁなるほどって膝を叩いた。

 確かに私の作風はどのカテゴライズもされない「じゅん文学」だ。


 お手軽な作風で流行に乗ってる訳でも無い。

 かといってしっかりと純文学やライト文芸を語るだけの読書量や考察といった土台がある訳でも無い。

 何となく自分で感じたものをそのままインプットして、それを小説としてアウトプットした時に生まれるのが私の「じゅん文学」なのだな、と合点がいった。

 中学生や高校生の時は夢中になってラノベを読んだし、吉川英治や横溝正史、あとは西村京太郎みたいな作品も読んだりもしたが、それも二十年以上前の話。

 それ以降は小説というものを読んだことも書いた事もなかった。


 これは私という個人の人生が積み上げてきた価値観や経験を文字に自然に委ねるという作業の顛末である。

 加えて私は昔から内向的で恥ずかしがり屋のくせに、ごく近しい友人達には内弁慶でお調子者で、学校の教員やバイト先のクセモノの社員や先輩のモノマネを披露しては笑いを取っていたので、ある意味いま執筆をしているというのも『過去に自分が読んだ作家や親しんだ作品の文字をモノマネとしてアウトプットしている』という作業に近いのかもしれない。だから私にとっては執筆もモノマネも同類項なのだ。

 

 だから執筆でヒットされた大御所の先生や、カクヨムで星やハートを乱獲する流行の皆様も羨ましくもあるが、それは自分の作風にはあまり関係ないことだ。

 言い換えれば僕は地下芸人のモノマネだもんね。

 そこに投げ銭してくれる皆様にはむしろ感謝しかないと思うし、本来ならどこかの公募にでも出してアッサリKOとかいう事でなくリアルな読者の反響を得られるという意味ではカクヨムという場を提供されている事はありがたい限りだと思う。

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