地の文問題再び ~三人称ラノベ、一人称純文学

 カクヨムでカクという行為も執筆を続けるという点では大切だが、それより何より「新作を書かねば単なる趣味の人になってしまう!」と、最近は新作の執筆を優先させている。それはそれで流行りに絞った作品が爆誕したらここから書籍化ということもあるのだろうが、如何せん私にはそういう器量は持ち合わせていないらしく、自分の趣味嗜好や矜持を捻じ曲げてまで長文タイトルだのテンプレ作品だのは書けない。

 いわば『異世界ブラック求人』や『百合くのいち』は敢えて流行を茶化したお遊びでもあり、それ専門にシフトするつもりもない。

 それに公募のひりつくような感覚と手に汗握る緊張感は得難いもの。



 さて、唐突ながら今回の本題。

 地の文をどうするかで、私は基本的に三人称を使用している。

 いまお試しで一人称のものも執筆しているが、これがまぁ大変だったらない。

 私の作風との相性もあるのだろうが、地の文一人称をカクヨムの短編に限っていたのは、視点の主である登場人物以外は知り得ないことは本文に書けない。この縛りが私にとっては随分な苦労なのだ。


 場面の説明をする上で、主人公が目で捉えたもの、耳で聞いたもの、肌で触れて鼻で匂って舌で味わったものを地の文で語らせることはできる。

 でも相手の機微を説明することはできない。

 内心苦笑したり、呆れたり若干の腹を立てたり訝しんでいる相手が愛想笑いをしてきた時に「なんだか反応が薄くて俺は違う事を言ってしまったか?」と感じる=そう思った主人公側の心を説明はできる。

 でも相手の事は書けない。例えば大河ドラマであるような「一方、その頃」だなんて主人公が居もしない場面のことは尚更書けない。

 結果として主人公を中心とした自分語りの話を中心にせざるを得ないんだろう。

 そこを違和感無く、巧みに持ってくのが既にデビューされたプロである先生方の技量なんだろうな。それは私も日々書きながら勉強といったところだ。



 あとこの辺は純文学かラノベか、もしくはライト文芸か、と言った話題に繋がるのかもしれないが。


 私は地の文を三人称にして表現をしているぶん登場人物たちのセリフは極力、簡単なものを選んでいる。

 実際の私生活で小難しい単語やまわりくどい説明調の言葉を使って喋る人はほぼ居ない。だから登場人物のセリフも単純であるべきだと考えているからだ。

 そこにキャラ達の性格や志向「俺」「僕」「わたし」「あたし」「わたくし」、「だぜ」「なのよ」「ですわよ」と言った一人称、語尾をビミョーに変化させることでキャラを描き分けている。

――つもりだ。

 なので、その対比として地の文が三人称だと説明もしやすいし、物語の進行もスムーズなのよ、私の場合だと。この辺は理屈じゃない。私の感覚です。


 例えば一人称地の文の場合、「」のセリフがあるうえに前後にも視点主の述懐という体裁で地の文が挟まる。

 そこもラフな喋り言葉にしてしまうと、全体的に軽い文章になってしまう。

 かと言って、高尚な文章にすると、自分の回想や回顧でこんな話し言葉使ったことねぇよ、という違和感で困ってしまう。



「なんだってんだよ、この暑さは……ちくしょう」

 俺は眩い陽光に目を細めながら忌々しく太陽を睨んだ。

 けたたましい蝉の鳴き声が盛夏の不快な気分を増長させる。

 揺らめくコンクリートと逃げ場のない陽射しの下を俺はうんざりしながら歩いた。

 さっさと夏なんか終わればいい。

 今にして思うとそんな身勝手な自分の気持ちに嫌気がさしてくる。

 知らぬ間に夜の静寂に虫の声が響くと、盛んに夏を謳歌する生物達に遠慮するかのように秋はひっそりと訪れていた。

 一緒に汗を流した俺の幼馴染、優奈はなんて言うのだろう。

 俺が早く過ぎ去れと祈っていた夏が終わると、あいつも俺の前から姿を消したのだから。それは突然の事故の報らせと共に――。



 いや、こんな文章、十何万文字も書けんわ!

 芝居じみた言葉を滔々と語る一人称の俺氏、凄いよ。尊敬するね。

 オマケにやってみるとやっぱり「」と地の文の対比を作るのが難しい。

 同じ人物が喋っているのだから当然と言えば当然だが、そこにあまり私自身は納得してない。なんつーかグラデーションっていうんですか? 物語の進行や風景の濃淡が出にくいなって気がするんですけどもね。どうなんざましょ。


 ではいま流行りの一人称のテンプレ地の文のサンプルを――と思ったが、もうそれは真似する根性すら無かった。


 ま、結論から言うと私の語彙力の少なさ、表現力の狭さが問題だと思うんですわ。

 加えて純文学もテンプレラノベも自分には書けねぇなぁ~とハナから諦めてたりもするからね。


 旅の恥は搔き捨てというが自分の作品である以上、執筆は書き捨てとはできない。

 だもんで、けっきょく私はラノベにも純文学にもなれない、かと言ってライト文芸とも言い切れない中途半端な困った物書きなのだ。

 

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