ウィスキーがお好きでしょ?

 酒を全く飲まない方からしたら「どういうことだ」と思われるかもしれないが、私は一日の癒しに晩酌を求める。

 平日は残業だの明日への体調管理を含めて5百ミリリットル缶ビール換算で2本弱くらい――いや、それでも多いわ!と思われるだろうが――飲んでおしまい。


 でも休暇である土日は少しばかり飲んでしまうんだなぁ。

 もはやこれは酒好きで家系的に酒に強いという宿命、因果、カルマと言わざるを得ないのでしょう。

 日曜はいくらか酒量を抑えるが、土曜は翌日も休みだから二日酔いで出勤の心配も無いし、気晴らしも兼ねてたくさん飲んでしまう。

 このエッセイもそうして書いている。


 それでもまだ酒に強くなかった二十代の前半の頃は、ウィスキーをコーラでひどく薄めて飲んでも気持ちよくなってしまうと言う始末だった。

 それがいつの間にやらエライ量を飲むようになってしまったのだから、慣れというのは恐ろしい。


 

 バイトなり初就職なりで、そこそこ小遣いを稼ぐようになると調子に乗っていい酒を飲もうと酒屋に繰り出した。

 当時は舶来品で歩くジョニーさんやワイルドな七面鳥を炭酸やコーラで割ったのが大好きだった。つまり背伸びした小僧だったわけよね。


 やがて二十代~三十路に差し掛かると、会社の夏休みや退職時の気晴らしに日本中を旅するようになった。

 そこで気づいたのは、大学のお遊びサークルで無駄に学んだ日本中の旅行と、私の経済学部という学徒としての基本理念だ。

 つまり「都市部の人間は地方に行ってお金を遣えば景気とお金が循環する」ということだったのよね。

 地方創生と日本景気の循環には、まず過疎地の強靭化が欠かせない。

 そう錯覚していた私は、敢えて夏休みも地方に行って遠方の旅行を楽しんだ。

 地産地消もさることながら、地方企業の製品を応援することで地方から活況を得ることができる、そう信じて疑わなかった私は(失礼ながら)日本中の過疎って僻地な街でお金を遣った。

 


 そして三十代も半ば。

 日本回帰への想いを強くした私は「国産品しか勝たん」とウィスキーも日本酒もなんでも国産のメーカーを応援するようになった。

 だもんでウィスキーを炭酸水で割るハイボールも国産ウィスキーで飲んでいた。

 それも出来れば、大手酒造メーカー4社やその系列メーカーではない、国内の小さなメーカーを応援せねばならない、とわざわざ選り好んでいたんだわね。


 しかし、どうだろうか。

 単に歳を取って酒に弱くなったという訳では無い。

 国産品のウィスキーを飲むとどうにも具合が悪い。

 土曜の晩だから良いものの、自宅飲みで二日酔いという情けない状況が続く。


 そこで知ったのは、単に国産ウィスキーが良くなかったというだけだった。

 当時飲んでいた、地方の某酒蔵が悪いという訳ではない。


 日本のウィスキーはモルト原酒とグレーン原酒をブレンドした物が多い。

 加えてさらにそこにアルコール添加する場合もある。

 焼酎の甲乙類ブレンドみたいなものだ。

 口あたりは遥かにマイルドになるが、そのぶん酒としての武器や暴力性でもあるアルコールという性質が薄らぎ、悪酔いしやすい。

 おまけに私はそのモルト・グレーンブレンドが口に合わなかった。

「国産ウィスキーってこんなもんなのかぁ」とガッカリした私はそれから徐々に大手メーカー品も地方の中小酒蔵のウィスキーも敬遠していく。



 やがてアラフォーになった私。

 この頃から執筆を初めて、自身の作品にモチーフでお借りした地方が「聖地化」して、夏休みの旅行も彩りを増していくが、国産で充分なのは日本酒くらいになった。

 いくらかは歳を経て舌が肥えたのか、日本のマーケットが消費者を置き去りにしているという先述の現状のせいか、製造や原料から厳格に法律で規制されたアメリカやイギリス、カナダなどのウィスキーがやっぱり美味しいに決まっていた。


 企業努力と言えば素晴らしいが、第三のビールなど一部製品で到底飲めたものではない代物が蔓延る日本の酒の未来は暗い。

 日本の酒税法は、国内のマーケットを腐らせる。

 それだけではない。世界の信用すら失いかねない。


 税は然るべきところから取るのは、やむない事だと思う。

 欧米とかの国なら消費税が25%とか普通にあるからね。

 でも輸出入で勝負する世界的なマーケットで、対外的に「悪かろう安かろう(でもメイドインジャパンだから決して安くも無い)」なんてものは勝てるわけがない。


 しかし、日本の政治家も官僚もぜんぜん世界を見ていない。

 如何に国民から搾取して、自分達が潤うかを考えることに躍起になっている。

 そしてマスコミが垂れ流すニュースは、どこの国だか大陸に向けているのだか知れないが、自国を貶めて政府や欧米を批判するものばかり。


 ワイルドな七面鳥や歩くジョニーさんが美味くて強い理由は自明の理ということだと知ったのは、この国に酒税を納め続けて20年もかかってしまった。

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