集え、カクヨムビートルズマニア

 今から十五年くらい前だろうか。


 ビートルズのコピーバンドが演奏する六本木のバーに夜な夜な徘徊していた。

 そこは当然ながら一見さんはお邪魔しにくい所なので。

 私は最初、知り合いであった職場の先輩に連れられて行った。


 やはりと言うべきか、猛者の集まるバーである。

 単にコレクターやマニアとしてビートルズメンバーと同じメーカーで同じ型の楽器を購入して満足するのではなく、実際にコピーして演奏しちゃうというファンの人は多くいた。


 そこでは当然のごとくマニア先輩から後輩への知識マウントが話題になる。

「A Day In The Life」の4分50秒あたりで木の軋む音(ピアノの椅子の音)が入っているとか。

「Hey Jude」のレコーディングの最中にリンゴがトイレに行ってたら曲が始まってて、慌てて着席して間に合ったとか。

 その辺はマニアとしては基本知識ですと言わんばかりに、私はマウントビートルズ先輩達を軽くいなした。



 議論になったのが彼らのファーストアルバム「Please Please Me」に収録されている「Twist And Shout」のことだ。

 仔細をお伝えする前に、実際に曲をお聞きいただきたい。


 曲のラスト、不可解な音が入っている。

 ちょうど2分28秒あたり、ラストのコードが鳴り響く。

「hey!」とオフマイクでシャウトしているのは、たぶんポール。

 それとは別にカサッとか、シャアッという音だ。


 これを会社の先輩や店に居た人は「リンゴのハイハットシンバル(を閉じた時)の音」だと言う。

 私は賛同しかねた。


 というのも同曲のように、リンゴがハイハットではなくトップシンバルでリズムキープをする時はたいてい、二拍四拍のオモテでスネアと同時に左足でハイハットのリズムを刻む。

 これは膨大な彼らの演奏シーンから容易に推察できる。

 だから、ハイハットでリズムキープをする曲とは異なり、リンゴはハイハットを常に「閉じた」状態だったはずだ。

 足が不意に動いてしまったのだろうか。

 最後だけ開いたハイハットを閉じた、というのは私には理解しかねる。



 私の推理は「ジョンののど飴フガ説」である。


 同アルバムは一日でレコーディングを終えた。10時から22時まで。

 一日に何曲も何テイクも歌っていく。

 しかも当の「Twist And Shout」はまさに叫ぶような歌である。

 ボーカルを担当するジョン含むビートルズはこの曲をレコーディングの最後に、そして彼はのど飴を舐めながら2テイクだけ録ったそうだ。


 だから、思わずのど飴を口に含んだ状態で呼吸をしてしまい、マイクが拾い、それが例の「フガ音」になってしまったのではないか、と考えている。

 

 今のところ正解は知れない。

 だが、私は今でも「のど飴フガ説」を信じている。

 そう聞こうと思うと、そうにしか聞こえないから不思議だ。



 そんな中、未だ解決しない謎もある。

 シングル曲「I Feel Fine」の冒頭7秒目、左チャンネルの雑音だ。


 これもリンゴのハイハット説を支持している人が多いが、私には「quiet!」って囁き声に聞こえるのだ。

 オープニングのギターのフィードバックを誰かが「そろそろ!」って止めさせてイントロに入ったのかな?ってずっと思ってるんだけど、分かる人いますかね?



 しかし、実際は私の耳も意外とポンコツであるから自信はない。

 ポールのソロバンド「Wings」が出したライブアルバムの「bluebird」という曲。 間奏のサックスソロをするサポートメンバー「ハウィー・ケイシー」の紹介を「I'll kiss(キスをしよう)」って聞こえてしまうやつだから。 



 

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