ベタに、執筆を始めた理由

 タイトルからして、「今宵も月と―」なのに、更新の日は月が出ていない。

 関東地方某所、ただいま小雨。

 構わない。その程度で騒いでいたら、いい歳したワナビではいられない。


 さて。自己紹介がてら、最初はベタに執筆を始めた理由を書く。

 以前も近況ノートで似たような事を書いたが、もう少し仔細を交える。



 そもそも、私は大学生を終える頃にはライトノベルを読まなくなった。

 社会人になると、テレビゲームも漫画も卒業してしまった。

 かと言って高尚な一般文芸を読んでいた訳でもない。

 ただ、そのままに時間だけが流れていた。


 きっかけは今から十数年前であろうか。

 ある夢を見た事から始まる。

 それは夢にしてはリアルで、でも現実感のないファンタジー世界で、私は起床しても妙に鮮明に憶えていた。


 街はニューヨークのスラム街のような、赤茶けたブロック建造物の世界。

「神の鳥の巫女」がピアノを弾くと「空を駆ける舟」が飛び上がる。

 対する「月の神殿の女神」勢は、その鳥の巫女のピアノを貰い受けようと、全軍を上げて襲い掛かる。

 隠された舟を求めて鳥の巫女が出会ったのはジョセフィーヌ、その人。

 金髪ドレッドヘアーの黒人系フランス人ホームレスのジョセフィーヌは、鳥の巫女に渡す舟の鍵を持つ守り人であった。

 やがて、鳥の巫女はなぜか多摩川(でもセーヌ川みたいな澱んだ綺麗じゃない河)

に沈んだ舟を復活させる。

 そして最後には月の神殿の女神も、アンジェリークのライバルツインテ縦ロールよろしく、鳥の巫女の補佐となって世界の安寧のために働くふたり――。


 その光景は決して忘れる事無く、他愛ない夢の世界とは言え、十年近く経っても色褪せずに記憶されていた。

 起床してすぐに当時の無料掲示板の日記にメモしておいたというのもある。



 それから十余年。

 旅行で京都のとある奥座敷の静謐な神社を詣でた時に、私は唖然とした。

 鳥の巫女が乗る舟に、そっくりなものが鎮座しているではないか。


 そこから、一気に妄想は膨らむ。

 そして、旅についてきてくれた友人に言い放った。

「この夢をモチーフに小説を書いてみるわ」


 もちろん、それまでに執筆などしたことはない。

 まさに、アラフォーの手習い。

 でも、オッサンオバサンは、社会で揉まれてたくさんの報告書や始末書や経緯書を書くのだよ。

 日本語の語彙力だけなら、負けまい――。

 その一念だけで何の勝算も無く、執筆を始めたのだったとさ。



 そうやって出来上がった作品をどうしようか悩んでいた。

 せっかくならTOEICや漢字検定のように、対外的に採点して貰って成績を付けて欲しいものだ。

 ならば、ということで無謀にも新人賞に応募することにした。


 そして作品のモチーフが最終的に京都になったのなら、あそこに応募しよう。

 京都アニメーションさんに応募するしかない。

 京アニさんなら、京都モチーフの作品をシビアに採点してくれるだろう。

 その程度の軽い考えで、この一作こっきりで私の執筆は終えるはずだった。



 そして2019年7月18日。私のウン十ウン回目の誕生日。

 あの事件が起きた。


 作品は宙ぶらりん。もはや選考がどうこう言える状況でもなく、ただ事件の進展に気を揉む毎日。そして創作というものを軽んじて凶行に走った犯人に対して、激しく憤った――そして賞は中止となった。



 さらに、悪い事は続くもんだ。

 その年の十月、母が亡くなった。


 なんとなしに生きる活力を失ったような気がして、ぼんやりとしていたが、せっかくの作品だからと、他賞に応募して終わりにするつもりだった。

 これで、当然のように一次選考落選して「いやー、思いつきとは言え、厳しい世界だわね」で終わるだろう、と。

 私の執筆人生は、お試しの一作で終わりになるはずだった。


 だが、げに不思議なり世の中よ。

 それが一次選考に通ってしまったから、困ったもんだ。

 結果として二次は落ちたけど。

 でも、処女作としては健闘したので、友人らと祝杯を上げた。

 意気揚々としていた私は勇んで次作に取り掛かることになった。



 そして今に至る。

 こうして今も次回の公募作を必死に書いているが、決して楽な趣味じゃない。

 時間の制約もあるし、肩も腰も痛くなるし、目も霞む。

 仕事に支障のないように、でも趣味とのバランス、なにより睡眠時間の確保という悩ましい問題もある。


 でも、楽しいからいいじゃないのさ。

 みなさんだって楽しかろう。私も書いてて楽しい。

 仕上がった作品を読み返したら、苦労も報われるし、嬉しさもひとしおだ。

 だから、今日も文字を紡ぐ。

 登場人物である彼ら彼女らが懸命に頑張る様を描き切るために。

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