第6話 全然信じてくれない

「院西さん、何をしていらっしゃるでござるか?」


おっと、あまりの出来事に俺も同様していたのだろう、いつの時代だよって言う語尾になってしまった。予想以上に動揺している俺に反して彼女は何も問題が無いと言ったように平然としている。周囲のクラスメイト達が目に入っていないのだろうか?


「何をってその美味しそうな卵焼きをあなたが独り占めするのはズルいと思ったから私が食べたまでよ。それよりも、これは本当に美味しいわ。明日からこのお弁当を食べたいからどこで売られているものか教えて頂戴。早速、放課後に買いに行ってくるわ。」


いや、そこじゃないでしょ。俺が聞いているのは何故、素直に頂戴と言わずに俺の箸から食べたのかということでしょうが。これじゃ、俺があ~んってしたみたいじゃないか、実際には勝手に食われたと言った方が正しいかもしれないけど。


「いやいや、さっきいらないって言ってたじゃないか。何故に食べた。」


「それで、どこでこれは売っているの?今日はそのお店のお弁当を買い占めるわよ。こんなに美味しいんだもの、間島君にはもったいないわ。明日からは私が買い占めるから間島君は買えなくなるかもしれないけど。」


聞いていない、この目の前の人間は俺の言うことを全く聞いていない。すでに頭は店頭に並んでいるお弁当に夢中だ。


というか弁当を買い占めて明日からは買えなくするってどんだけ食べるつもりなんだよ。普通、そんなことを言われればそこで弁当を買っている人間は教えるはずがないだろ。明日からの弁当が無くなるんだから。


どうやら彼女は俺がどこかで売られている弁当を自分の弁当箱に詰め替えるといったことを行っていると考えているようだがこれは非売品だ。なんせ、俺が仕込みから調理まですべてやっているこだわり弁当だからな。くっくっくっ、院西知佳、残念だったな。


「悪いけどこれは非売品だ。世界中どこを探そうがこの弁当を売っている店はない。」


「あら、教えないつもり?いいわ、あなたがその気ならこちらは持てるすべての力を使って秘密を暴いてあげる。明日が楽しみね。」


俺が本当のことを言っても彼女は信じていないようだ。こうして、未だにカオスな雰囲気の中、本日の昼食は終わりを告げるのであった。

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