④復活の時

 地震の揺れの激しさは少し落ち着いたが、揺れそのものは収まる気配が見えない。

 これほど長い地震は経験したことがなかった。あまりの長さに焦燥が募っていく。


「一体、いつ収まるんだ」


 そうぼやいた信介に、実隆が提案する。


「もう収まらないのかもしれない。確かなことは言えないが、今が一番落ち着いているタイミングのように思える。

 もう、できるだけ先へ進んだ方がいいんじゃないだろうか」


 実隆自身にも確信や自信があるわけではなさそうだったが、安全策やセオリーを重視する彼の言葉にはそれだけの重みがあった。

 迷いながらも信介は決断する。


「やむを得ん。進もう」


 揺れは続いている。悪路どころか、未開拓の道ともいえない場所を進まなければならない。さらに怪我人である実隆を連れている。

 そうした状況を加味して、あらゆる不測の事態に対応できるように、慎重に、かつ余裕を持ったうえで、先へ進まなければならない。信介は周囲をよく見て、ゆっくりと確実に歩いていく。


「お前の見た未来はこの地震から始まるのか? 丹沢が崩壊するんだったか」


 道を探りながらも、信介が実隆に尋ねる。


「はっきりしたことはわからない。どれだけ先のことか、よくわからないんだ。

 だけど、起きることははっきりわかるんだよ。それにこの地震には嫌な予感がする」


 実隆の言葉は曖昧なものだったが、なぜか信介にはそれに同調するものを感じた。それは信介自身ではなく、信介の中にいる――実隆の右目を抉った蟲と同種の――ものによってもたらされた感覚なのだろうか。

 そして、その嫌な予感は泰彦の語っていた邪神が復活する時が近づいていることを指すのだろうか。

 考えても答えは出ないが、不吉な予感は募り続ける。


 どれだけ進んだだろうか。どれだけ時間が経っただろうか。太陽も沈み始め、夕方に近い時間になっていた。

 地震はまだ収まらず、その揺れにもどこか慣れてしまっている。


 とはいえ、彼らの目的地である登山道との合流地点のすぐ近くまで来ていた。

 散々遠回りしてしまったが、今朝出発した時から目指していた場所でもある。祠を経由してその地点へと進む予定だったが、地底空洞まで落ち、出口を探し、ようやく来ることができたのだ。


 ――テケリ・リ


 奇怪な音が響いた。もぞもぞとした音とともに高速で信介たちを追ってくるものがいる。

 彼らを地の底に落とした不定形の怪物、ショゴスだ。


「なんだぁ!? 逃げるぞ!」


 信介は実隆の腕を引っぱって駆け出す。それでも、ショゴスの動きの方が速い。追いつかれるのも時間の問題と思えた。

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