②象人間VS信介
チャウグナー=フォーン――象人間の存在を認識した信介は焦る。
信介たちの進むルートは象人間のいる方角と重なっており、また、象人間はこちらに向かってきていた。象人間を避けて、道を迂回するか。しかし、泰彦がどうなっているかがわからない以上、一刻も早く彼を探し出したかった。それに、片目を失い、不安定になっている実隆を連れている。この状況で果たして逃げ切れるものだろうか。
それならば――。
いっそのこと、象人間の横を突っ切ってしまえば、最短で象人間との距離を離すことができる。
そう考え、実隆の様子を窺う。すると、実隆はニッと笑った。
「まあ、いいんじゃないか。突っ切ろう」
実隆の承諾を得て、信介はできるだけ音を立てないように進んでいく。実隆が付いてきているかにも神経を使う。
しかし、細心の注意をしていたはずだが、象人間がこちらに気づいた。そんな予感がゾワッと湧き上がってくる。
「走るぞ」
実隆の腕を取ると、その場を駆ける。その瞬間、象人間の鼻が先程いた場所に迫っていた。
冷やりとしたものを感じつつ、とにかく全力で坂を駆け上る。
前回、象人間と鉢合わせた時には、どういうわけか姿をくらませた。同じことをやればいいはずなのだが……。しかし、なぜ象人間が姿を消したのか、思い当たるところがない。
「もしや、光か?」
以前、テントの中で放たれていたのは明かりではなかったか。
信介はヘッドランプにスイッチを入れ、振り向きざまに象人間に当てる。
しかし、そんなことはものともせずに、信介たちに向かって迫ってきていた。
「それなら音だ」
テントの中での信介たちの話し声、それが象人間を退けたのだろうか。
信介は渾身の力を込めて叫び声を上げた。
「アオォォォォッ!」
しかし、目に見える効果はない。
「ダメだ、逃げるしかないか」
焦る信介の袖を実隆が引っ張る。
実隆の顔からは眼帯が外されており、洞のようにただ穴の開いた眼窩が露わになっていた。
「ここに立っていればいい」
信介は訳はわからなかったが、実隆には有無を言わせない迫力があった。彼の言うままにその場に佇んだ。
象人間は彼らの元に近づいてくる。その鼻が信介に襲い掛からんとしたが、その次の瞬間には象人間は姿を消していた。
もはや、その姿は全く見当たらない。振り切ったようだった。
「一体、何をどうやったんだ?」
信介が実隆に問いかける。
「ああ、あれは……」
実隆は答えようとするが、急に何かに恐怖したように脅え始める。そして、嗚咽のような声を漏らし始めた。
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