⑩脱出
「伏せろ! そして、頭を守るんだ! 崩落を警戒しろよ!」
恐怖を打ち消すように、信介が叫んだ。
その声に反応するように、実隆も泰彦もかがみ込み、上方をザックで防御する。
地震の際にまず避けるべきはパニックになることだ。洞窟内で地震に遭遇するなど、そうあることではないが、今にも洞窟が崩れ落ちるような恐怖を感じることだろう。しかし、こういう時こそ落ち着いて行動するべきだ。
信介たちのいる大空洞は人間の歴史よりも古くからあるものだろう。長い年月をかけて現在の形状に至ったのだ。瓦礫が崩落することはあっても、洞窟自体がすぐさま埋め尽くされる可能性は少ない。
まずは自分の身を守り、揺れが収まってから退去するのがセオリーである。
しかし、彼らには情報がなかった。
この洞穴がどこまで続いているのかわからなければ、どこに出口があるのかもわかっていない。さらに、実隆によって大空洞が崩れ落ちるという不吉な予言がなされている。否が応にも最悪の事態を想定してしまう。
そんな中で、その場で地震が過ぎるのを待つという信介の指示は英断であった。だが、それでも彼らに押し寄せる不安を掻き消すことはできない。
誰も口には出さなかったが、このまま大空洞が埋もれ、自分たちもそのまま死ぬ、そんな事態が脳裏によぎっていた。
「地震、終わったか」
揺れが収まると、泰彦がぼそりとつぶやいた。
周囲を見渡しつつ、信介は「そうだな」と同意する。
「このまま進む。だが、油断するな」
信介が宣言し、彼らは道を進む。その歩みは今まで以上に慎重なものになった。崩落が遅れて起きる可能性もあるし、より道が荒れた可能性もあるからだ。
しかし、それでも着実に進んでいく。こうした時、歩みが遅いことはさほど問題にはならない。遅さによるロスなど時間にしてみると誤差に過ぎず、前に進み続けることこそが重要なのだ。
時折、横穴や分かれ道に遭遇するが、信介はカモシカの足跡を見極め、出口に近いと思われるルートを選択した。
焦り過ぎず、適宜休憩を設け、水分とカロリーを回復させる。
そして、ついに洞穴の奥から光が漏れ始めた。大空洞の出口なのだろうか。
「光が見えた。出口かもしれないな。だが、まだ油断はするなよ」
彼らは光の差す方へ向かった。慎重に足元を確認し、頭上を警戒し、前に勧めるかどうか注意する。慎重に進むことは怠らなかった。
光の正体が出口であることが徐々に明らかになる。三人の心にも喜びが溢れてきた。
信介は出口の様子を窺う。出口は切り立った崖のようになっていた。
「うわぁ、俺、高いところダメなんだよなあ」
泰彦が出口を見てぼやく。
それを横目に見つつ、信介はしっかりした岩を見つてロープを括り付けた。そして出口の崖にロープを垂らす。
「ここを降りるしかない。泰彦、お前から降りるんだ」
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