雛之丞誕生日小説 第1話 2月8日雛之丞の誕生日

作:ますあか


(雛之丞視点)


毎日の訓練が終わった帰り道、住み処の前に矢文が刺さっていた。


ぼくは警戒しながら、手紙を開く。


【会場に来られよ】


???


どういう手紙だ、これは。


もしや、他クランからの襲撃の予告状とか?


ぼくはさっと焙烙玉(ほうろくだま)を用意する。


忍びはいつ襲われてもおかしくない。


ならば、勇気ある忍びと評される自分が対処しなくては。


いつ襲われても、爆撃で反撃できるように。


「とりゃああ」


そう言って、呼び出された空き家に突入した。


中には誰もいなかった。


しかし背後から迫っている者がいる。


ぼくは焙烙玉ほうろくだまを構えて、勢いよく振り向いた。


「ちょっと雛之丞! 落ち着けって!」


風太さんがあわてた様子で後ろに立っていた。


「風太さん、何やってるんだよ」


「いや、『くらっかー』なる物を試してみたかったんだが、お前さんがより物騒な物を出してきたから、慌てたんだ」


「えっと、なんで『くらっかー』を用意しているの?」


そのとき、暗かった部屋にぱっと明かりがついた。そして、パンッ、パンッ音が鳴る。


「雛之丞、お誕生日おめでとう!! 一度これをやってみたかったのよ」


サットヴァ様が急に現れた。


そして手には【くらっかー】を持っている。


サットヴァ様はとても満足げな顔をしている。


「お誕生日、誰の?」


「君だよ。雛之丞」


そう言って、柴が耳を押さえて入ってきた。柴犬の忍びだから音に敏感なのだろう。


続いて、猫又も部屋に入ってきた。


「そうか、今日は2月8日。ぼくの誕生日か」


でも忍びって誕生日とかお祝いしないんじゃと思ったが、サットヴァ様の登場で察した。


どうやらこの人が発案者なのだろう。


「さて、主役の雛之丞はこちらに座ってくれ。柴、座布団を取ってきてくれ」


「了解」


普段祝い慣れていない忍びのみんなは、がんばって準備をしていたのだろう。


ちょっと気恥ずかしいような、でも嬉しいような気持ちになりながら、座った。



※  ※  ※



(雛之丞視点)


「まあ、素敵な料理ね! よく煮たアワに煮干しもあって、日の本って感じの食事だわ」


サットヴァ様は目を輝かして、食事を見ている。


食事の内容は、アワ、煮干し、米、青菜やトウモロコシなど、ぼくの好みの食べ物が揃っている。


里芋の煮転がし、味噌田楽なんかは箸が進みそうだ


「和食中心に準備したんですよ」


「いいね、日本酒にあったつまみが多い。酒が進みそうだな!」


「はい、風太さん。酒は雛之丞にお祝いの言葉を言ってからですよ」


「わってるよ。さて、今日は雛之丞の誕生日だ! 盛り上がっていこうぜ」


お調子者の風太さんが、かぶいたように口上を言った。


「「「「「お誕生日おめでとう! 雛之丞」」」」」


「ありがとう」


ぼくはこういう会に慣れていないが、とても嬉しい。


「今日はプレゼントを用意できなかったんだ。何を用意すればいいか分からなかったから」


「だから、あとで欲しい物を教えてくれ」


猫又はぼくに向かってそう言った。欲しいものか、何だろう。と考えていたとき、猫又が


「あと、イチヤと凪紗から伝言」


伝令のスペシャリストである忍びイチヤ。


彼は彼が書く虹色の文字は世界中に伝令を届けることができる。


タイミングよく、イチヤからの伝令が届いた。


空中に虹色の文字が浮かぶ。


【お誕生日おめでとうございます。凪紗】


凪紗らしい、控えめな文章だ。心なしか虹色の文字の色合いが落ち着いている気がする。


【お誕生日おめでとう!!! 


 今度直接お祝いさせてくれ! イチヤ】


そして歌も一緒に響いてきた。


【ハッピーバースデートーユー。ハッピーバースデートーユー。


ハッピーバースデーディアひなのじょう!


ハッピーバースデートーユー】


バースデーソングか。イチヤは歌を伝令で伝えることができるから、準備してくれたのか。


なんだか、嬉しいな。



※  ※  ※



(猫又視点)


「よくイチヤと連絡が取れたな。けっこう距離が離れていたろうに」


「イチヤほどじゃないが、風遁を使える俺だって、そこそこ伝令としちゃあ優秀だろ?」


風太は風遁の術を使って、イチヤに連絡を取ってくれたらしい。すでに酒樽をサットヴァ様と一緒にひとつ空けてしまっている。なんと、すごい酒豪だろう。


酔っ払って、赤くなった顔で風太はこう言った。


「お祝いの言葉が一番のプレゼントなんだよ」


俺はやっぱり、風太はやるときはやる人だなと感心した。これで酒に酔っていなければ、かっこよかったのに。



※  ※  ※



(サットヴァ視点)


サットヴァは感動していた。


弁天の歌とは異なる、真心こもったイチヤの歌が心に響いたからだ。


こうして、身内で食事を囲むのもなんだか素敵だ。


この前のハヤテの誕生日とは真逆な「ばーすでーぱーてぃー」だが、これも趣があって良い。


落ち着いた「ばーすでーぱーてぃー」に、私はすっかり満足していた。


そして考える。


これはもっと他の忍びの「ばーすでーぱーてぃー」も参加したい。


もっと他の「ばーすでーぱーてぃー」も見て見たいのだ!


そうしたら、とてもすごい「ばーすでーぱーてぃー」を開催することができるかもしれない。


サットヴァの「ばーすでーぱーてぃー」の探求は、まだまだ続く。

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