第4話 1月25日ハヤテ誕生日②

作:ますあか


(ハヤテ視点)


どうやらサットヴァは、この誕生日会に満足しているようだ。


それにしてもカルラと弁天殿には、頭が上がらない。


俺ができるとしても食事を用意するくらいで、バースデーパーティーを盛り上げる術を知らなかった。


深夜に頭を抱えていた俺を心配したカルラが、急遽弁天殿を呼んで演奏を披露してくれると言ったのだ。


こんな無理な頼みを聞き入れてくれたカルラと弁天殿には、本当に感謝している。


弁天殿にはいくらか謝礼を用意したが、


弁天「せっかくの誕生日なんだからいらないわ。また今度依頼をくれたときにでも払ってくれたらいいわよ」


そう言ってくださった。


なんて慈悲深い忍びだろう。


俺はこの演奏だけで感無量だ。


そしてナルカミ。


おまえ、会場の飾り付け一番大変だっただろうに。


しかし俺の使い魔は、よくできた使い魔だった。


何があったのかすぐに察したようで、


ナルカミは【任せてください、主!】と言ってすぐに準備に取りかかった。


本当によくできた使い魔だ。


今度なにかご馳走を用意しよう。


そんなことを考えながら、辺りを見渡した。


皆食事も終わり、談笑に入っているようだ。


しかし困った。


これ以上、この誕生日会を盛り上げる催しがない……。


その時だった。


パンッ、パンッ


銃声にしては、やけに軽い火薬音が辺りに響いた。なんだ?!


餡音「師匠、誕生日おめでとうございます!」


酉花「誕生日おめでとう!」


そう言って、クラッカー片手に弟子と後輩の忍びが俺の元へやってきた。


ハヤテ「えっと、ありがとう」


餡音「はい。私からいつもお世話になっている師匠へ、ささやかなプレゼントです」


そう言って、餡音はケーキを持ってきた。


おいしそうだ。


餡音は料理がとても上手で、鼻においしそうな甘い匂いが漂ってくる。


そう言えば、誕生日会の進行に気を取られて、満足に食事も取れていなかった。


餡音が作ったケーキだし、安心して食べられそうだ。


ハヤテ「ありがとう、いただくよ」


俺はフォークでケーキを切り、口の中へ運んだ。


クリームの中に柑橘系の甘みがアクセントになっていて、甘すぎずちょうどよい甘さだ。


俺の好みを知っているからか、調整してくれたのだろう。


餡音ありがとう。今日、開催してよかったよ。


心の中で呟く。


俺がケーキを食べているのを余所に、餡音は落ち着きのない酉花に話しかける。


餡音「ほら、今でしょ! 渡しなよ」


酉花「わ、渡しづらい。ちょっと待って。やっぱり、後で渡す」


ハヤテ「酉花、どうした?」


酉花「プ、プレゼント。あるんだけど、餡音みたいに用意できなかったから」


餡音「ええ! 酉花らしくて、いいプレゼントだと思うよ」


酉花「取ってくるからちょっと待ってて? あと、びっくりしないでね」


そう言って、酉花は会場を出ていった。


ハヤテ「餡音。酉花は何を用意したんだ?」


餡音「私が教えちゃったら意味ないじゃないですか! そんなに心配しなくていいですよ、確認しましたから」


餡音が確認したと言うからには、大丈夫だろうと俺はほっと安心する。


そして数分後に酉花が大きな袋を持って、会場に戻ってきた。


酉花「……これ、プレゼントです」


袋の中には獣の生肉が入っていた。


ハヤテ「えっと、これは生肉か?」


ナルカミ【肉ですね、すごくおいしそうです】


ナルカミが俺の元にやってきて、袋を凝視している。ナルカミの瞳孔が今にも食べたいと主張していた。


酉花「ナルカミの食事を用意したの」


ナルカミ【ありがとうございます、酉花殿!!】


ナルカミは嬉しさを隠しきれずに羽をバサッとばたつかせた。


なんとまあ、嬉しそうなことだ。


だが酉花の用はまだ終わっていないらしい。


酉花「あと、ハヤテにはこれ」


そう言って、おずおずと酉花は紙袋を渡してきた。


紙袋を開くと中に包みが入っていた。


丁寧にラッピングまでされているが、おそらく酉花の手作りのようだ。


酉花は目で開けてと訴えかける。


俺は黙って、ラッピングを開けていった。


ラッピングを開けると、鷹匠たかしょうが使用する餌掛けえがけが入っていた。


鹿革と手袋でできており、ハヤテにとってナルカミと接するのに必須の品だ。


これは、本当にありがたい。


俺が無言で喜んでいると、酉花は不安げに俺を見てこう言った。


酉花「いや、ハヤテの餌掛けがだいぶ古くなってるみたいだったから。


前に鹿を仕留めて皮にした物を使って、昨日縫ったの。


急いで作ったから、ちょっと雑な部分があるかもだけど……」


ハヤテ「昨日縫って、ここまで仕上げたのか? すごいなあ」


酉花「そうかな……? それに餡音みたいに可愛らしいプレゼント用意できなくて」


餡音「ええ、いいじゃん! とってもいいプレゼントだと思うよ。ねえ、師匠」


餡音が無言で「そうですよね?」と俺に圧を駆けてくる様子に、俺は思わず苦笑いする。


ハヤテ「いや、本当に嬉しい。ありがとうな、酉花」


俺がそうお礼を言うと、酉花は嬉しそうに笑った。



※  ※  ※


(サットヴァ視点)


サットヴァは感動していた。


天界からわざわざ遠路はるばるハヤテの「ばーすでーぱーてぃー」に来て、本当によかった。


そして私は、この「ばーすでーぱーてぃー」で学んだ。


「ばーすでーぱーてぃー」は誕生日を迎える者を皆でお祝いする催しらしい。


ハヤテには悪いことをしてしまったわ。


祝われる側に「ばーすでーぱーてぃー」の主催を頼んでしまった。


今度、ハヤテに贈り物をするとしましょう。


それにしても、「ばーすでーぱーてぃー」はこんな和やかな雰囲気で行なうのね。


素晴らしいわ!


私の気分は、春の温かな日差しのようだった。


でも他の忍びの誕生日はいつもこんな雰囲気なのかしら、他のクランだともう少し雰囲気が変わってくるものなの?


次の誕生日は誰だったかしらと考える。


そうね! 他の人の「ばーすでーぱーてぃー」をもっと見てから、自分の誕生日を決めましょう。


それと、今度は祝う側に開催をお願いしないとね!

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