飼い主は攻略対象者!?
再び保護猫カフェに戻ってきた私達をびっくりした様子で院長さんが駆け寄ってきた。
そうだよね、別れの挨拶をしたばかりなのに戻ってきたら驚くよね。
「院長さん、すみません。この子、怪我をしている上に腕から離れなくて。治療も兼ねてしばらくこちらにいても宜しいですか?」
「まぁ、セリーヌ様! それに、お連れ様……ですか? ええ、それは勿論構いませんよ」
院長さんは、私とリチャード、青年にその従者達とぞろぞろやって来たため、事情が飲み込めず動揺を隠せない様子ではあったが、奥の広い席に案内し治療グッズを一式持ってきてくれた。
保護猫カフェに初めて足を踏み入れた青年は辺りを見渡しながら私に話しかけた。
「このカフェは猫を連れて来てもいいのですか?」
「ええっと、本来は行き場のない野良猫や捨て猫達を保護するために作られた場所なので飼い猫はお断りはしていますが、リードを付けた状態であれば許可をしています。あ、でも他の猫達とトラブルになったりストレスになる場合はご遠慮いただくことがございますね」
「そういったコンセプトがあるのですね。随分詳しい様ですが、貴女はこのカフェの常連なのですか?」
「あ〜えっと、実はこのカフェを作ったのが私でして」
「……まだお若いにも関わらず、オーナーをされているとは素晴らしいですね。あ、申し遅れましたが、僕はマクシム・フォン・レイヤーと申します。先程の失礼な態度について改めて謝罪致します」
マクシム・フォン・レイヤーってことは、レイヤー公爵家の御子息様!?
レイヤー公爵家は代々宰相としての地位を確立している、唯一無二の名門家だ。
宰相としてその地位をして確立して来れたのは、教育に徹底した実力主義を敷いているためだと聞く。
具体的には、家督権を巡り子供達の間で競わせ、一番出来の良い者が公爵家当主として選ばれる、というものだ。
目の前にいるマクシム様は、そんなレイヤー公爵家の中でも才能が抜きん出ており、次期当主としての家督権を獲得したと聞いている。
あ、ちなみに、これくらいの知識はこの国の貴族なら誰でも知っている情報ね。
「まぁ、レイヤー公爵家の!? こちらこそ大変失礼致しました。私はセリーヌ・ド・ラルミナルでございます」
「ラルミナル伯爵家の御令嬢でいらっしゃいましたか。ああ、そう畏まらないで下さい。貴女、いや、セリーヌ嬢は愛猫を保護してくれた恩人なのですから」
マクシム様は、視線を私から白猫に移したのを見て、私はハッと前世の記憶を思い出した。
ああーー!! 思い出した!
この人、鉄仮面公爵じゃん!!
そう、彼は乙女ゲームのシナリオにあった攻略対象者の一人であり、私がこのゲームを買うきっかけになった人物でもある。
冷静沈着なツンツンキャラで攻略が難しく、その無表情さから『鉄仮面公爵』との愛称で呼ばれるキャラクターだ。
実際、この世界でもマクシム様は「無表情で全く感情が読み取れず、まるで鉄仮面でも被っているようだ」と噂される人物だ。
確か事前公開の情報では、選択肢を一つでも間違えるとバッドエンドになってしまうと書いてあったわ。それに加えて恋愛レベルも上げないと攻略出来ないらしくて攻略が難しそうだと思っていたのよね。
製作者が鉄仮面公爵のようなパーフェクト男子に対して嫉妬していたのだろうか?
なぜか鉄仮面公爵のルートだけバッドエンドルートが複数存在する。
他の攻略対象者はバッドエンドルートが一つしか存在しないのに、だ。
鉄仮面公爵は裏ボス的な位置付けだったのかしら。
「そろそろ僕のレティ、いや、猫は落ち着きましたか」
はっ! いけない、今は会話中だったわ!
「へ!? あ、猫ちゃん! そうですね、そろそろ落ち着いたと思のですが……って、あ!」
レティと呼ばれた白猫は急に私の腕からすり抜け、床でゴロゴロ寛ぎ出した。
その様子を鉄仮面公爵、いや、マクシム様は無表情のまま口を開いた。
「レティが私以外の者に気を許すだけでなく、家以外の場所で寛ぐなんて……いや、これは驚きました」
「レティちゃんは今までそういった経験がなかったのですか?」
「はい。家でも特定の場所以外は近寄らない上に、僕以外の者には一切触れさせない、気難しい性格でしたから」
「まぁ、そうだったのですね」
レティちゃんがそんな性格だったなんて。私にはベッタリだし、このカフェも気に入っているみたいだけど。
マクシム様は床で寛ぐレティちゃんを抱き上げた。
あ、今なら怪我の治療も出来そうね。
「マクシム様、レティちゃんの前脚を治療するので、そのままレティちゃんを押さえてくれますか?」
「分かりました」
私はレティちゃんの前脚をそっと手に取り、怪我の状態を確認した。
(血が滲んでいたから心配したけど、傷痕もほとんど分からないわ。これなら消毒だけで大丈夫そうね)
手早く治療を施していると、マクシム様はじっと私の手元を見ながら話しかけて来た。
「セリーヌ嬢は猫の扱いに慣れていますね」
「え、ええ。猫が好きなものですから。ほほほ」
前世では猫を飼っていました、とは流石に言えないので言葉を濁した。
「さ、治療が終わりました。あ!」
大人しく治療を受けていたレティちゃんだが、カフェスペースと猫達の触れ合いスペースを隔てる扉が開くや否や、マクシム様の腕からすり抜けて保護猫達の触れ合いスペース内に入ってしまった。
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